悲劇の魔女、フィーネ 18

「フィオーネ、今日も占いの仕事があるのか?」


すっかり恋人同士の気分になっていた俺はフィオーネと2人、ホテルのカフェで朝食をとりながら尋ねた。


「え、ええ。でも…もう、そんな事しなくてもいいのだけど…」


フィオーネはスープを飲みながら返事をした。俺はその言葉を前向きにとらえていた。


「ああ、そうさ。もう無理に働く必要は無い。俺はルポライターだけど、ミステリー小説家でもあるんだ。こう見えても結構売れっ子なんだ。フィオーネを養ってあげられるくらいの貯蓄はあるから安心していいからな?」


聞くところによるとフィオーネには身寄りが無いらしい。つまり、家のしがらみが何も無いと言う事だ。


「え?ユリウスさん。今の言葉の意味って…?」


フィオーネが俺を見て首を傾げた。

…本当になんて愛らしい女性なのだろう。彼女を見ているだけで、愛しさが込み上げてくる。恋人同士になれたことが今でも信じられなかった。


「ユリウスさん?」


再度、フィオーネが俺の名を呼び…我に返った。


「あ、ああ。ごめん…フィオーネがあまりにも美しいから、思わず見惚れてしまったんだ」


素直に自分の気持を語ると、フィオーネは頬を赤く染めた。


「そ、そんな…美しいだなんて…」


「本当だよ。俺は今までの人生で君程美しく、ミステリアスな女性を見たことが無い。それで、さっきの話の続きだけど…フィオーネ。俺と一緒に暮らそう」


テーブルの上に乗せた彼女の細く、白い手に自分の手を重ねると言った。


「え?い、一緒に暮らすって…?」


「うん、俺はルポライターにミステリー小説作家だから、特に何所かに定住する必要は無いんだ。フィオーネは俺に言っただろう?一つの所には長くとどまることが出来ないって。まさに俺みたいな男がフィオーネにはぴったりだと思わないか?」


他の誰にもフィオーネを奪われたくは無かったので、つい強気な発言をしてしまった。


「ええ…そうね…。なら、これからよろしくお願いします」


フィオーネは頭を下げて来た。


「え…?本当に…本当にこれから一緒に暮らしてくれるのか?」


「…はい」


頷くフィオーネの手を俺は嬉しくて再度強く握りしめた―。




****



 フィオーネとアドラー城跡地に向かうのは夜の8時。それまでの時間を俺は恋人同士として彼女と過ごしたかった。

そして俺はフィオーネに尋ねた。何所か行きたい場所は無いかと…。




「ユリウスさん、見て下さい。可愛いですよ~」


フィオーネは母親におぶさっている赤子のサルを見て、笑みを浮かべた。


「ああ、そうだな」


フィオーネの肩を抱き寄せながら俺は返事をした。


俺とフィオーネは今、動物園に来ていたのだ。


フィオーネに何所が遊びに行きたい場所は無いかと尋ねたところ、意外な事に彼女は動物園を指定してきたのだ。


始めは動物園をに行きたいと言われた時は正直言って驚いた。


そんな場所は子供のデートコースか家族連れで楽しむ場所じゃないかと思ったけれども、楽しそうにしているフィオーネを見ていると、連れてきて良かった…と今では思う。


そして俺達は園内を様々な動物を見て歩き…フィオーネはある動物の前で足を止めた。

そこは…狼が飼育されている檻だった。


フィオーネは食い入るように狼を見ている。


「フィオーネ。狼が好きなのか?」


「…」


しかし、フィオーネは何も答えない。


「フィオーネ?」


すると…。


「可哀相…」


フィオーネがぽつりと呟いた。


「え?」


「狼は…本来はこんな場所で飼育されるような…存在では無いのに…」


「フィオーネ…?どうしたんだ?」


彼女の肩を抱き寄せると尋ねた。


「…いいえ。何でもないわ…」


その顔色は青ざめていた。


「体調が悪そうだ…ホテルに戻って休んだ方がいい」


「ええ…そうね」


素直に頷くフィオーネ。


「よし、なら行こう」


そこで俺は彼女を連れて、自分の滞在先のホテルへと戻ることにした―。


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