悲劇の魔女、フィーネ 13

 昨日のレストランに行ってみると、既に入口付近でフィオーネは静かに佇んでいた。


「すみません、お待たせして」


声を掛けながら駆け寄ると、フィオーネは眉をひそめた。


「あの…どうかされましたか?」


「ユリウスさん…まさかアドラー城跡地へは行っておりませんよね?」


「ええ、勿論です。行く訳ないですよ」


「そうですか?なら…何故また貴方に怨霊が憑りついているのでしょう?」


「えっ?!」


まさか…やっぱり、あの時の悪寒は俺の勘違いでは無かったと言う事なのか?


「その反応…何か心当たりがあるようですね?」


「え、ええ…。実は…ネットで魔女フィーネに関するサイトと『メイソン地区』に関するサイトを調べてしまったのです…」


チラリとフィオーネを見ると、そこには呆れた表情をした彼女が立っていた。


「…申し訳ありません…どうしても部屋でじっとしていられなくて…」


「仕方ないですね…。もうあまり時間もありませんから、取りあえずこのお守りを付けていて下さい」


フィオーネは自分が首から下げているネックレスを外すと俺に手渡して来た。


「え…?これを俺に…ですか?」


「ええ、今は時間を掛けて貴方に憑りついている怨霊を払う余裕がありませんので」


「そ、そうですか…申し訳ありません」


フィオーネから借りたネックレスを早速付けてみると、驚くほどに身体が楽になった。


「あ…これは…」


するとフィオーネは言った。


「顔色が良くなりましたね。良かったです。それでは私はピアノの演奏をしなければならないのでお店に入りますが…」


「当然、俺も店に入ります。貴女の演奏が終わるまで待っていますから」


「…分りました。では中へ入りましょう」



そして俺とフィオーネは連れ立ってレストランへと入った―。




****



 今、彼女はスポットライトを浴びながらピアノの演奏をしていた。レストランの客たちは全員フィオーネの演奏にくぎ付けになっている。


本当に…彼女は何と美しいのだろう…。


俺は食事を取るのも忘れ、彼女の演奏に聞き入っていた。そして今夜の彼女はピアノ曲を3曲演奏すると、舞台を降りて行った―。




 レストランの外で俺はフィオーネが出て来るのを待っていた。

彼女を待ちながら、ずっとあることを考えていた。

フィオーネからは夜が一番危険だから一晩一緒に過ごすと言われたが…本当にそんな事をしてもいいのだろうか…?

もしフィオーネに恋人がいたりすれば、相手の男に俺達の事を誤解されてしまうだろうし…。


「よし、フィオーネが店から出てきたら尋ねてみよう」


そして俺はフィオーネが出てくるのを店の前で待った。




「随分遅いな…」


30分経過してもフィオーネは現れる気配が無かった。


「一体どうしたのだろう…?」


何だか嫌な予感がする…。


その時―。



ガタンッ!!


レストランの路地脇で何やら大きな音が聞こえた。


「何だっ?!」


慌てて音が聞こえた方角へ急ぎ足で向かった俺は驚きで目を見開いた。



「フィオーネッ?!」


何とそこには路上でうつぶせに倒れているフィオーネの姿があったからだ―。




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