勇者で最強だけどパーティを追放されました。
カワサキ萌
第1話 パーティを追放されたよ!なんでだよ!理由を話せよ!
「このパーティを抜けて欲しい」
それは唐突に訪れた解雇通告だった。
冒険者パーティ「銀の鏃」は最高ランクのS級に匹敵すると言われるほどの実力のある、新進気鋭の今もっとも勢いのある冒険者パーティだ。
結成からわずか半年足らずでB級ランクにまで昇り詰めるという、まさに破竹の勢いで成長しているパーティでもある。
そんな銀の鏃のメンバーは、目の前のリーダー各であり、剣士であるレードルド、俺の幼馴染であり治癒魔法の使い手であるメルリナ、ハーフエルフで弓の使い手でもあるナレイヌ、魔術師のグルッグ、そして勇者の素質を持つ俺ことリオルの5人で構成されているパーティだ。
そう、一体なんの因果か知らないが、俺には勇者の素質がある。
「ちょっと待ってよ。銀の鏃は俺あってのパーティだろ!こんなこと言いたくないけどさ、俺がいたから最速でBランクパーティにまで成長したんじゃないのかよ!それなのにパーティを辞めろってどういうことだよ!」
「うーん、それが問題なんだよな」
「え、どういうこと?」
そういえば、なんか今日の他のメンバー、ちょっとよそよそしい。いや、前々からなんか妙な雰囲気があったんだよなあ。
「あのさあ」
リーダーのレードルドはやけに言いにくそうな態度で、それでも言葉を口に出した。
「ちょっと早くない?」
「なにが?」
「いや、だから昇進のスピードが。俺がイメージする冒険者パーティってさあ、なんかいろいろと苦楽をともにしてさ、みんなで協力しあって、頑張って、必死に努力して昇格する感じなんだよねえ」
それは俺も思う。
「でもさあ、お前がいると、すっげえ簡単にクエスト達成しちゃうからさあ、なんか達成感が無いんだよねえ」
「いいじゃん、簡単に昇進できて」
「いや、いいよ。悪くはないんだよ。たださあ、あんまりすぐにB級に昇格してさあ、このままその勢いでAランク、いやこのままだとSランクまで行きかねないだろ。それが嫌なんだよねえ」
「…それの何がダメなの?」
言うべきか、それとも言わないべきか、そんな悩ましい態度を取る目の前の男。リーダーはなんだか気まずそうな表情を浮かべつつ、「重くない?」と口にした。
「俺さあ、冒険って好きだよ。でもさあ、Sランクまで行くとさあ、なんか責任重くない?いや、そのぶん報酬が上がるのはわかるよ。でもさあ、ぶっちゃけBランク程度の報酬で満足してるんだよねえ。別にそこまでお金が欲しいわけではないんだし、これ以上ランクを上げるメリットがあんまり無いっていうか、なんなら危険度が上がる分、リスクが高くて嫌になるんだよねえ」
「お前、そんな悩み抱えてたの?」
知らなかった。てっきり俺は、リーダーはもっと向上心がある野心的な男なのだと思っていた。っていうか俺が調子に乗ってドラゴンとか狩ってランクを上げたせいで解雇されそうになっているってこと?
「いや、お前がさあ、ドラゴンの首を剣で一刀両断した時なんてさあ、正直引いたね。こいつ、強すぎじゃね?って。こんな奴と危険なクエストしてたら、お前は平気かもしれないけど、俺みたいな普通の剣士からすると命がいくつあっても足らないんだよな」
「なんでだよ!ドラゴン倒してなんで悪口言われないといけないんだよ!だいたいお前ら、あの時すごいって喜んでたじゃん!そうだよな、メルリナ!」
こんなのあんまりだよ。誰もが成しえなかった偉業を成し遂げたのに文句を言われるだなんてあんまりだよ。俺は救いの手を求めるかのように幼馴染のメルリナに意見を求めた。
「いや、私も正直、引いたかな」
「ええ、お前も?」
援護はなかった。
「だって子供の頃から知っている幼馴染がさあ、実はドラゴンすら倒せるぐらい強い奴だったなんて、うーん、ドン引きだよね。それに私もう子供じゃないし。あんまり危険な冒険とかもうしたくないかな」
「お前、そんなこと考えたの?」
知らなかった。昔、森の中で遭遇したゴブリンを素手だけで殺した時、あんなにもキラキラと目を輝かせていたのに。まさかドラゴンを倒したせいで大好きな幼馴染にの女の子にドン引きされていたなんて。
「それにね」メルリナは続けた。「私、しばらく冒険には出られないんだ」
「え、なんで?」
「妊娠したから」
「え、そうなの。おめでとう…あのー、そのー、えっと、誰の子」
「俺の子だ」
パパはリーダーだった。
「…君ら、いつの間にそんな関係になったの?」
「あれはそうだな。お前たちが銀の鏃に入って、一週間ぐらい後のことかな?」
その時期といえば、確かメロオ山のオーガの群れを退治していた時だな。俺一人で。
その時俺は、メルリナに良いところを見せようと必死になってオーガどもを狩っていた気がする。
「あの時さあ、お前が一人でオーガの一団を殲滅してて俺たち暇だったろ?だからさあ、メルリナと一緒に麓の町で遊んでたんだ。その時ぐらいかな。付き合い始めたのは」
二人が仲良くなったキッカケを作ったのは俺だったようだ。まさか大好きな幼馴染に良いところを見せようとしたせいでこんなことになるとは。いろんな意味でショックだよ。
「ということでさあ、これ以上ランクを上げられて危険なクエストとかやりたくないんだよね。しばらくは簡単なクエストをこなしつつ、ゆっくり貯金とかしたいんだよ」
「お前、ふざけんなよ!じゃあ一緒に魔王を倒そうって言ったあの目標はどうするんだよ!そうだよな、みんな!」
俺は同意を求めるため、ナレイヌとグルッグを見る。
「え、そんなの知らないけど?」
「初耳だな」
同意は得られなかった。
ナレイヌは俺よりやや年上の、お姉さんタイプのハーフエルフ。エルフの血筋ということもあってか、整った顔立ちをしている綺麗な美女だ。
「ていうかメル、妊娠してたんだ!実は私もなんだ!私たち、付き合ってるだよね、ねー、グルッグ!」
「ああ、まさかお前たちも付き合ってたとはな。奇遇だな!」
魔術師のグルッグはなにが面白いのか、ハッハッハッと豪快に笑った。
へえ、二人って付き合ってたんだあ。知らないのは俺だけかあ。
そっかあ。パーティで付き合ってないのは俺だけだったのかあ。勇者ってモテないんだな。
「いやあ、実はさあ、私たちもね、こうなっちゃったし、もう危険なことはできそうにないし、冒険どうしよかって迷ってたんだ。ちょうどよかったね!」
「まったくだな。まさかお前たちも子供ができてたとはな!これはめでたいわ!よーし、こんなめでたい日はぱーっと飲んで旨い飯でも食うか!」
「う、うん。そうだな、めでたい…よな」
うん、確かに会話の内容はとてもめでたいことばかりだ。でもなんでだろう、なんか腑に落ちないよな。
「というわけでリオル。このパーティを抜けてくれないか?」
「今そんな会話の流れだったか?」
おかしい。パーティの女性メンバーの妊娠が発覚したことと、俺がパーティをクビになる事との間に一体どんな因果があるというのだ?
「俺たちもう、ゆっくり冒険がしたいだ。ドラゴンとか魔王とか、そういう危険なことは勇者に任せればいい。つまりお前のことな。俺たちをそんな危険な冒険に巻き込まないで欲しいんだ」
「そんな…俺頑張るから。みんなに迷惑がかからないように俺、頑張るから!だから一緒に冒険しようよ!」
「いや、それならもう一人で冒険した方が効率よくない?」
「正論はやめろよ。傷つくだろ」
「はは、よく言うぜ。100人以上の盗賊団に襲われた時だって怪我一つしなかったじゃねえか」
「まったくだぜ!お前みたいな強いやつが傷つくわけないだろ!」
「そうだよね。傷つくところ見たことないよ。私治癒士なのにまったく仕事したことないもん!」
「そうだな、勇者がいると私たち、なにもすることなくて暇なんだよなあ」
まるで和気あいあい、とても仲の良い冒険者パーティのように歓談に耽る男女たち。
「というわけで、パーティ抜けてくれ。もうお前のペースにはついていけないんだよ。大丈夫だよ、お前ぐらい強ければ、きっとすぐ他のパーティに入れるって」
一体どこで間違えたのだろう?
勇者の素質があるとわかったあの日以来、俺は…俺は…みんなの幸せのために、世界の平和を願って俺はがむしゃらに頑張っていたはずなのに。
平和な世界を目指して、毎日必死になって戦ってきた、そのはずなのに。
…いや、目の前の四人はすごく平和そうだし、俺の頑張りで平和が保たれているという事実に違いはないか。
そうなのだ。俺は間違っていないし、彼らも間違ったことは何一つ言っていないのだ。
すべて正論。もう正論のオンパレード。むしろ俺のおかげで彼らはBランクという社会的な地位も手に入ったし、最愛の家族もできた。まさに勇者が望む平和な世界そのものなのだ。
そう。勇者の力のおかげで周囲の人たちは確かに幸福で、平和な生活を実現した。
じゃあ俺は?
…あれ?勇者が作る平和の中に、俺は含まれていないのか?
「うん、そうだな。俺、このパーティ抜けるよ」
なんかどうでも良い気分になったので、パーティを抜けることにした。
よーし、こうなったら効率良く一人で魔王でも倒しに行くか!
ははは。なぜだろう。涙がこぼれちゃう…
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