ミルクコーヒーが甘いのは〜おまけ〜
たい焼き。
喫茶店『ポメラ』 会計レジにて
窓際の席で『夏央ちゃん』との会話を終え、二人分の会計伝票を持ってレジへ向かう。
「千敏さーん、お会計お願いしまーす」
「どうしたの、急に名前で呼ぶなんて。そんなことより燈子さん!夏央ちゃんと何話してたの?!」
彼女に聞こえないように声のボリュームを抑えて話すマスター。
しかし、相当焦っているのかいつもの営業スマイルはどこにもない。
私の『千敏さん』呼びも華麗にスルーされた。いつもマスターって呼んでるからもう少し反応あると思ったんだけど……。
その点、あの子は千敏さん呼びに敏感に反応してくれて、虚しくも一時の優越感を得られた。
ちょっとムカッときて私の中のいじわるスイッチがまたもや入る。
「え?別にぃ?マスターにフラれたからぁ、その八つ当たりぃ?」
「なっ……やめてよ!僕が勝手に夏央ちゃんを好きなだけで、夏央ちゃんは関係ないんだから!……それに夏央ちゃんから見たら僕みたいなおじさん、眼中にないよ……」
最後の言葉は、誰に言うわけでもなく悲しそうにつぶやく。
本当にこの人らは……。
「マスター、好きだからってあの子のこと目で追いすぎ。ていうか、キリマンが450円なのに、ミルクコーヒー200円っておかしいでしょ!価格設定どうなってんの!?」
「だって、夏央ちゃんまだ高校生だし。それに、あんまり高いと来てくれなくなっちゃうかもしれないじゃないか」
「なんで夏央ちゃんしか買わない前提で価格設定してるのよ……」
価格設定も大概だけど、味見だなんだと理由をつけてあの子にスイーツをプレゼントするマスターも甘い。
そもそも、私なんて覚えてもらえるようにキリマンジャロしか頼まなかったのにいつまでたっても覚えてもらえず、あの子の注文はすぐ覚えたのよね。
あの子が豆乳で作って欲しいことも覚えてるのに、会話がしたくて毎回わざと豆乳とはちみつの確認をする。まったく、ズルい人だよねぇ。
「あ、そうそう。マスターが夏央ちゃんのこと好きなの、うっかりちょっと口滑らせちゃったぁ。あとは本人に聞いたら?って言ったから何か聞かれるかもねぇ〜」
「えっ!嘘でしょ!?無理無理!どうしたらいいの!?燈子さん、帰らないで!まだお店にいてよ!」
「おじゃま虫は帰りまーす。あとはリア充同士でどうぞ」
マスターの顔がゆでタコもびっくりするくらい真っ赤に染まった。
はぁ〜……ゆでタコ顔のリア充同士、爆発すればいいんじゃない?
いじわるついでにキューピッド役も買って出たんだから、今度ホットサンドでもサービスしてもらわなきゃ。
こんな甘ったるいお店、長居したら胃もたれするわ。
私は足早に店を出た。
ミルクコーヒーが甘いのは〜おまけ〜 たい焼き。 @natsu8u
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