森の主、逸れ雷豹

 シラユキを抱えたままボスフロアの中に侵入すると、数秒を待たずしてフロア全体を半透明の光の障壁がドーム状に覆い尽くす。


 分かっていたことではあったが、一難去ってまた一難。

 プレイヤーからの襲撃から逃れたすぐ後にやって来るのは、アルクエ初めてのボス戦だ。


 え、蝕呪の黒山羊?

 あれは正規ルートじゃねえしノーカンだろ。


 俺個人としては今の状況は、ぶっちゃけ滅茶苦茶テンションが上がっている。

 流れでこうなったとはいえ、やっぱボスと戦うのは胸が滾る。


 ただ——シラユキには何の準備もなくいきなりボス戦に挑ませるわけで、それに関しては大変申し訳なくはあった。


 けど、あいつらから逃げるにはこうするしか無かったからなあ。

 だけどやっぱ返り討ちルート狙った方が良かったか……?


 いや、とにかくまずはシラユキに謝るべきか。


 シラユキを慎重に地面に降ろしながら、


「——悪かった。面倒なことに巻き込んじまって」

「……ううん、気にしないで。元はと言えば、ジンくんと合流する前に私が絡まれちゃったのが原因だから」


 シラユキはそう言うものの、俺に背を向けて顔を合わせようとはせず、若干声も震えている。

 けど仕方ねえか、好きでもねえ男に急に抱き抱えられるとか普通に嫌だもんな。


 内心凹みはするけど、今はそんなことを気にしていられる余裕はなさそうだ。

 突如として獣の咆哮がフロア内に轟くと、木々の間から体長三メートル近くあるネコ科を思わせる容姿をしたエネミーが飛び出てきた。


「……っ! 早速、お出ましみたいだな」


 ストレイクァール。

 豹を彷彿とさせる斑点を持ち、体長と同じくらいの長さのある鞭のような二本の髭を口元から生やしたこいつが、パスビギン森林のエリアボスだ。


 高い俊敏性と電撃を操る能力を有し、戦闘の基礎が固まっていないと中々勝てないことから、プレイヤーの間ではクァール教官なんて呼ばれているらしい。


 本当ならこいつを相手に隊列戦闘の練習をするつもりだったが、そんな悠長なことを言ってられそうにないな。

 想定外の状況に歯噛みしつつも、頭の中で即興でチャートを組み立て、シラユキに大まかな指示を出す。


「——シラユキ。戦闘準備だ」


 ちょっとだけ声を掛けるのに勇気がいるが、それこそ、んなこと言ってられねえ。


「いきなりボス戦をやらせることになって申し訳ないが、やることは今までと一緒だ。常に敵との直線上に俺を挟むように立ち位置を調整して、隙を見て術で援護。発動するのは、エナジーショットだけでいい。細かい指示は戦いながら出すから、その時はそっちを優先してくれ」

「……う、うん!」

「よし、それじゃあ後ろは任せた!」


 そして、最後に空欄になってしまった左手の装備武器をブロードソードに戻して、俺はストレイクァールの元へと突っ込んだ。






————————————


PN:ジンム Lv:19

所持金:3057ガル

PP:0

ジョブ:戦士(盾使い)

-

HP:57  MP:19

ATK:51  DEF:37

SATK:8  SDEF:16

SPD:51  TEC:22

STR:45  VIT:24

INT:8  RES:16

AGI:51  DEX:22

LUK:15

アーツスキル

・シールドバッシュLvMAX ・ジャストガードLv7 ・ジャンプスラッシュLv5 ・パワーキックLv6 ・挑発Lv3 ・トリプルスラッシャー ・ハードアッパー ・バリアーナックル


装備

武器1:青銅の盾

武器2:ブロードソード

頭:-

胴:村人の服

腕:-

腰:村人のズボン

脚:村人の靴

アクセサリー:-

アクセサリー:-


————————————




 攻略情報によると、ストレイクァールの基本的な攻撃パターンは、上半身を食いちぎる勢いの噛みつき、洒落にならん威力の猫パンチ、帯電鞭髭ビンタの大きく三つに分かれている。

 それとは別に怒り状態になることで一時的に鞭髭に纏う電気が強くなり、直線上もしくは扇状範囲での放電攻撃が加わる。


 放電攻撃は属性攻撃でかつ麻痺を付与する効果もあるから厄介だが、モーションが見極めやすいから初見だったとしても対応できなくはない。

 だけど、マジで先に攻略情報を確認しておいて良かったと心底思う。


 行動パターンが分かっているだけで攻撃の対処が段違いに楽というか、シラユキに出す指示を迷わずに済む。


「――下がれ! 電撃が来る!」


 ストレイクァールの鞭髭に帯電していた雷が増大するモーションが発生した後、地面が扇状に光るとすぐさまその範囲内に電撃波が放たれる。

 俺はストレイクァールの横に回り込んで放電を回避しつつ、シラユキが被弾していないことを確認してから、電撃波が消滅すると同時にシラユキの直線上に立つように位置を調整する。


「どうした!? 当たってねえぞ!!」


 タゲ集中が途切れないよう、こまめに挑発をかけ直しておく。

 このスキル文字通り言葉に出して挑発しないと効果を発揮しないようになってるのはよくできていると考えるべきなのか、めんどくさい仕様と捉えるべきなのか。


 まあ発声だけで効果を発動させられるからいいか。


 強制的に注意を惹きつけられたストレイクァールが俺の方に振り向いたタイミングに合わせ、額にシールドバッシュを叩き込む。

 発動後、すぐさま新たに習得したスキル——ハードアッパーで顎を思い切り突き上げる。


 立て続けにアーツスキルを頭部に喰らったことで、ストレイクァールがスタン状態に陥いった。


「オッケー! まずは一回目!」


 昨日の蝕呪の黒山羊戦でずっとバカスカ盾で殴りまくっていたからか、戦闘終了後にはシールドバッシュのスキルレベルが最大に達し、威力もスタン性能もかなり向上していた。

 おまけに新たに盾殴り系のスキルを二つ習得したことで、更に盾での火力が底上げされ、スタンも取りやすくなっている。


「シラユキ、今なら遠慮なく術ぶっ放していいぞ!」

「分かった。――エナジーショット!」


 シラユキから放たれる光弾に巻き込まれぬよう、少しだけ距離を取りながらもう一度ストレイクァールの側面に回り込む。

 光弾がストレイクァールに命中してからジャンプスラッシュで斬りかかり、三連の斬撃を浴びせるトリプルスラッシャーで更に追撃をかける。


(後はスタンが解けるまでひたすら攻撃を叩き込む!)


 剣と蹴りでダメージをちまちま稼ぎながら、盾殴りでスタンを狙い、スタンになったらラッシュで一気に畳み掛ける。

 ぶっちゃけ、やってることは蝕呪の黒山羊と戦ってた時と同じだ。

 けどこれが一番効率的というか、基本的なバトルスタイルやお決まりのコンボがあるとないのでは、立ち回りの安定度がかなり変わってくる。


 即席でオリチャーを作って行き当たりばったりな戦いも悪くはないけど、そればかりだと疲れるからそういうのはたまにでいい。

 だから、そのうちシラユキにも戦闘中の軸となる行動を確立してもらいたい、なんて密かに思ってたりしている。


(――その為にもまずは、サクっとこいつを倒さないとな)


 数秒後、ストレイクァールのスタンが解け、再度怒り状態に移行する。

 瞬間、周囲にバチバチと大量の電流が放出した。


「へえ、まだへばらねえってか。なら……こっちもギア上げてかねえとなあ!!」


 今一度、気を引き締め直してから、もう一度スタンにさせるためにシールドバッシュをぶちかますのだった。




————————————

エリアボスは攻略推奨人数までは強さが固定ですが、それ以上になると、パーティー人数に合わせてHPが増えます。

頭数だけ揃えるのは逆に難易度を上げる要因になってしまいますが、ちゃんとした戦術を組めば多人数の方が早く狩れるので、パーティーメンバーが多いに越したことは無いです。

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