質疑応答、呆気なく走り終えて

 尻尾による薙ぎ払いを跳んで躱し、振り下ろされる右腕は盾で受け流す。

 スキルも何もないただの防御ではあるが、プレイヤー本体に当たらない限りは当たり判定にならないおかげで、簡単に軌道を逸らすことに成功した。


 ……今更だけど、普通に盾の性能もぶっ壊れてるよな。

 ガード技術があれば大抵の物理攻撃はノーダメで凌げるとか、マジでイカれてやがるよ、このゲーム。


 だが、魔王の攻撃はまだ終わりではない。

 右腕を振り下ろした直後、魔王は大きく口を開くと、俺の頭を目掛けて喰らいつきにかかってきた。


 ——初見殺しの即死技。


 こいつを避けるのに失敗すると、HPが満タンだろうがステータスがカンストしてようが、そのまま頭蓋を噛み砕かれて即死となる。

 しかも、その際頭部全体に強い圧迫感が生じるし、ぐちゃぐちゃとかゴリゴリとかそんな生々しいSEが耳元で聞こえてくるわで、最悪の感覚を味わうことになる。


 ついでにヒロインが胴体だけになった主人公を見て、絶望に染まり切った悲鳴を上げて[GAME OVER]の画面に切り替わるクソ演出付きだ。


 厄介なのは、なんも前触れもなくこの攻撃を仕掛けてくることか。

 何も知らずに戦っていたプレイヤーは、大体引っ掛かるというクソ感たっぷりの初見殺しだ。


 だが――


「――予備動作が長えから、見てからでも間に合うんだよ!!」


 魔王の牙が俺の頭蓋を捉えようとした刹那、魔王の顔面にバリアーナックルを真似た全身全霊の盾殴りを叩き込む。

 盾に攻撃力は無いからダメージを与えることはできないが、攻撃の軌道を逸らすには十分だ。


 狙い通り、ぶん殴られたことで攻撃の軌道がずれた魔王の顔面は、俺の真横を通り抜け、そのまま勢いよく地面に激突した。


 こうなってしまえば、ほぼ俺の勝利は確定となる。

 というのも、魔王が齧りつきをしてくるようになるのは、残りHPが十パーセントを下回るのが条件だからだ。


 ついでに齧りつき直後は、次の行動までに移るまでのクールタイムが長くなる。


 HPが残り僅かな中で無防備な状態を晒せばどうなるか。

 答えは簡単——、


「これで終わりだぁぁぁ!!」

『ぐわあぁぁぁぁぁっ!!? 馬鹿なあぁぁぁ!!?』


 最後に二連の上段回し蹴りを魔王に叩き込めば、これで戦闘終了。

 そして、一旦視界が暗転してからムービーに移行した瞬間、タイマーストップだ。


「……っし、クリア。タイムは『1時間11分23秒』か。折角ならゾロ目狙いたかったな」


 普通に戦ってれば間違いなく『1時間10分』切りは確実だったけど、まあいいや。

 いつかまた走ることがあれば、その時に狙うとしよう。


(……ほぼ確実に当分走らねえけど)


「あ、そうだ。コメント欄って今どうなってる……? 『GG』――ありがとう、悪くない走りを見せられたと思う。『主さん、戦闘上手すぎw』――これでも一応、JINMUの走者なんでね。多分、また何かのカテゴリで走ることあると思うから、その時は良ければ遊びに来てくれたら嬉しいです」


 そういやアルクエ始めてから全然JINMUプレイしてないな。

 今はアルクエが最優先ではあるけど、たまに帰省しないと腕が鈍りそうだから近いうちにまた配信で走るとするか。


「『GG! それにしても主、戦ってる時のテンション変わりすぎだろ』――なんか本気で戦うと自然とこうなるんですよね。前にハイになるのを抑えようとしたら、なんかよく分からないけどパフォーマンスが思うように出せなかったから、それ以来アドレナリンが出始めたらそのままテンションに従うようにしてます」


 昔はハイになることなんて無かったんだけど、JINMUやり込んでいるうちに自然と戦ってるとテンションのギアが上がるようになったんだよな。

 そのことに自分でも気づいてはいたけど、ハイになった方がタイム良いから気にしないことにした。


 戦闘中ハイになるのを抑えるのとタイム短縮。

 どっちを取るかなんて天秤にかけるまでもないだろ。


「『GGでした。完走した感想を一言お願いします』――目標タイムは切れなかったけど、いい蹴り技の練習になりました。それとこの配信を見てる方でお金に余裕があれば、是非このゲームを買って遊んでみてください。ストーリーとか色々アレだけど、RTAとしては初心者でも簡単にできる作品なので」


 まあ、これ有名実況者がブチギレながら攻略した実況動画が滅茶苦茶バズった影響でプレミア価格ついてんだけど。

 こいつを買う金があったらJINMUを買うか、アルクエを始めた方が間違いなく有意義だ。


 そう考えると親父、すげえ良いタイミングでこのゲーム買ってきたなと思う。

 例のブチギレ実況動画が投稿されたのが、親父が買ってきた数日後のはずだったから。


 コメントを返しているうちに場面はラスボスと対峙していた謎の空間から、ルーフェが暮らす国の王城へと変わっていた。

 タイマーはもうとっくに止まっているが、まだエンディングの最中であり、現在は謁見の間でルーフェが王位を継承するシーンとなっている。


 主人公は突っ立ってるだけで問題ないから、このままコメント返しを続行する。


「次は……エムエムか。『主、そういえばアルクエ始めてたっぽいけど、アルクエの配信はしないの? あとGG』――GGおまけかい。でもまあ、ありがとよ」


 あれ、配信でアルクエ始めたって言ったか……あー、前にコミュニティに投稿した悪樓レイドの人員募集のアレか。

 あの記事はもうとっくに削除してたけど、そうか……アレを見てたのか。


「それとアルクエの配信なんだけど、今のところはないな。RTA要素もないし、個人的に遊ぶつもりだ」


 勿論、これは建前だ。

 本当の理由は、災禍関連のコンテンツに足を突っ込んでいる以上、下手に配信して情報を漏洩させてしまうのを避けるためだ。

 あと単純にプレイヤーネームを見せるのが恥ずいってのもある。


 もしネロデウスを討伐できたのなら配信を解禁するかもしれないが、大分先のことになるだろうな。


 もしサブ垢が作れるんだったら自分でカテゴリ考えてRTAとかしたかったけど、ないものねだりをしても仕方ないか。


 とりあえずタイトル画面に戻るまでコメント返ししたら、配信を止めてアルクエにログインするとしよう。


「……えーと『主さん、今JINMUやってるって言ってましたけど、JINMUの自己ベってどれくらいですか?』――」




————————————

RTAにおける魔王シュバルツナイトメアの攻略法

1.ルーフェに魔法『スロウストーン』を発動させて、魔王を石化状態にする。(5分動けなくなる)

2.青髪の少女(ノルン)に魔法『ヘイスターズ』を発動させ、全員の素早さを上昇。

3.あとは全員で一斉に取り囲んで魔王のHPがなくなるまで蹴り飛ばす。

これで攻略完了! GAME CLEAR!


ちなみに石化しないとクッソ面倒な戦い+パックンチョの餌食になります。

ブチギレ実況を投稿した人物は、初見で見事にパックンチョされて発狂してました。

「クソがああ!! !何が希望の夜明けだよ!? こんなん絶望の真夜中じゃねえかよバーカ!!」

フルダイブ型VRじゃなくてディスプレイ全盛の時代だったら、間違いなく台パンかましてましたね。

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