解き放つは赤き獣の呪い
スキルの解放と共に深紅の業火がダイワの全身を覆い尽くす。
背中には炎の翼が生え、脚に纏う炎は猛禽類の爪を彷彿とさせる形状となり、加えて炎に微かに入り混じる形で熊さんよろしく漆黒のオーラも溢れ出ていた。
俺とは纏うものが異なるが、ダイワのそれは確かに呪獣転侵だった。
「そうか……Hide-Tが言っていた獣呪持ちってアンタのことだったのか……!!」
悪樓撃破の後、アルゴナウタエが俺らの前に姿を現し、その去り際にHide-Tが残した置き土産を思い出す。
——その時は緋皇の仕業だったんだけど、発端になったプレイヤーにある呪いを残したみたいだよ。
赤の呪い——『獣呪』をね。
「……ああ、そういやもうシュウさんに会ってたんだったな」
「シュウさんって……なるほどな。やっぱ知り合いだったか」
「まあな。でもまあ、詳しい話はあとだ。ジンムも身に染みて分かっているだろうけど、この状態にはタイムリミットがあるから……な!」
言い終えると同時、ダイワはさっきとは比べ物にならない速さで地面を駆け抜けて怪物同士の大喧嘩の中に飛び込んでいく。
ダイワが最初に標的に定めたのは、飛行コブラだった。
炎の斬撃を飛ばすアーツスキルを放って飛行コブラの動きを止めてから高く跳躍すると、そのまま空中でもう一度跳び、炎の翼を羽ばたかせて飛行コブラの元へと距離を詰めていく。
まさか直接飛んでくると思ってなかったのだろう。
飛行コブラは地上から一直線に迫り来るダイワに反応することができないまま一太刀、炎を纏った斬撃を浴びせられる。
「炎を扱う相手に火属性攻撃って相性悪くねえか……?」
しかし、耐性なんて関係ねえと言わんばかりに傷口から燃え上がる火炎は、飛行コブラに確実なダメージを与えていた。
「グガァァァアアアッ!!!」
そんな苦痛に悶える飛行コブラに更なる追撃を加えようと、ダイワが既に次の攻撃を仕掛けている。
空中で姿勢を整えると、右脚の炎の鉤爪でコブラもどきの首元を掴み、そのまま一度大きく振り回してから熊さん目掛けて飛行コブラをぶん投げた。
飛行コブラが自分の方へ飛んできていることに気づいた熊さんが、咄嗟に火柱を立てて途中で撃墜しようとするも、飛行コブラの勢いは衰えることなく火柱を貫通し、二体はそのまま激しく衝突する。
そして、熊さんも飛行コブラも激突した衝撃でノックダウンを起こし動けなくなったところを狙い、地面に降り立ったダイワが二体まとめて怒涛のアーツスキルを叩き込む。
最初に見せた一太刀の後に七つの斬撃を浴びせる技を始め、右左の順で六回斬り払いをしてから最後に一閃を放つ——まるでトリプルスラッシャーを強化したようなアーツスキル。
高速で通り抜けながら無数の斬撃を浴びせるアーツスキルの他に、一度地面に太刀を叩き付けた勢いで高く頭上に向かって跳んでから大上段の兜割りを放つアーツスキル、他にも蹴り技のアーツスキルを全てに業火を纏わせながら息をつく間もなく怪物二体にお見舞いしていた。
「やべえ……ボスクラス相手に一方的じゃねえか」
見ていて感じたことだが、ダイワの攻撃は見た目以上に手数が多い。
一度ヒットした後に追加で斬撃が発生するアーツスキルを多く使っているのは勿論のこと、通常攻撃でも多段ヒットする強化系のアーツスキルを発動させていたり、獣呪化している間は炎の追加攻撃も発生しているだろうから、DPS的には二刀使いと対して変わらない……いや、それ以上の火力を叩き出しているかもしれない。
それに加えて、もし獣呪の基本性能が俺のものと同じであれば——
「……当然、そうなるよな」
リキャスト大幅短縮による短時間でのアーツスキルの再発動。
あらかた習得しているアーツスキルを使い終わったと思った頃には、再度最初に発動させた技をもう一度使って攻撃を仕掛けていた。
恐らく、攻撃系のアーツスキルは一ループした辺りでリキャストが完了するように調整が組まれているのだろう。
「なるほど……セットする技にもよるけど、大体十個いかないくらいが丁度いい塩梅ってところか」
もしかしたらまだ見せていない攻撃系のアーツもあるかもしれないが、それでもそんなに多くはセットしていないだろう。
ダイワは間違いなく最上職のはずだから、そのことも考慮すると攻撃と補助のバランスは四対六程度にするのが最適解か。
「セット上限が緩和されてたら、もうちょっと補助系に枠を割いて三対七にもできそうだな」
思いがけず他の獣呪持ちのプレイヤーの戦闘を見学することになったが、貴重な先駆者の実戦デモンストレーションだ。
大いに参考にさせてもらうとしよう。
思った矢先、二ループ目の途中で熊さんと飛行コブラが無理矢理仰け反りを解除して動けるようになると、示し合わせたようにヘイトをダイワへと向ける。
さっきは三つ巴に近い敵対関係になっていたが、今はダイワVS熊さん&飛行コブラという構図が出来上がっていた。
だが、一対二になった程度でダイワが止められるとは思えない。
事実、熊さんがダイワの足元へ巨大な火柱を上げると同時に追従するように爆炎を放散させ、飛行コブラが雷が迸る灼炎の竜巻を放出するが、どれもダイワを捉えることはできなかった。
難なく怪物二体の大技を回避したダイワは、炎の翼をはためかせながら怪物共の背後へ回り込むと、ラウンドシュートを更に強烈にしたようなアーツスキルを奴らの頭部に叩き込んで怯み状態にさせてから、そのまま炎の脚で二体を掴んで全身を炎で焼き尽くしてから上空に放り投げる。
それから大太刀の切先に発生させた巨大な火球を空に打ち上げ、怪物二体を火球の中に閉じ込めると、地上をぐるりと回って助走をつけてからもう一度空に向かって駆け上がった。
そして、火球の更に上空まで駆けたところで一気に斜め下に向かって急降下し、閉じ込めた火球ごと一刀両断して地面に降り立つと、遅れて火球が大爆発を起こすのだった。
————————————
炎の翼は飾りなので飛行能力はありません()
装備やらアーツスキルやら諸々の恩恵によって飛んでいると見紛うほどの空中歩行が成り立っています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます