乱れる戦場、交わる個性

 地下道に続く入り口は、大聖堂に併設された修道院の庭の中にあった。


 昔は街の至る所に地下道への入り口があったとのことだが、色々あって殆ど埋めて塞いでしまったらしい。

 けど、大聖堂を始めとした何箇所かは塞がずに残してあって、理由は地下道で何かあった際にすぐに対処できるようにする為とのことだ。


 それこそ、今回みたいなエネミーの活性化みたいな感じにな。


「ここから先は魔物の巣窟となっています。危険と判断したのなら、構わず撤退して貰って大丈夫です」

「分かった。とりあえず、間引けるだけ間引いてくるよ」

「よろしくお願いします。ですが、その前に……少々よろしいですか?」

「……いいけど、急がなくていいのか」

「その点はご安心を。すぐに終わりますので」


 エリックは首元に下げた教会の紋章を象ったエンブレムを握り、告げる。


「——世の理に連なる神々よ、我が祈りを申し奉る。彼の者に宿し無辜の罰を祓い給え」


 瞬間、俺の胸元辺りに光が灯ると同時にポップアップが表示される。




————————————


[アーツスキル『呪獣転侵』の効果が一部変化しました]

[戦闘中、低確率で自動発動→戦闘中、極低確率で自動発動]


————————————



「おお……!」

「すみません、私の力ではこれが限界でして……」

「いや、これだけでも十分だ。ありがとな」

「いえ、礼を言われるようなことではありませんよ。引き留めてしまい、申し訳ありませんでした。それでは、お気をつけて。神々の導きが在らんことを——」






 ——地下道に入ってから三十分近くが経過した。


 地下道の入り口は人が二人並んで入れるかくらいの広さだったが、地下道自体は聖黒銀の槍を振り回しても余裕があるくらいには高さも幅も空間に余裕があった。

 ……それと想像していた以上にエネミーの巣窟と化してもいた。


「オラ、テメエら全員まとめてかかってこいよ!!」


 憤怒の投錨者アンガーアンカーを発動し、周囲にいる骸骨の亡霊スカルゴースト布切れを被ったような亡霊クロスゴースト毒蛇ポイズンスネーク二足歩行可能な大ドブネズミウェアラット巨大蜘蛛ビッグスパイダー——とにかくそこら辺のエネミー全てのヘイトを一手に引き受ける。


 ジョブを武者にしたことで戦士の時よりもVITが下がってしまったが、代わりにAGIが上昇しており、パラ補正もSTRとAGIに変更されたおかげで、以前よりも機動力が上がっている。

 加えて落花瞬衛、パリングガード、リフレックスステップと防御系アーツが三つに増えたことにより、ガードも回避も格段にやりやすくなっていた。


 というか、元から被弾イコール致命傷の紙防御だから、VITダウン&補正消失が実質デメリットじゃなくなってるんだよな。


 そんな訳で敵の攻撃を一箇所に集めつつ、カウンターを叩き込んで確実に一体一体撃破していく。

 ——スカルゴーストとクロスゴースト以外は。


「チッ……! こいつら物理攻撃が効かねえのクソダルいな……!」


 霊体だからなのか、こちらの物理攻撃は綺麗にすり抜ける。

 だけど向こうの攻撃は何故か実体を持っていているので、喰らえばしっかりダメージ判定があるというクソ仕様を押し付けられていた。


(なんで急にテックみが出てきてんだよ……!)


 これでガードもすり抜けとかもついてたらガチで面倒なことになってたが、落花瞬衛とパリングガードが有効だったのはせめてもの救いだろう。

 とはいえ、霊体系と生物系のエネミーの出現割合で半々な——なんなら霊体系の方が若干多い——せいで、いつまで経っても防戦一方のままで戦況は進んでいく。


 しかもリポップするまでの間隔が短いせいで、時間が経つにつれて憤怒の投錨者でもヘイトを集めきれないくらいにゴースト二種の数は増えていき、遂には俺を無視して後衛に直接襲い掛かる奴も出始めていた。


 俺とシラユキだけで挑んでたらほぼ確実に詰んでいたと思われる。


 だが——こっちには俺ら以外に頼れる味方が二人もいる。


「ほら、こっちだよ! 僕が相手だ!」


 俺の後方で陣取っていた朧が挑発を発動させる。

 対象は俺が捌き切れなかったエネミーたち。


 十分なスペースを確保できないせいで、投刃の強みである投擲による遠隔攻撃は活かせていないが、朧には天性とも言える回避能力がある。

 これによって第二の防波堤となり、シラユキに狙いがいかないようエネミーを押し留めていた。


 しかし、朧も俺と同じく物理攻撃しか攻撃手段を持たない。

 生物系のエネミーはカウンターを当てることで数を減らせるが、ゴースト二種はそうはいかない。


 このままでは俺の同じ轍を踏むだけだ。


(そう、このまま……ならな)


「やあっ!」


 ——青いオーラを纏った掌底が、朧の近くにいたスカルゴーストをブッ飛ばした。


 近くを駆け回るのは小さな影。

 影が走り抜ける度、二種のゴーストは放たれる掌底に打ち抜かれ、ものの見事にポリゴンとなって四散していった。


「ありがとう、チョコさん!」

「どういたしましてです。フフン、どんどんちぃを頼ってくださいな。どや」


 小さな影の正体——チョコは、その俊敏な動きに見合わぬゆっくりとした喋り方でドヤ顔をかましながら、すぐにまた朧の周辺にいるゴーストを撃破して見せた。


 チョコのジョブは、格闘士系上位職の一つ——気功術士。

 高いSTRとAGIが特徴だった格闘士から方向性を一転し、MPの上昇とINT、AGI補正に舵を切った一風変わったジョブだ。


 それと適正は闘氣——MPを消費し、魔力を用いた肉弾戦を得意とするいわば物理型近接魔法ともいえる攻撃方法だ。

 中々クセの強そうな戦い方ではあったが、実体を持たない相手も捉えることが可能で、ゴースト二種に対してかなりの有効打となっていた。


(まさか朧とチョコのコンビネーションがこんなにハマるとはな……)


 予想外だったが、おかげでシラユキに一切のヘイトを向けさせずに済んでいた。

 そして、それはシラユキが術を発動し放題ということに他ならない。


「——浄陣・燦華!」


 俺を中心にして足元に円陣が生まれる。


 刻まれし円陣から放たれるのは浄化の光。

 刹那——俺以外の光に触れたエネミーは、たちまちポリゴンへと消えていった。


「サンキュー、シラユキ! 助かった!」


 浄陣・燦華。

 味方プレイヤーにとってはただの発光エフェクトに過ぎないが、エネミーにとっては致命傷となる輝きだ。


 多分、威力はリリジャス・レイには及ばない。

 けど、乱戦が繰り広げられている中で周囲を巻き込む恐れのないこの方陣術は、現状においては最適解とも呼べる範囲攻撃となっていた。


 ここまでしておいて未だ防戦一方。

 だが確実に形勢は、逆転しつつある。


 それを証明するかのように、俺らの前に通常種より二回りほどデカいウェアラットが出現した。


 大きさからして恐らくドン個体だ。


(生物系……なら、イケる!)


 リフレックスステップとスプリングブースト起動——AGIに補正がかかったダッシュによって一気にドン・ウェアラットに肉薄する。


「悪いが、アンタにはサンドバッグになってもらうぜ」


 続けてフィルスビーターを起動、頭部目掛けて盾震烈衝をぶっ放す。

 盾を叩きつけられたことでドン・ウェアラットの動きが止まる。


「こちとらずっと防御ばっかで、フラストレーションが溜まってたもんでなあ!!」


 更に起動するのはコンボリワード+ラフファイト、頭部にラウンドシュートを叩き込む。

 すかさず三浪連刃で連撃を重ね、駄目押しに守砕剛破でドン・ウェアラットをぶっ飛ばす。


 今までだったらこれでコンボが途切れていたが、


「まだ終わらねえぞ!!」


 シールドスロー——盾をぶん投げて追撃をかけ、フライングキックで距離を詰めながら攻撃を畳み掛ける。


 狙いは当然、頭部。

 投擲した盾も助走をつけた飛び蹴りもどちらも綺麗に命中する。


 そして、立て続けに打撃系のアーツを喰らいまくったことで、ドン・ウェアラットはスタンに陥っていた。


 横方向へ踏み込みながら斬撃を放つアーツ——ホライズフラッシュを発動しつつ、落ちた盾を拾い、パシュートヒッターも起動。

 俺は行動不能になったドン・ウェアラットを一方的に蹂躙してみせた。




————————————

スプリングブースト

 ダッシュにAGI補正。


フィルスビーター

 殴打系の攻撃にSTR補正。


コンボリワード

 敵が行動するまでの攻撃を当てた際に、若干のダメージ補正。コンボが繋がるほど効果量が上昇。


ラフファイト

 武器を使わない攻撃にSTR補正。


パシュートヒッター

 行動不能状態の敵に対するダメージ補正。


DPS、タンク、ヒーラー。

役割に関わらず、自己バフの重ね掛けは重要です。

攻撃と補助、バランスに気をつけてスキルを構成しましょう。

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