新たに袖を通すは-白-

 視界に捉えた瞬間、時間が止まったような錯覚を覚えた。


「ど、どうかな……?」


 おずおずとこちらの反応を控えめに窺うシラユキ。

 数秒、たっぷりと時間をかけて平静を取り戻し、


「あ、ああ……凄え似合ってるぞ。真面目に、ガチで」

「ほ、本当……!?」


 どうにか言葉を振り絞れば、シラユキは「良かったあ」と胸を撫で下ろし、小さく顔を綻ばせた。


 全身黒一色だった黒闇狼シリーズと違い、白闇狼シリーズは白を基調としていて、所々に黒のグラデーションがかかったり、黒い装飾が施されたツートンカラーとなっていた。


 まず全身を覆う純白のローブは胴体部分と袖が完全に分離しており、肩周りが大胆に開いているが、童話の赤ずきんが付けてそうなデザインをした白いケープフードのおかげで露出は大分抑えられている。

 それとローブが腰から下にかけて前開きに広がっていて、その内側には腰装備であろう白のスカートと、上部だけ白くグラデーションが掛かった黒のロングブーツが確認出来た。


 というかアレだな。

 なんつーか……防具が変わったら、滅茶苦茶雰囲気が変わったな。


 豹柄から白黒ツートンカラーになったことで、一気に大人びたというか垢抜けた印象がする。

 加えてアバターの白髪と銀の瞳が相俟ってか、より高潔な存在になったというか、神聖さが増しているようにすら思えた。


(……って、ん?)


 それからふと、シラユキが何か言いたげにしてこっちを見ていることに気がつく。


「シラユキ、どうかしたか?」

「へ!? え、えっと、その……あのね……ジンくんも、とても似合ってるよ」

「お、おう……そうか。サンキュー」


 面と向かって言われると照れ臭えな。

 ……というか、なんで今更になってこんな小っ恥ずかしくなるんだよ。


 前はもっとナチュラルに言えたっていうのに。


 内心、心境の変化に戸惑っていると、


「おーい、ジンムー。新防具見せてー!」


 部屋の外からひだりがひょっこりと顔を覗かせた。


「ひだり、いたのか」

「ずっといたよ! まあ、それはいいとして……うわー、全身真っ黒じゃん! なんとなくジンムって黒のイメージが付いてるから、今の方がジンムって感じがする」

「何だよそれ。言わんとしようとしてることは分からんでもねえけど」


 呪獣転侵を発動すれば、黒ずくめになるしな。

 それに今んとこのメイン武器は黒刀と黒い盾だし、俺=黒ってイメージがついてもおかしくはない。


「あとあれだね。何となくイメージは付いてたけど、シラユキちゃんとは白と黒で対照的になってるんだね」

「みたいだな。シリーズボーナスのスキルも対になってる奴がありそうだし」

「黒闇狼との共鳴のこと? ……あ、ジンムは白闇狼との共鳴か」


 その口振りだと、やっぱシラユキに対のスキルが付与されているようだ。


「いやー、それにしても……まさか固有スキルまでも変質するとは。しかも変化前よりもちょっと性能も強化されてるし。災禍効果恐るべしだねー」

「え、デフォで似たスキルあんの?」

「……やはり知らなかったか。元のシリーズボーナスには、赤炎狼との共鳴と青炎狼との共鳴というスキルがある。発動条件は一緒だが、そっちはステータスが僅かに上昇と記載されている」

「なるほど……つまり上昇する倍率が異なってるってことか」


 ああ、とライトは首肯する。


「正直、元のスキルは発動条件の割に恩恵が少ないから、強力なスキルだとは言い難い。だが、二人のそれは倍率が上がっているから、幾らか使い勝手が良くなっているはずだ」

「あー……だからさっき、あって困らなそうって言ったのか」


 ちょっと倍率が上がるだけで一気に化けたりする事もあるもんな。

 そもそも元のスキルも発動させにくいってだけで、弱いわけではないし。


「でも性能関係無しに人気高いよね、そのスキル」

「え、なんで?」

「なんでって……えっ、嘘でしょ。もしかして二人とも知らないでコヨトルの防具作ろうとしてたの!?」


 目を大きく見開き驚愕するひだり。

 隣でライトは、やはりな、と言わんばかりに何度も頷いている。


 すぐにシラユキと顔を合わせるが、シラユキもなんのことか全く分かっていなさそうだった。


 ——何だろう……もしかしなくても、めんどくせえ予感しかしねえ。


 奇妙な沈黙の後、やれやれと肩を竦めながらひだりは口を開く。


「テクトリコヨトルとシワコヨトルってさ、生涯にたった一度、たった一匹としか添い遂げないって設定があるんだよ。それこそ死が二人を別つまで……いや、死が二人を別つとも、ね」

「へえ、エグい設定してんのな」

「そう、エグい設定をしているわけよ。それでさ、テクトリコヨトルの素材では男性用の防具しか作れなくて、シワコヨトルの素材だと女性用の防具しか作れないようになってんだよね。つまりさ……何を言いたいか分かる?」


 最期までたった一匹としか番にならないゲキ重設定。

 それぞれ男女専用でしか作れない防具。

 そして、二人揃うことでようやく効果が発揮されるシリーズボーナス。


 これらのヒントから導き出されるのは——、


「つまり——男女ペアでの人気が高いってことか?」

「その通り。細かく言うと、カップル人気だね」

「「……え?」」


 俺とシラユキの声が重なる。

 それからひだりは、間髪置かずに続けて言うのだった。


「というか、あれだよ。テクトリコヨトルとシワコヨトルの防具を二人で装備してるとさ、自分達は付き合っていますって公言してるようなものだよ」




————————————

現在、ワンちゃん達の防具を装備している男女ペアの九割近くはカップルだったり。

ライトは素材を持ち込まれた時点で二人が何も知らないことは察していましたが、突っ込むのも無粋だろうということで、何も言わずにいました。

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