第5話 冒険者ギルドと、無一文脱却




ラーミアさんの家を出ると、私は真っ直ぐに冒険者ギルドに向かった。

場所は聞いていないけど、MAPスキルを使えば問題ない。



ここから5分程歩いたところにあるらしい。

少し歩くと、周りの建物より大きい3階建の建物が見えてきた。きっとあれだろう。



それよりも気になったのは、冒険者ギルドよりも更に奥にある一際大きな建物。

他の木造とは違い明らかに石造りで高級感がある。


私から見ればあれは最早宮殿。

それ位の大きさと高級感がある。



けど、大きさの割にあまり人がいない。


私は『探知スキル』を使って確認したが、10人程しか居なかった。

そんなものなのかな?



考えながら歩いていると、冒険者ギルドに着いた。

私は迷うことなく扉を開くと、中から騒がしい声が聞こえてきた。




いやー、よかったぜ。

ミアは怪我もしてなかったんだってよ。

衛兵のやつらざまーみろだぜ。




扉を入って右側が酒場なのか、木でできたジョッキを片手に酒を飲みながら楽しそうに話している。



うんうん。

私は聖女様のような(想像)微笑みを浮かべて頷いた。



私は扉を入って左側に向かった。

冒険者ギルドの受付らしい場所が見えたからだ。



受付には20代の若い女性がいた。

その女性はピンク色の髪をして、またまた綺麗な顔立ちをしている。


街の人達同様、少し痩せすぎな気もするけど、この街には美人しかいないのかしら。



受付の女性は笑顔で迎えてくれた。



「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件でしょうか?」


「はい。盗賊達の件で報告と、後は私も冒険者ギルドに登録しようかなと思ってまして」



そこまで話すと、明らかに空気が変わった。

そして、ドンドンと大きな足音が右側の酒場から私に向かって歩いて来るのが分かった。



足音は私の真後ろに来ると止まり、男が私の肩を掴みながら話しかけてきた。



「お前、冒険者になりたいのか?」


「はい」


「お前みたいな嬢ちゃんに冒険者が務まると思ってるのか?」


男の口調は先ほどより強くなった。



これはもしや、私が笑いものにされて、返り討ちにする異世界王道のパターン。



「はい」


私は王道パターンのことを考えつつ、返事をした。



190センチはありそうなマッチョな男は、ジッと私を見つめてくる。

そして、その場に腰を落とすと両手を私の肩に置き、優しい口調で話し始めた。



「きっと、色々あったんだな。こんな可愛いらしい嬢ちゃんが冒険者やるって言うんだから」



おっ、お

何か王道パターンと違う



「困ったことがあったら言ってくるんだぞ。ここには仲間がいっぱいいるからな」



男はそう言うと、後ろを振り返った。

そこには酒場で私達のやり取りを見ていた男女の冒険者達が木のジョッキを持って私に掲げている。



お、おおう



なんと良い人達なんだ。

私は酒場の方に向かって頭を下げた。

そして、頭を上げると今度は全力で両手を振った。



「俺はラド。よろしくな」


「私はマリー•アントワネット。よろしくお願いします」


「次いでに私はレキシー。よろしくね」


受付にいた女性も挨拶をしてくれた。



「騒しくてごめんね。ここにいる全員、さっき森から帰ってきたばかりで、ミアちゃんが無事って聞いてね、お祝いで飲んでるのよ」


レキシーさんが嬉しそうに言った。


「そうさ。どっかの女剣士が盗賊達からミアを奪い返してくれたみたいでなー」


ラドさんが愉快そうに言った。




う〜ん


女剣士

私、ナイフすら持ってないんだけどな



ここにいる人達は私がミアを助け出した女剣士だと気づいてないみたい。

剣士じゃないけど。




私はよくある異世界アニメのように、自分を隠したりしない。

自分の手柄を隠したりしない。



だって私はまだ14歳。

褒められたいから。



「剣士ではないけど、盗賊達からミアを救ったのは私です」



一瞬辺りが静かになったが

「そうだ、そうだ。マリーも一生懸命ミアを探してくれたんだもんな」

そうラドさんが言うとまた辺りはまた騒がしくなった。




ぷぅー




私は牢屋収納から盗賊達を出した。


先ほどとは比較にならない程、辺りが静寂に包まれた。

この静寂を破ったのはレキシーだった。



「マリー。この盗賊はどこから?」


「私の収納スキルだから、そこは気にしないで」


「あら、そう。スキルなのね。それでこの盗賊達はマリーが倒したの」


「そうだよ」



また静寂が訪れた。

誰一人話さず、ピクリとも動かない時間が続いた。




どうしたもんかな




私がそう思っていると、一気に歓声が上がり、みんなが私の元に駆け寄ってくる。



「すげえなー、マリー」


「よくやってくれた、マリー」


「こんなに可愛いのに強いなんて」



色々な声が聞こえて来る。

私は会釈をしながら、愛想を振り撒いた。



「ちょっとみんな静かに。いったん酒場に戻って」


レキシーさんがそう言うと、みんな酒場の方に戻っていった。そしてまた騒いでいる。



「マリー、2階の部屋で詳しい話を聞かせてもらえる?」


「分かりました」



私とレキシーさんは2階の個室に移動した。

個室に入ると他の女性従業員がお茶とお菓子を持って来てくれた。

お茶とお菓子をいただきながら、私はミアを助け出したときの状況を説明した。


一通り説明を終えた時、お茶とお菓子を持ってきてくれた女性が部屋を訪れ、レキシーさんに何やら耳打ちをした。

レキシーさんは驚いた表情を浮かべた。



「何かありましたか?もしかして、盗賊が死んでいたとか」


私は犯罪者、いや殺人犯になるのか。

過剰防衛とか言われてしまうのか。



「盗賊達は重症だけどみんな生きてるわ。最も、死んでいてもマリーが気にすることじゃないけどね」


「よかったー」


私は安堵した。



「あの盗賊達は指名手配されていた『赤玉』という盗賊団よ」


「指名手配?」


「そう。かなりの悪事を重ねたどうしようもない盗賊団」



指名手配された盗賊団だったのか。

すごく弱かったけど。



「マリーがやつらを捕まえてくれて助かったわ」


「私はミアを助けたかっただけですから」


レキシーさんは私を優しく見つめてきた。




「マリー、盗賊団討伐の報奨金を用意してるから、待ってる間、もっと詳しい話を聞いてもいいかしら?」



ほ、報奨金。

そういえば、私、無一文。

お金を作るスキルなんてなかったし。



「はい。もちろんです」


無一文脱却からの喜びを隠しつつ、私は返事をした。



レキシーさんは、ミアに聴取をしないと約束をしてくれて、その分、私が答えた。



意外と時間がかかり、気づくと日が昇っていた。



「時間がかかってごめんね。指名手配解決の調書を作らないといけなくて、細かな状況が必要なの」


「大丈夫ですよ」


私は欠伸をしながら答えた。



「はい、これで終わり。それと、これが報奨金の100万ゴールド」


レキシーさんは麻袋をテーブルの上に置くと、ジャリとコインが擦れる音が聞こえた。

私の前に置かれた麻袋は予想より大きく、10キロの米俵くらいあった。



恐る恐る中身を確認すると、たくさんの金貨と銀貨が入っていた。



「銀貨が混じっててごめんね。うちの在庫じゃ金貨が足りなくて」


「いいえ。全然大丈夫です」


私はそう言うと、アイテム収納に麻袋を閉まった。



「便利なスキルねー」


レキシーさんが感心したように呟く。

私は笑顔で誤魔化した。



「さあ、これで解放よ。1階にいきましょう」

「はい」




私達が部屋を出て1階に向かおうとした時、下から何かが割れるような大きな音がした。




私とレキシーさんは目を合わせると、急いで1階に向かった。


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