第5話 バタフライエフェクト
何かしらの誤作動だろうか。
俺はすぐさまロックを解除し、ウェブブラウザアプリを開いて、『今日の日付』と打って検索をした。
――やっぱり、二週間前の日付だ。
その他、SNSや動画アプリを確認しても、トレンドや更新された動画を含むどれもが二週間前に観たものを最新として上げていた。
何かのドッキリか!?
いや、こんな大掛かりなこと、何の変哲のない一般人の俺にするか?
どこ見渡してもカメラがありそうにないし。
そう考えながらキョロキョロ辺りを探っていると、未だじっとその場から動かず俺を見ているミクと目が合った。
「お前が何かしたのか?」
この摩訶不思議な現象。
これは彼女に連れられてから起こった。
疑うには充分で、そう思ったから俺は睨むようにミクを見た。
だが、ミクはそんな俺に怯む様子もなくクールな佇まいのまま、
「⋯⋯⋯⋯信号機」
とポツリと口を開いた。
「は?」
「あのおじさんは一週間後に貴方の街の信号機の点検をするはずなのだけれど、三日後にインフルエンザに罹ってしまって休まなくてはならなくなるの」
「だから何だって言うんだ?」
だが、ミクの答えは俺が求めていたものとは遠く離れていた。
「この道三十年のベテラン点検士。普通の人が見落とすような細かな不具合も見抜ける観察眼を持っているそうよ」
「だから何だって言ってるんだ!? 今更おっさんの素性なんて知ったこっちゃないんだよ!」
「⋯⋯あの運転手言っていたわよね?」
要領を得ないミクの話に俺は苛立ち怒鳴りつけるが、ミクはそんな俺の抗議なんて無視して話を続ける。
「『信号も青のままだと思い込んでいた』って。あれ、本当に青のままだったのよ」
「⋯⋯は?」
『運転手』って言っているのはどこのどいつのことを言ってるんだ?
まさかカコを轢いた車に乗っていた青年のことか?
確かに『青のままだった』ってそんなことを言っていた気もするが、あの時は半ば放心状態でよく覚えていない。
だけど俺とカコが渡ろうとした横断歩道の信号も確かに青だった。
どっちも青ってことだったのか?
「貴方達が渡ろうとした横断歩道。信号が変わるのが、ほんのちょっと早かったのよ。
対向車線がまだ青のままなのに、貴方達が見ていた信号は青になってしまった。
貴方の幼馴染はそれに気付かず飛び出してしまったってことね」
「――――」
「その信号の不具合が発生したのはまさにあの事故が遭った瞬間。
でもそれを事前に察知できる人間が居たの」
「⋯⋯それがあのおっさんってことか⋯⋯?」
ミクは「そうよ」と首を縦に振る。
俺は信じられない思いでおっさんの家を思わず見た。カコの事故は何もあの青年や車の故障のせいだけではなかった。
信号機の不具合も重なっていたのだ。
しかもそれはあのおっさんが信号の点検に行けなかったことに起因している、とミクは言うのだ。
「い、いや、でも⋯⋯ちょっと待ってくれ⋯⋯!」
しかし俺の頭はまだ混乱している。落ち着いて考えさせてくれ、と俺は頭を掻く。
「お前はあのおっさんが三日後にインフルエンザに罹るって言っていたじゃないか」
そうだ。
ミクは、あのおっさんがインフルエンザになると言っていた。
インフルエンザに罹ってしまっては最低でも一週間は謹慎しなきゃいけない。
つまり、どっちにしろ一週間後にある点検なんて行けるわけがない。
それならば直接信号機に不具合があると通報した方が良いんじゃないか?
なんでわざわざ二週間前のおっさんに会いに行ったのかますますわからない。
だが、ミクは相変わらず無表情のままで、
「そりゃあこんな寒空の中、ゴミ捨て場で寝ていたら、風邪もひくわよね」
「は?」
「インフルエンザになった原因は今夜あの場所で寝ていたからよ」
私達が起こしたことによってインフルエンザに罹ることはもうなくなったけどね、とまだ混乱している俺にそうはっきりと言うミク。
俺達が――正確にはミクだけだが――さっきした行動で、未来が変わったということなのか?
「そんな些細なことで?」
「些細なことよ。『バタフライエフェクト』って知ってる?」
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