第2話 神様の条件と、魔神からのプレゼント



顔面蒼白の神様は、一度、私に背を向け、大きく深呼吸をすると、再び前を向いた。

幾分、顔色が良くなった神様は、落ち着いて話始めた。



「神様といっても限界があるのよ。6,000個となると今の私の力、神ポイントの残量では無理だわ」

「神ポイント•••」


さらっと凄い言葉を聞いた私は無意識に反芻した。



「そう。私の神ポイントの残量は約70,000万。6,000個は難しいわ。もしくは」

神様は何かを言いかけ、憚った。


「もしくは、、、何ですか?」


「あなたは、地球とまったく異なる、あまり人々が幸せに暮らしていない世界でも行く覚悟はあるかしら?」


私の問いかけに、ひとつ息を吐き出してから神様が私に投げかけてきた。


「あります!!」


私は即座に答えた。



神様は小さくクスッと笑うと、微笑んだ。



「あなたは変わった子ね。」


そう言うと、神様は何もない空間からファイル

のような物を取り出し、中身を確認した。



「私の情報では、あなたは素直で謙虚なかわいい子とあるのに、どうしたのかしらね。」


「それを、地球ではグレると言うんです!!」


「グ、グレる??」


「厳しいテストが終わり、明日から楽しい夏休み。その夢を壊され、挙句に両親にも会えない。そういう現実が私を非行に走らせたのよ!!」


私は右手の人差し指を突き出しながら言った。



「非行•••。私の所為なのね。それはそうよね。私はあなたの人生を終わらせてしまったのだから」


神様は天を仰ぎながらそう言うと、今度は私を真っ直ぐに見つめながら告げた。



「分かりました!!幸福度最下位の世界へ転移するならば、私の神ポイントを全て使って6,000個のスキルを授けましょう。」


「やったーーー!!」


私は両手を上げて素直に喜んだ。




「気に入ったぞ人間」



喜ぶ私の耳に、男の低い声が聞こえた。

次の瞬間、神様の横に色黒で肩ぐらいまである銀髪を靡かせた男が現れた。



「今度は何ーーー??」


「慌てるな。私は魔神、ラソ•ラキティス。お前の心意気気に入ったぞ。私からもスキルをくれてやろう」


そう言うと、魔神は豪快に笑った。



「スキルを貰えるのは有難いんですが、魔神とは魔王とかそういうやつですか?」


「世界の魔王や魔族を管理するのが魔神、人族を管理するのが人神だ」



ほ、ほほう。

まぁ、スキルをくれなら魔神でも魔王でもいいかな。

私がそう考えていると、魔神が続けて言った。



「魔王や魔族は、人族と差はない。どちらも悪しき者は命を奪い合い、愚かなことをする。」

「確かに」


私は納得するように呟いた。



「私からは『大魔王の威圧』スキルをくれてやる。これがあれば、魔王や人族は大抵萎縮するだろう」


「おおー、14歳のいたいけな少女には必須スキ

ル」


「小娘に萎縮する魔王が今から楽しみでしょうがない」



ほ、ほう。魔王がいるんだ。



「あんずるな。お前なら魔王でも問題ない。問題があるとすれば、あいつか•••」


「あいつ?」



人の心を確実に読んでるな、という気持ちを抑えて疑問を投げかけた。



「いや。恐らくは大丈夫だ。気にするな。では、スキルを授けてやる。」


魔神は私の頭に右手を置き、何か分からない言語を唱えている。



「よし、これで終わりだ。たまには遊びに来いよ」


そう言うと魔神は姿を消した。



私は直接変化を感じ取れなかったが、きっとスキルは付与されたのだと思い、消えた魔神に向かってお礼を言った。



「さっ、次は私の番ね。数が多いからこのスキルシートに記入してもらえるかしら」


魔神が来たこと、スキルを付与してもらったことも何も気にしていないようだ。寧ろ、知っていたようにも感じる。



「それはね、これから幸福度最下位、120,217位の異世界に転移することもあるけど、一番は悪神の存在ね」


「あっ、黒い影の」


また心を読まれたことは気にせず、私は言った。


「そう。悪神はあなたの気配を探している。直ぐには辿り着けないと思うけど、私達は心配してるのよ。」


「悪神は魔王と悪魔とかとは違うの?」


私の問いかけに神様は少し険しい顔になった。


「悪神は、魔王や悪魔、ましてや私達神とも違う。やつは時空を壊すもの。」


「時空を壊す?」


「中学の授業では、地球から何光年先に違う惑星がある、とか習っているかしら?」


「光の速さで何年ってやつでしょ?」


「そう。例えば目視できる惑星が100万光年先にあるなら、私達が見ているのは100万年前のもの」


私は静かに頷く。


「でもね、それは見えるとかだけではなくて、色々な文明の情報も送られているの。提携関係にある惑星間は、その情報で繁栄しているんだけど、それを阻害し、世界を怖そうとしているのが悪神。」


今日自分が死んだことよりも、もっと怖いことを無意識に認識したのか全身に悪寒が走った。



「そんなに心配しないで大丈夫。何かあれば、私達が対処するから。それよりもスキルシートを書いて」


私の表情を見て、笑顔で私に話しかけてくる。



「幸福度の低い異世界に転移する場合は、神ポイントの消費が普通より少なくすむの。だから、6,000個いけるはず。まずは名前から書いて」



今から色々考えてもしょうがないし、気持ちを切り替えてスキルシートを書きますか。



「名前は、マリ。う〜ん、マリーにしよう。」


「私の名前をマリーの後に付ければ、加護を受けやすくなるわよ。」


「神様って、シンだよね?マリー•シン?あんまりだけど、加護は大切だもんね。」


「シンは苗字だから、名前の方を書いて。」


「ん?神様の名前は?」


「まだ言ってなかったわね。アントワネットよ。」




私の額から汗が流れるのを感じた。


まさか、まさかの


マリー•アントワネット




「神様も所詮、民が貧しい生活をしてる中でパンを食べたり、パンがなくなったらケーキとか、我儘言ってるのね」


「??」


神様は私の言っていることが分からず、困った表情を浮かべている。



「もう書いちゃったし、マリー•アントワネットでいいか。


後は見た目を良くするスキルと、ご飯を作れるスキル(3つまでか、米、味噌、醤油と)、地球のものを作れるスキル、虫がいて野宿なんてできないから持ち運びできる家を作れるスキル、探知スキル、アイテム収納スキル、転移スキル、基本スキルアップと、1,000レベルまであがる無条件スキル、それと、魔法か、これはあっちの世界で覚えればいいか」


「魔法、ないわよ」


神様がサラッと告げる。



「う、嘘。異世界なのに、魔法がないのーーー」


私は容赦なく叫んだ。



「魔力はあるから、スキルシートの魔法の欄にチェックすればマリー•アントワネット自身は使えるわよ」


マリー•アントワネットと言われて、少し胸の辺りを何かに刺されたような気がした。



「魔法もなくて、科学も発展していない。だから最下位なのよ。」


人が悪い、とかだけではなく、魔法や科学による生活基盤の向上は最重要らしい。

魔法があるだけで、最下位から60,000位まで順位があがる可能性があるそうだ。


「なら、魔法にチェック、最大魔法、全属性チェックと」




6時間後




「や、やっと終わった」

私はその場に倒れ込む。


「終わったわね。少し休ませてあげたいけど、もう時間みたい。」



私の体は光に包まれ出した。



「最後に聞いていい?」

「ええ」

「私の両親は、悲しんでる?」

「ずっと泣いているわ。」


神様は俯きながら言った。


「もしできたらでいいけど、私は元気にやってるって伝えて」



神様は頭を上げ、笑顔で「はい」と言った。

瞳からは涙が出ている。



「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。ずっと見守ってるわ」



次の瞬間、私は神様から離れ、光の中に吸収されていった。




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