第1章 早春の少女抄
1.大精霊の願い
――何て
喉を締め付けられるような恐怖が襲ってくる。
――こんな筈では……!
彼女は焦った。
右肩で支えている
自分達は、何と言っても、この世界を束ねる
故に負ける筈がない。
その自信が焦りを呼んだ。
この世界の調和。
それは
そんな世界に突如出没した『異物』が
『アニマ』と呼ばれる得体の知れない外来の存在が、この調和のとれた世界に突如侵入し、浸食を始めたのだ。
もちろん
それぞれの能力を駆使してこの『異物』の排除に掛かったが、『アニマ』より解き放たれた光の巨人『コラプス』が立ちはだかった。
『コラプス』……『アニマ』が生み出した
「まさに混沌……こんなのどうすれば?」
翼をはためかせ宙を舞い、ぐったりとした
『アニマ』の出現は、世界の秩序を根底から覆すものだった。
大地は割れ、海は荒れ狂い、空は暗雲に覆われた。生命の営みは混乱に陥り、精霊達の力だけではもはや制御しきれなくなっていた。
「それでも、彼女だけは……」
ユーフェミアは歯を食いしばった。
透き通る蝶のような形状の羽を大きく開き、天空を風に乗って駆ける。彼女のミントグリーンの長い髪がそれを追い掛けるようにたなびいていく。
「『シナノ』……貴女を一人にはさせない! 必ず連れ戻してあげる……貴女を待つ人の下へ……」
ユーフェミアは肩にぐったりともたれ掛かる
しかしシナノは、持てる力の全てを使い果たしていた。意識は失ったまま動くことはない。
さらに彼女の身体に変化が起こった。彼女の身体全体が白く光り出したのだ。
「まずい!『
状況は悪化の一途を辿り、ユーフェミアは焦った。
いつの間にか
この地での戦いにはもう決着が着こうとしている。我々の負けなんだと……だとすれば、今は戦略的撤退をし、捲土重来を果たすべきなのだ。
――その為には……貴女の力が必要なの! だからお願い! シナノ!
この光が消えてしまうと彼女の存在は本当に闇の中に消え去ってしまう。ユーフェミアは意を決して、自身の中に蓄えられているエネルギーを光に包まれている女性へと注ぎ込んでいく。
その瞬間、ユーフェミアの身体から青い光が溢れ出した。風を操る力が、シナノの身体に流れ込んでいく。しかし、それだけでは足りない。
周囲の空気が激しく揺れ動き、嵐のような風が吹き荒れる。それは、
「ユーフェミアさまぁ!」
「ダメだ! ダメですよぅ!」
彼女の周りを護るように飛び交う精霊達が驚愕した声を上げ、慌てるように周囲を忙しく飛び交っている。そんな精霊達にユーフェミアは笑顔を向けた。
「『アニマ』に対抗できるのは彼女なの……彼女と、もう一人……『
「だからってぇ!」
「消えちゃいますよぅ!」
精霊達の声は、既に泣き声になっていた。彼等を司る大精霊の存在はそれだけ大きいのだ。
「それでも……今の我等ができる事を精一杯やるしかない……」
ユーフェミアは、羽ペンと懐紙を取り出して何やら書き込んでいく。
”ノイルフェールの使徒にその身を託す。
その間にも光はますます強く光を帯び、それに反比例するかのようにユーフェミアの姿は薄く儚くなっていく。
「汝等精霊に命ず。この者を護り救え! これは我が命である!」
そう宣言した瞬間、光を放つ女性の姿がどんどん小さくなっていく。いったい何が起きているのか、精霊達には判らない。
答えてくれる筈の大精霊は、闇の中に消えゆく影のような儚さになっていて彼女を支える事は出来なくなっていた。
『シナノ』と呼ばれている女性の身体から放たれる光は、次第に青い色を帯びていった。
それは、ユーフェミアの力がシナノの中に流れ込んでいることを示していた。同時に、ユーフェミアの姿はますます透明になっていく。
周囲の精霊達は、悲鳴を上げながらもユーフェミアの意思を受け継ぎ、シナノを守るように取り囲んだ。彼らの小さな体から放たれる光が、シナノを包み込んでいく。
天空を覆っていた暗雲が、突如として激しく渦を巻き始めた。
それは、
「我が友を……任せましたよ……」
シナノは既に
「どうしよう!?」
「ユーフェミアさまは不滅だよぅ、だから」
「ぼくたちはこの人を」
「どこにだよぅ?」
「きまっているだろう!?」
「『彼』のところ……」
光が強まる中、『
直後に襲い来る黒い閃光が捉え、『時の
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