第12話 フリマアプリで得たお金は少し遅れて振り込まれる

 「おお! 生きていたのか! 心の友よ!」


 校門前で俺を待っていたのは、顔を酷く腫らした斎藤と意味深にスコップを地面につきたてている夏未だった。


 「ぶん殴ってやろうと思ったけど、この顔は……既に制裁されたあとか」


 隣の夏未が恐らくその実行犯だろう。


 俺が拉致られる寸前、一番に斎藤のいる場所へ向かっていたのを思い出す。


 「あら、斎藤君」

 「ひっ……満月さん……」


 俺に対しては反省する様子もないが、一方で冬華さんを目の当たりにすると酷く怯えている。


 家の住所を教えた、という話だったが……その最中にどのようなことが起こったのか。


 「星見君、何か失礼なことを考えてないかしら?」

 「いいえ? 全然」

 「そ、ならいいわ。それと斎藤君、いい取引に感謝しているわ。またお願いするわね」

 「い、いやぁ、流石にもう出品できるものはないかなって」

 「あるんじゃないかしら? 例えば星見君の私物とか使用済み品とか…………良い値で買わせてもらうわ」


 その言葉が響いたのか、事もあろうに斎藤は黙々と考え始める。


 「いや、即答で拒否しろよ」

 「はっ……そうだそうだ、もう出品はしない」


 これで私物を失う結末だけは避けることができた。


 「で、だ。誠司、お前にはこれを」


 斎藤が手渡してきたのは、なんと封筒に入れられた札束だった。


 「は!? なんだこの大金!?」

 「お前が売れた際の九十九万円だ。流石に俺は貰えねぇよ」

 「ちゃっかり一万円着服してるのだから説得力なんてないよっ!」


 ガン! と威嚇するようにスコップの剣先で地面を叩く夏未。かなりご機嫌斜めのようだ。


 「あらあら、モノに当たるなんて、程度が知れるわよ? 駄犬」

 「フン、泥棒猫に何を言われても響かないよ」


 二人は嫌な笑顔で見つめ合う。


 ……どうにかしたいが、俺にできることは今の所なさそうだ。


 「なぁ、冬華さん」


 俺は手元の九十九万円を見てから冬華さんを見る。


 「どうしたの?」

 「これで夏未の壊した壁の弁償代、多少は減らせないかな」


 あの高価な壁が百万円やそこらで全額を補うことは難しいだろうけれど……多少は負担が減るかもしれない。 


 俺はチラリと夏未を見る。


 「ここは黙ってみていてほしい」とアイコンタクトを送るためだ。


 夏未も、「わかったよ」という表情でうなずく。


 「……………………」


 一方でどうしてか長考する冬華さん。


 普通に通る話だと思っているのだが……。


 「…………駄目よ」

 「はぁ!?」


 却下されてしまった。


 堪えていた夏未はついに言葉を吐き出してしまう。


 「……これは星見君が正当に稼いだお金よ。貯金しておきなさい」


 冬華さんには僕と夏未の魂胆が筒抜けだったらしい。


 露骨に現状を脱しようとしていたため、防御されてしまった。


 「さ、行きましょう。星見君」


 そして、夏未が何かを捲し立てるよりも早く、冬華さんは俺の腕に無理矢理自分の腕を絡ませて歩き出す。


 「あっ! また! 待てー!」


 俺の背には……声が枯れるくらいに叫ぶ夏未を止めようとする斎藤の孤独な戦いが幕を開けようとしていた。

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