その返礼、特種につき

「あ”〜、やっと解放された……」


 二人から拘束を解かれたのは、あれから二十分後の事だった。


 間違いなく今日——日付回ったから昨日か——の配信よりも数倍は疲れた。

 肉体的にも精神的にも。


「いやー、面白かったねー!」

「だな! 現役高校生の青春話は盛り上がるな!」

「楽しいのはアンタらだけで、俺はちっとも面白くねえっての……」


 はあ、とため息。

 本当に根掘り葉掘り訊かれまくったせいで、どっと疲労感が押し寄せていた。


 黙秘権?

 そんなものこいつらには一切通用しなかったよ。


「つーか、モナカとダイワは好きな奴とかいねえのかよ?」

「え、特にいないけど」

「オレはノーコメントで」

「………………」


 なあ、こいつら一発くらいぶん殴っても許されるよな。

 ……いや、ガチで戦らないと避けられそうな気がするからいいや。


 それに形はなんであれモナカにはチャンネルをバズらせてもらったし、ダイワには死にかけたところを助けたもらった恩がある。

 物凄く癪ではあるが、今回ばかりは大目に見るとしよう。


「そう怖い顔するなって。色々教えてくれたお礼に耳寄りな情報教えるから、それで手を打ってくれ。な?」

「顔が怖えのは元からだ。……はあ、分かったよ。で、その情報って?」

「成功するかどうかは運次第だけど、ガッツリ金策が出来そうな場所とそれに関連してもう一つ」


 ダイワはそこで一度言葉を切って、


「災禍の七獣の一体——”宝君ほうくんエルドマム”について」

「「——っ!?」」


 おい……今、なんつった?

 俺の聞き間違えじゃなきゃ、災禍の七獣って言ったよな……!?


 アルカディア・クエストにおける最大の障壁の一つ。

 メインストーリーよりも更に数段階上回る難易度を誇るであろうハイエンドコンテンツ——災禍の七獣。


 未だその多くを謎に包まれた七枚のカードのうち、一枚が思いがけない形で俺らの前に提示された。


 咄嗟にモナカと顔を合わせる。

 モナカもいきなり投下された爆弾情報に目を大きく見開いていた。


「つっても、あくまでオレの相方が最近になってNPCから聞いた噂程度の情報なんだけどな。でも、それが本当だった場合……そこに宝君エルドマムは潜んでいる」

「……マジかよ」


 現在、災禍の七獣は天魔ネロデウスや緋皇ベルフレアみたいに二つ名+個体名で判明しているパターンと二つ名だけが判明しているパターン、それと二つ名すら掴めていない三つのパターンに分けられている。

 宝君はその内の二つ名だけが判明しているパターンであり、個体名まではまだ確認されていなかったはずだ。


 裏が取れないことには、はいそうですか、と素直に信じるわけにはいかないが、じゃあダイワがそんなわざわざ手の込んだ嘘をする人間かというと、それは確実に否ではある。

 しかし——、


「なんでそんな貴重な情報を俺らに……?」

「何、そんな大した理由はないぜ。単純にベルフレア攻略で手が回らないからってのと、同じゲームのRTAを走っているよしみとして、二人になら教えてもいいかなって思っただけだ」


 屈託の無い笑顔を浮かべてダイワは言う。


「もし詳しい情報を知りたかったら相方に話を聞いてくれ。モナにゃんならすぐ連絡取れるだろ?」

「うん! あま姉とはマブフレだからねっ☆」

「あま姉?」

「あまみお。俺の動画編集担当のことだよ」

「……ああ、そんな名前だったのか」


 動画編集担当ってイメージの方が先行してたから、今初めて名前を知った。


「こっちでもその名前でやってるから、これを機に覚えておいてくれ」

「分かった。頭に入れておく」

「ところで、ヒロぽんさんや。他の人達はこのことを知っているのかえ?」

「いいや、まだ他には教えてない。シュウさんとこは新大陸開拓の準備で忙しいっぽいし、Deerさんは教えたところで無人島から出てこないだろうし、KIDもコロシアムでのPvPにどハマりしてるところだからなあ」

「あー……そういやそうだったな」


 やっぱHide-T以外、我と癖が強すぎだろ。

 いやまあ、それ言ったら俺とダイワも同じ穴の狢なんだけどさ。






「——あ、ここからならテレポート使わなくても簡単にクレオーノに帰れるぞ」


 言いながら、ダイワがふと立ち止まったのは、切り立った崖の近くを通り掛かった時だった。

 身を乗り出し、地上を見渡してみると、遠くにぐるりと高い壁に囲われた街があった。


 その更に奥には巨大な渓谷も確認でき、渓谷を挟む台地には森林が広がっていた。


「あれは……クレオーノか。こっからだと結構小さく見えるな」

「あと思ったよりも距離ないんだね。確かにこれくらいならテレポート無しでいいかも」


 うずうずとした様子でモナカは装備しているクロスボウとナイフをインベントリに収納し、ピッケルを取り出す。


「……よし! ねえ、ぬしっち。どっちが速く下まで付くか競争しようよ!」

「いいけど、多分ステータス的に俺が勝つぞ」


 結構レベル差も開いてしまってるし。


「やってみなきゃ分かんないよ〜。ぬしっちの鼻っ柱をへし折ってあげる!」

「面白そうだな。オレも参加していいか?」

「いや、流石にダイワが参加したら勝負になんねえだろ」

「そうか? じゃあさ……ハンデで三十秒やるよ。それでどうだ?」

「「いいぞ(よ)、ぶっちぎってやる(あげる)!」」


 俺とモナカの声が綺麗に重なる。

 即答だった。


「じゃあ、オレの合図でスタートな。二人とも準備はいいか?」


 ダイワの確認に頷いて答えてから、俺とモナカは崖の端に立つ。

 それから準備が整った数秒後、


「よーい……ドン!」


 ダイワの掛け声と同時に俺とモナカは、スキルをフル活用しながら全速力で崖を駆け降りるのだった。

 そして三十秒後、本気を出したダイワに見事に追い抜かれ、そのままぶっちぎられるのだった。




————————————

Q.少なく見積もっても高さ数百メートルはある崖を駆け降りるとか、三人は馬鹿なのですか?

A.はい。三人仲良くまとめて馬鹿です。良い子は絶対に真似しないでください。無駄に落下死するだけなので。

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