初の散策にて
飯を食い終わってからも少しの間、親父とクソゲー+RTA談義を交わした後。
それぞれの
集合時間までまだいくらか時間があるし、思えば街にいる時って基本、宿屋に籠るか目的地に立ち寄ってからすぐにフィールドに出るかの二択で、まともに街の中を見て回るってことはしてこなかったからな。
折角だし、見納めとして適当にぶらつくのも悪くないだろう。
「それにしても……レイドに挑む奴らが多いせいか、ちょい空気がピリついてんな」
さっきからすれ違うプレイヤーの表情がどことなく硬い。
多分というか間違いなく原因は、レイド戦が発生している事態そのものではなく、その戦いを観に来るであろう『アルゴナウタエ』の存在だ。
リーダーのレイアが最も活躍した者をクランに加入させる——などという爆弾を投下してくれやがったおかげで、悪樓討伐に向けた動きは一気に活発化したが、代償としてたった一つの枠をかけた仁義なき椅子取りゲームが生まれてしまっている。
悪樓を倒すには他プレイヤーとの協力は不可欠ではあるが、パーティーの中で一番活躍しなきゃならないわけだからな。
クラン加入を目指すプレイヤーは、胸中穏やかではないはずだ。
確かにゲームを始めていきなりトップクランに入れるっていうのは魅力的な誘いではあるけど、だからってそこまでして躍起になる必要ってあんのか?
……いや、あるからこうなってんのか。
道中のレベリングに金策に装備集め、その他諸々を超効率で進行させて、尚且つ攻略最前線まで一気に駆け上がれるまたとないチャンスが舞い込んできたんだ。
本当に『アルゴナウタエ』の連中が試験に合格したプレイヤーをクランに加入させるかどうかは別として、挑戦してみる価値は十二分にあるはずだ。
「——けど、その貴重な一席は椅子ごとぶっ壊すけどな」
俺とシラユキの二人で発生させたからには、俺達の手でケリをつける。
『アルゴナウタエ』と入隊試験に挑もうとする奴らには悪いが、そういうのは別の機会に、俺とは関係ない所でやってくれ。
つらつらと考えながら足を動かしているうちに、ふとあることを思う。
(……クラン、か)
今はどこかに所属することも自分で立ち上げることも考えていないが、この先ずっと無所属のままでいるかどうかはまた別の話だ。
規模に関係なくクランに所属することによって、幾つかの恩恵を得られるようになり、一人でやっていくよりも確実に攻略がやりやすくなるからだ。
なので、その内誰かしらとクランを結成するなり、どっかしらに入れて貰いたいところではある。
しかし、ネロデウス討伐を目標に掲げている以上、組むにしても相手は慎重に選ぶ必要がある。
「理想は……まあ、
フリーの生産職でゲーム内知識にも長けていて、何よりネロデウス関連の情報を他プレイヤーよりも持っている。
これほどクランを組むのにうってつけの人物などそういないだろう。
「……つっても、実際に組めるかどうかは別問題だけど」
立場的に考えてどっちに選ぶ権利があるかといえば、間違いなく後者だろう。
向こうが首を横に振った時点でこの話は終わりだ。
加えて、もし二人がクランを立ち上げることを了承してくれたとしても、他に解決しなきゃならないこともあった。
初期メンバーの確保だ。
クランを立ち上げるには、初期メンバーが最低四人以上揃えなきゃならない。
つまり、どうにかしてあと一人メンバーを集めないといけないわけだ。
じゃあ誰か適任がいるのか。
先に結論から言うと、いる。
「——当然、シラユキになるよな」
災禍関連のフラグになっているかもしれないユニーク称号(推定)持ち。
今後、ネロデウス討伐に本腰を入れていくとなると、シラユキは是非クランに引き入れておきたい。
(けど、それで本当にいいのか……?)
シラユキのことだ。
恐らく、誘えばクランに入ってくれるだろう。
だからって、俺の我儘に付き合わせて良い理由にはならないはずだ。
本当に彼女の為を思うのなら、たまに一緒にプレイするくらいの関係でいた方が良いんじゃないか。
パーティー解散したからといって、もう二度と一緒に行動を共にしないというわけでもないしな。
(だとしても、俺は——、)
そこまで考えたところで、ピタリと足を止めた。
視界の先——通りかかった町外れの小さな広場にシラユキの姿を捉えたからだ。
「よ、こんなところで何してるんだ?」
「へ……えっ、ジンくん!? ジンくんこそどうしてここに?」
まさかここで遭遇すると思ってなかったのか、シラユキの瞳が大きく見開く。
「軽い散策だよ。まだ集合時間まで余裕があるし、今までろくに街の中を歩いてこなかったからな」
「あ……言われてみればそうだね。ジンくん、準備をしたらすぐに街の外に移動してたもんね」
言いながら、ふふ、と小さく笑ってみせる。
「……と、そうだった。私が何をしてるかだったよね。少し前から、この子たちの相手をしてたんだ」
「この子たち……?」
視線を追ってみると、まだ七、八歳程度であろう子供のNPCが三人、シラユキの陰に隠れていた。
「——もしかしなくても、クエストか?」
「うん、この子のお父さんが帰ってくるまで一緒にいてあげるってクエストみたい」
三人いる子供のうち、眼鏡をかけた気弱そうな少年を横目にシラユキは答える。
「なるほど、そういうことか。……しかしまあ、なんでもクエストになり得るのな、このゲーム。あと一応聞くけど、狙ってやったってわけじゃねえよな?」
「まさか! 本当に偶然だよ。……もしかしたらそうなるかも、とはちょっとだけ思いはしたけど、でもそれ以上にこの子が寂しそうにしてたから放っておけなくて」
「だよなあ」
損得勘定抜きに人助けをするようなお人好しだからこそ、【アトロポシアから感謝を賜る者】なんて称号を入手できたんだろう。
じゃなきゃ、称号の存在はとっくに知れ渡っているはずだし。
(……まあ、それはいいとして、だ)
子供たちが少し怯えた表情でじっと俺の様子を窺っている。
というより、明らかに俺を警戒しているようだった。
……うん、これはもしかしなくても完全に怖がられてるわ。
以前、顔向けただけで思いっきり泣かれた子供と同じ顔しているからすぐに分かった。
流石は天下のアルクエ。
子供NPCの挙動まで完璧リアルに再現してくれてやがるな、こん畜生。
「ねえ、おねえさん。あの男の人、おねえさんのおともだち?」
「そうだよ。ジンくんっていうの」
「……わるい人じゃない?」
「大丈夫、ちょっとだけ顔は怖いかもだけど決して悪い人じゃないよ。安心して、お姉さんが保証するから」
シラユキが子供たちに優しく微笑みかける。
おい……いや、人相が悪いのは事実だから何もツッコめねえわ。
子供たちは、少し訝しむような眼差しで俺とシラユキの顔を交互に見やっていたが、やがて意を決したようにゆっくりと俺の前に姿を現した。
「……おにいさんもいっしょにいてくれる?」
「ああ、お前たちが嫌じゃなきゃな」
子供らの視線に合わせるように軽く屈んで答えると、いつだかのようにポップアップが出現するのだった。
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[クエスト『パパが帰ってくるまで』を受注しました]
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プレイヤーの見た目によってNPCの初期評価は多少変動しますが、大事なのは行動です。
どれだけ善人そうな容姿だったとしても、接し方が悪ければ速攻で好感度は下がりますし、逆に悪人面だったとしても、正しく接すればすぐに好感度は上がります。
見た目と行動のギャップは、好感度の変動幅に大きく影響するということです。
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