術技を組み替えて、遭遇するは一悶着

 術技設計屋アーツデザインスタジオ

 今までに習得したアーツスキルを現在セットしているアーツスキルと組み替え、再構築を行う場……要は、アーツスキルの調整場だ。


 メインの利用目的はそれになるが、他にも条件が整っていればスキルを進化させることが出来たり、"〇〇の心得"っていうアイテムを購入することで、新たなアーツを習得することが出来るらしい。


 そんな訳でやって来たのは、冒険者ギルドと同じ建物に併設された小さな施設だ。

 多分、よくあるコンビニの三分の二くらいのスペースしかないだろう。


 前回、冒険者ギルドに訪れた時に寄らなかったのは、単に行く理由が無かったし、中に入る為の扉が別々になっていたからだった。


「さてと、さっさと済ませちまおうか。シラユキも利用してみるか?」

「うーん……私は外で待ってるよ。まだまだスキルの枠は余ってるから」

「そうか。じゃあ、速攻で終わらせて来るから待っててくれ」


 言って、扉に触れる直前に振り向いて、


「……それと、ナンパには気をつけろよ」

「う、うん……?」


 急に何を、と言わんばかりに頭に疑問符を浮かべるシラユキ。


 いや、お前……数日前に粘着男らにナンパされてただろ。

 ……マジで速攻で終わらせよう。


 心に誓って、俺は建物の中に入ることにした。


「いらっしゃい。知恵の梟像のご利用で?」

「ああ、使えるか?」

「なら一回500ガルね」

「はいよ」


(何気に利用料金あんのな)


 店番のちょっと無愛想なおっちゃんNPCに料金を支払ってから奥へ進むと、木の枝に止まる梟の像がいくつか並んであった。

 知恵の梟像……どうやらあれを操作してスキルの操作を行うらしい。


「やり方は……やればなんとなく分かるか」


 とりあえず一番近くにあった知恵の梟像に触れてみる。

 すると、目の前に俺が今までに習得したアーツ名が書かれたウィンドウが表示された。


 ウィンドウの中は左右二つの枠に分かれていた。

 左の枠に書かれているのが現在セットしているアーツで、右の枠にあるのがセットリストから外れているアーツのようだった。


 恐らく、これらを入れ替えることでセットするスキルの調整を行うのだろう。


「へえ……こうして見ると、結構スキルを習得してたんだな」


 剣技、盾技、槍技、格闘技、自己強化……まあ、色んな武器に手を出してればこうもなるか。

 それにスキルセットが上限に達してからレベマになるまでの間、クァール教官をかなりのハイペースで馬鹿みたいに周回して倒してたもんな。


 ま、早いところ再構築を済ませてシラユキの所に戻るとしよう。




————————————


PN:ジンム Lv:2

所持金:2912ガル

PP:2

ジョブ:武者(盾使い)

サブジョブ:格闘士(蹴脚使い)

セカンダリージョブ:放浪者


HP:65  MP:18

ATK:160  DEF:170

SATK:9  SDEF:56

SPD:88  TEC:50

STR:87  VIT:17

INT:9  RES:18

AGI:73  DEX:35

LUK:25

アーツスキル

・盾震烈衝Lv1 ・守砕剛破Lv1 ・シールドスローLv1 ・三浪連刃Lv1 ・ホライズフラッシュLv1 ・ラウンドシュートLv2 ・フライングキックLv2 ・落花瞬衛Lv1 ・パリングガードLv1 ・リフレックスステップLv1 ・憤怒の投錨者Lv1 ・フィルスビーターLv1 ・パシュートヒッターLv1 ・スプリングブーストLv1 ・ラフファイトLv1 ・ドッジカウンターLv1 ・コンボリワードLv1 ・呪獣転侵Lv3


装備

武器1:雷牙の盾

武器2:雷牙の剣

頭:雷豹の兜

胴:雷豹の戦衣

腕:雷豹の手甲

腰:雷豹の穿物

脚:雷豹の半長靴

アクセサリー:-

アクセサリー:-

シリーズボーナス:ATK、SPD、TEC+15、雷属性強化(中)、雷属性耐性(中)


————————————




(……とりあえず、ざっとこんなところか)


 戦闘の基軸になるアーツは残しつつ、可能な限りの自己バフ系のアーツを搭載してみた。

 代わりに今まで世話になってきたパワーキックにハードアッパー、ジャンプスラッシュ、それとストレートジャベリンにはレギュラーを外れてもらった。

 あと全く使ってないけど、槍系アーツのアサルトスラストにも。


 槍系のアーツを両方外したのは、今後の見据えてのことだ。

 現状、俺の最強武器は聖黒銀の槍ではあるが、これよりも強い武器を入手した場合、使用頻度はまずガクッと落ちるだろう。


 別に槍がメイン武器って訳でもないしな。

 だったら他の攻撃技に枠を回した方が賢明というものだ。


 代わりに新たな攻撃技としてシールドスロー——多分、名前的に盾を投げつけるアーツを組み込んでいる。

 試しにしばらく運用して、使い勝手が悪ければストレートジャベリンを再度セットするつもりだ。


 蹴り技二つもセットリストに残しているが、多分どっちかは——今のところフライングキックを——外そうとは思っている。

 ジャンプスラッシュとアサルトスラストもそうだったけど、リフレックスステップ……朧も習得している一瞬だけ回避性能を向上させるアーツを習得した以上、移動系の攻撃は無理に搭載する必要もないだろう。


 とはいえ、まだスキルレベルが2だし、もう少しの間は様子見で使ってみようと思っている。

 外す外さないの判断を下すのはそれからだ。


 それとスキルレベルがMAXになったアーツは、一通り進化させてみた。

 結果、シールドバッシュは盾震烈衝しゅんしんれっしょう、バリアーナックルは守砕剛破しゅさいごうは、トリプルスラッシャーは三浪連刃さんろうれんじん、ジャストガードは落花瞬衛らっかしゅんえい、それから挑発は憤怒の投錨者アンガーアンカーに名称が変化した。


 挑発は別枠として、他の技名が揃って漢字になったのはクラスアップしたジョブの影響か……?


 戦士からクラスアップする際、派生先として三つの選択肢があった。

 一つは騎士、もう一つは重装兵、あと一つが今、俺が選んでいる武者だ。


 武者にした理由は置いておくとして、ジョブ名が和風だからそれが関係している可能性はある。

 もし騎士とかにしてたら、技名ひいては性能も変わったりしたのだろうか。


「……ま、いいか」


 調整も終わったことだし、早いとこ外に出るとしよう。


 ちなみに、調整ついでにアーツの心得を購入できるか確認してみたが、一つのアーツにつき15000ガルとかしたから速攻で諦めました。

 シラユキに所持金を預けてるから持ち合わせが足りなかったし、そうじゃなくても流石に値段が高過ぎた。


「悪い、待たせた……って、シラユキ?」


 さっきまでいたはずの場所にシラユキの姿がない。


(あれ、どこ行った……?)


 不審に思うも、周囲を見渡して、すぐに発見する。

 技術設計屋のすぐ隣、冒険者ギルドの入り口にいた。


 ——だが、


「……うっわ、なんかトラブってるな」


 シラユキの他にそこにいたのは、如何にも出会い厨っぽそうな雰囲気がプンプンする男プレイヤーと栗色の髪の小柄な少女プレイヤーだ。

 シラユキが男プレイヤーと少女プレイヤーの間に割って入いるように立っているのを見るに、最初は男プレイヤーと少女プレイヤーで問題が起きていたってところだろう。


「こういう時は黙って通報がベターなんだけどな……」


 ぼやきながら近づくと、会話が聞こえてくる。


「いいじゃんか。俺とこの子の問題なんだから、余計な口挟まないでくれよ」

「そうはいきません。さっきから見てましたけど、この子の行く手を阻んでまで無理矢理声をかけてましたよね?」

「はあ? 何勘違いしてんだよ。俺はそんなことしてないっつーの」


 シラユキの詰問に、しらばっくれるように男は鼻を鳴らす。


 あー、なるほど。

 事情は大体掴んだ。


「……あ、そうだ! だったら君も俺と一緒に一狩り行こうよ。大丈夫、悪いようにはしない」

「よう、人の連れ相手に楽しそうなことしてんじゃねえか」

「あ? 急になんだよ……ヒッ!?」


 俺の顔を見た途端、ナンパ男の顔が一気に青褪める。

 ただ笑って話しかけただけなのに失礼な奴だな。


 ただまあ、これなら話を聞いてくれそうだし、これはこれでいいか。


「なあ、アンタ。このゲームの仕様は知ってるよな?」

「し、仕様……?」

「度を過ぎた出会い厨行為をしたプレイヤーに対するペナルティだよ」


 シラユキと初めてプレイした日の後、俺を粘着してきた連中を通報するついでに調べたことだ。


「基本、運営はプレイヤー同士のいざこざには無干渉だけど、通報されてその内容がペナルティを課すのに値すると判断すると、そのプレイヤーの全てのログを確認すんだよ」


 ゲーム開始時点から現在に至るまで隈無く全部な。


「それで余罪が見つかれば、その分のペナルティも一気にのし掛かる。もし、前から同じようなことをしてたとなると、下手すりゃ垢バンされるくらいまでペナルティが重くなるんだけど、アンタ……それを分かってやってんだろうな?」

「えっ、あの……その……」


 初めて知ったのか、ナンパ男はまごつきながら慌てふためく。


 垢バンは少し盛ったけど、この反応を見るに常習犯だな、こいつ。

 つーかこれでビビるんだったら最初からすんなよ。


「はあ……今回は見逃してやるから、分かったならさっさとどっか行きな。けど……次はねえぞ」

「は、はいぃ!! すみませんでしたぁぁぁ!!」


 最後だけ男に聞こえる程度の声量でドスを利かせるように告げると、男は一目散にどこかへ走り去って行った。


「ふう……ペナルティ関連のこと調べておいて良かった。……と、シラユキ大丈夫だったか?」

「私は大丈夫。それより……あなたの方こそ大丈夫だった?」


 シラユキが視線を投げ掛けたのは、ナンパ男が話しかけていたであろう栗色の髪の少女。

 のほほんというかぽわぽわとした雰囲気を纏ったプレイヤー……チョコは、こくりと頷いて、


「はい、大丈夫です。ぶいぶい」


 一切の焦りを感じさせないゆったりとした口調で、ダブルピースをしてみせた。


「ちぃだけではどうしたらいいのか分からなかったので、助かりました。お二人ともありがとうございました」




————————————

プレイヤーの迷惑行為で最も重い処罰が下されるのは、

誹謗中傷、出会い厨行為、虚偽通報の三つです。

粘着やリス狩りも度が過ぎればペナルティの対象になりますが、PKの関連なのでそこまで処罰は下されないです。

出会い厨、直結厨行為に及ぶプレイヤーは初心者が多いアポロトシア〜クレオーノ南区に多いです。というかそこにしか出没しないです。ある程度ゲームに慣れたプレイヤーが多いところでやると速攻で通報からのペナルティの(アカウントの)デスコンボが発生してしまうので。

ちなみに主人公はハッタリで垢BANも有り得ると言いましたが、あながち間違いではないです。

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