悲劇の魔女、フィーネ 17
明け方―
俺とフィオーネは一晩中、互いの身体を求め合い…今、彼女は疲れ切った様子で俺の腕の中で静かに寝息を立てている。
フィオーネを抱いたからだろうか…?
疲れてはいたものの、あれ程どうしようもなく寒気が酷かった身体は元通りになっていた。
「フィオーネ…愛している…」
長い黒髪にそっと触れ、眠っている彼女に口付けするとゆっくりフィオーネは目を覚ました。
「あ…ユリウスさん…。体調の方はどう…んっ」
俺はまだ話そうとしていた彼女の唇をキスで塞ぐと言った。
「有難う。フィオーネのお陰ですっかり体調は良くなったよ」
彼女の細い身体を強く抱きしめた。
「フィオーネ…こんな事になって、順番が逆になってしまったけど…君を愛している。俺の恋人になって欲しい」
そしてさらに強く彼女を抱きしめる。
「え…?」
フィオーネの身体がピクリと動いた。
「ユ、ユリウスさん…。い、今何て言ったのですか…?」
「何度でも言うよ。俺は君を愛している、どうか恋人になって欲しい。…大切にするから」
愛しい彼女の髪を撫でながら耳元で囁く。すると…彼女は俺の腕の中で首を振った。
「駄目です…それは…無理です…」
「え…?何だって…?」
その言葉に耳を疑った。
「何故だ?君も…俺の事を少しは思ってくれていたんじゃなかったのか?だからこそ…初めてだったのに、俺に…捧げてくれたのだろう?」
そう、彼女を初めて抱いた時…俺は気付いた。
彼女はまだ男を知らない身体だったのだ。それはとても衝撃的で、にわかに信じられなかった。
嘘だろう?
こんなに美しい女性なのに?彼女は恋人がいなかったのだろうか?
それなのに…怨霊に憑りつかれた俺を救う為にその身体を捧げてくれた。
それだけでも彼女を愛するには十分な理由だった。
しかし、フィオーネは悲し気に首を振る。
「いいえ…違います。私は…私の罪のせいで、あの怨霊を作りだしてしまいました。そしてあの土地は呪われてしまったのです。今まで多くの人達がアドラー城の呪いに触れて死んでいきました。けれど私には…どうする事も出来ませんでした。もっと早くに知っていれば…助けてあげる事が出来たのに…」
彼女は俺の腕の中ですすり泣いている。
「…」
フィオーネの長い黒髪に触れながら俺は黙って話を聞いていた。
「わ、私は…ある事情から…一つの所には長くとどまることが出来ないのです。今回は久々にこの国に戻ってきました。そして…ユリウスさん、貴方にお会いしたのです。アドラー城の怨霊の呪いに触れてしまった貴方を…」
フィオーネはそして顔を上げた。
その瞳は…悲し気に揺れていた。
「何故、君が一つの国に長くいられないのかは分らないが…お願いだ。俺は君を愛しているんだ。どうか…ずっと俺の傍にいてくれないか…?」
そしてフィオーネの返事も聞かずにキスをすると、再び身体を重ねた。
彼女を抱きながら、俺は懇願した。
恋人になって欲しいと…何度も何度も繰り返した。
そしてついに…俺の腕の中で甘い声を上げていたフィオーネは根負けし、恋人になることを承諾してくれたのだった。
俺は歓喜した。フィオーネも自分の事を愛してくれていると思ったからだ。
だが…この時の俺は本当に愚かだった。
フィオーネの事を本当に愛しているならば…。
決して彼女と恋人関係になることを望んではならなかったと言う事に…気付きもしなかったのだから―。
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