プロローグ
これから、とある一人の女性の話をしよう。
世が平らかであったなら、彼女は一人の女性として、ごくありふれた生涯を過ごし、歴史に名を残すこともなく一人の民草として大いなる歴史の波に飲まれ
しかし運命は、その少女を捨て置くことは許さなかった。
多種多様な生物が
我々が住まう地球と同じ質量を持つ碧き星、惑星『アナトリア』。
かつてこの世界は滅亡の危機に陥っていた。五千年前の事だ。
後に『悪魔の一ヶ月』と呼ばれる
その災害は、人類を始めとしたこの星に住まう
今に至るまで五千年。気の遠くなりそうな時を経て、人類は
『悪魔の一ヶ月』で発生した大規模な津波・地震・噴火・岩盤の崩落・土石流や火砕流は大地を大きく変容させ、
脅威として。
童話や神話、はたまた空想物語で扱われていた『亜人種』や『魔物』……決して交わることがなかった存在が突如として現実世界に姿を現したのだ。
亜人種や魔物との力の差は歴然であり『万物の霊長』として世界に君臨してきた『
この結果、
『アイテール(
この世界で『魔術』は『魔法』とは違う。
『魔法』とは『魔術』では到達できない神秘であり、その時点における世界の文明の力では、いかに資金や時間を注ぎ込もうとも絶対に実現不可能な『結果』をもたらすものを指すからだ。
それこそ『奇跡』や『神の御業』と呼ばれるようなものだ。故にこの世界に『
上級の魔術を操れる者に『
それでも、亜人種や魔物が
火・水・土・風・光・闇などの属性を持つ『魔術』を振るい、それらを持たなない
こうして『
生活圏を脅かす『魔物』を駆逐し、かつての勢力を取り戻すことは、
以来五千年。
この地に住まう
『悪魔の一ヶ月』で荒廃した世界で、迷える人々を導いたという二柱の神『天空神テリー』と『地母神ソフィー』を総称する『ノイルフェール神』の教えと祝福を信じて。
そして今、このマーキュリー王国では、『ノイルフェール神』の導きに従い、混迷の世界で人々を率いた『
そんな『
彼女の名前は『シェリル・ユーリアラス』。
彼女は何時どこで生まれたのか、この世界に生きる者は誰も知らない。
彼女は『孤児』として、『マーキュリー王国』の北部にある寒村『ウーラニアー村』の教会前に捨てられていた。産着に包まれ『シェリル』と書かれた紙が添えられた状態で。
雪の降る王国暦一七六七年十二月二十四日の事だった。
この日はマーキュリー王国で信奉されている『ノイルフェール神』の一柱『地母神ソフィー』を祝う『
この夜……赤子の彼女は、その後に訪れる運命を知ることなく、籠の中でひたすら泣き続けていた。
鳥のような羽を背中に持ち、光輝く銀色の天使を
後に『天空の
そして彼女自身、自分自身を理解できていなかった。
自分はいったい何者で何ができるのか?
いったい何のために生まれてきたのか?
何故、今を生きているのか……?
漠然とした疑問と不安を抱えながら、シェリルは今日と言う日を生きている。
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