第7話 一年の時間旅行
それから俺とミクは色んな時代の色んな場所に赴いた。
ある時は、運転手である青年の『焦ると周りが見えなくなってしまう』気質を改善するために彼の親父さんの幼少時代に飛んだり、
ある時は、若干見えづらくなっているあのT字路の道路を調整するため、あの住宅街ができ上がる前の時代に飛んだり、
そしてまたある時は、青年の奥さんが倒れた原因を倒すために戦国時代に飛んだりした。
それら全てがカコを死なせる原因となったというのだから、やるせない。
ミクが言うには、変えるにも順番があるらしく、その順番通りに変えないとカコが事故に遭う事象は変えられないらしい。
またその時代にいられる時間も影響している。
滞在時間が短すぎても長すぎても駄目だというのだ。
むしろそれに背くと、カコの事故以上の大災害・混乱が世界規模で発生するらしい。
そして過去の一部を変える度に、ミクの体型、髪色、髪型、顔立ち、声色、口調、表情が少しずつ変化していった。
それから約一年の月日が経過した。
★★★
「ふぅー⋯⋯食った食った」
俺は腹を摩り、満足げにそう呟くと、
「よく食べてたね。そんなにお腹空いてたんだ」
とニヤニヤとした笑みで揶揄うようにそう言う声が正面から聞こえてきた。
ミクだ。
茶髪のセミロングでスラっとしたモデル体型。
声も多少高くなっていた。
最初会った時よりはえらい違いだ。
口調も異なるから、ずっと一緒にいて変化を見ていなかったら絶対に別人だと思っていただろう。
「しょうがないだろ。我が家の飯なんて約一年振りくらいなんだから」
「一年と言っても、私達は時間のしがらみからは完全に解き放たれているのだから、あまり意味のない尺度だけどね。
それにこのカレー、私が作ってあげたんだし」
と机に置いてある空の器をミクは指差した。
「うるさいなぁ。良いんだよ。雰囲気だよ、ふ・ん・い・き!」
そのミクの文句に俺はカレーの余韻に浸りながら満足げに反論する。
「この家で食べるんだから『我が家の飯』で良いんだ。あんまり水を差すようなこと言わないでくれ」
そう。なんと俺達は、『事故前日の俺の家』に来ていたのだ。
今回の旅の目的は、明日カコが観たいというテレビ番組の録画予約をそれとなくカコにさせるため。
もしテレビ番組を録画できなかった場合、カコは事故当日、T字路の所でそれを思い出し、我先に走り出してしまう。
仮に俺がそこで一度止めたとしても焦ってるカコはすぐに抜け出し走り去っていくのだという。
そして、あのT字路じゃなかったとしても、どこかで事故に遭ってしまうらしい。
我が幼馴染ながら馬鹿な死に方だと思う。
そういうおっちょこちょいな部分もカコらしいと言えばそうなのだが。
まぁその件はすんなり終わらせることができた。
カコを探し出し、カコに明日のテレビ番組について話題を出すと、
「あぁ~! 明日のテレビの予約、忘れてた!
私、予約してくるね。ありがとう! キョウちゃん!」
と俺に向かって満面な笑みをして、すぐに駆け出していったのだ。
確かにあのスピードで急に飛び出してきたら、車もブレーキを踏めまい⋯⋯。
(そもそもカコのあの性格を直した方が良かったんじゃないか?)
とも思ったが、それはそれで後悔しそう気がしたので考えるのをやめた。
カコの用事はすぐに済んだが、何でも明日の朝まではいなきゃいけない。
ということで、俺の家で滞在することになったのだ。
幸い事故前日の俺の家は誰もいない。
俺は親友の家でオールでゲーム三昧だし、俺以外の家族は旅行に行ってしまっている。
都合が良いということで、俺とミクは俺の家で朝まで待つことにしたのだった。
「でもすごいね。あんなに大量にあったカレーがもう無くなっているんだもん」
「そりゃあ、この家にも
捨てるのももったいないし、食べるしかないだろ?」
二回目の時間旅行の時、ミクに注意されたことだ。
俺達がその時代にいたという痕跡が残ると、後々どういう影響があるのかわからないというのだ。
ましてや、自分自身に会うなんていうのは言語道断。
会ってしまえば宇宙規模で歪みが発生するのだとか。
だから必要以上に人と会わないようにするし、できるだけ証拠も隠滅するようにする。
そんなわけで夕飯で出てきたカレーは有難く全部頂戴することにした。
だいたい十回はお代わりしただろうか。
――うん、やっぱりちょっと苦しい。
「いやいや、それでもすごいよ」
食べ盛りだね~、なんてそういう俺を見てミクは楽しげに笑っていた。
そこで、俺はふと思った。
「⋯⋯そういえば、ミクって何歳なんだ?」
「ん~君と同じくらいかなぁ?」
「⋯⋯誕生日は?」
「春ってことだけ言っておくよ」
⋯⋯全く情報がない。
「あまり不機嫌にならないでおくれよ。
何が起こるかわからないから、あまり君に私の情報を渡すわけにはいかないんだ」
「そうなのか?」
「そもそも今回の滞在が終わったら、あと一回の旅で終わりなんだ」
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