生まれ変わったと思ったら家族が特大の地雷だった件

みょん

本編

既視感

 それがとあるゲームの世界だと気づいたのは突然だった。

 何となく感じていた既視感、デジャブ……似たようなものか。

 どこかで見たことがある、聞いたことがあるようなそんな感覚を俺はずっと感じていた。

 それが明確になったのは今日、正確には思い出したと言うべきかもしれない。


「蓮、今日は早く帰るか?」

「うん」


 朝、朝食を食べている時にそう聞かれ俺は頷いた。

 フルネームで神里かみさとれん、それが俺の名前だ。

 俺に今話しかけたのは神里かみさとりょう、俺の兄になる人でとんでもないイケメンだ。そしてこの場にはもう一人居た。


「それなら私も早く済ませて帰ろうかしら。ご飯も作らないとだし」


 そう言ったのは兄と双子、つまり姉になる人で名前は神里かみさと麻美あさみという兄に似てこちらもとんでもない美人だ。

 二人とも社会人でそこそこの稼ぎがある二人、早くに両親を亡くし寂しい思いをしていた俺にとって、二人は本当の意味で親代わりと言ってもいい存在だった。


「麻美が帰るならいいか。それなら俺は遅くなるけど」

「いいわよ。どうせまた女を引っかけたんでしょうけど」

「うるせえよ。そう言うならお前も一緒だろうが。今度はどこの社長を手籠めにしたんだよ」

「……………」


 なあ俺よ、正確には過去の俺よ。なんでこの会話を異常だと思わなかったんだ? そんな会話が繰り広げられる中で俺は黙々と朝食を食べていた。

 さて、話を戻そう。

 この世界が何故ゲームだと気づいたのか、それはこの二人がそのゲームに登場するキャラクターだったからである。


“堕ちる、どこまでも”


 そんな名前のゲームがある……名前で分かると思うが、大人がプレイするPCゲームだ。

 ジャンルは寝取られになり、主人公の愛する幼馴染が快楽に染められて堕ちていく様を描くゲームになる。

 主人公はエロゲの定めと言うべきか顔が映らない仕様だが、ヒロインはしっかりと描き込まれた絵だった。


(……凄い可愛くて良い子なんだよな)


 夢野ゆめの亜梨花ありか、それがヒロインの名前だ。

 薄いピンクの髪に男好きするスタイルの良い体、性格は主人公に一途で優しい。

 一途とはいってもその優しさはクラスの誰にも向けられ、彼女は所謂クラスのアイドルのような存在でもあるのだ。

 そんなヒロイン属性マシマシの子が寝取られる様を描くのがこのゲームになるわけで……まあプレイしていて心が痛くなるゲームなのだ。


「……………」


 俺は気づかれないようにチラッと兄と姉を盗み見る。

 そんなゲームになるわけだが、この二人はかなりの重要な立ち位置に立つキャラクターになる。

 まず兄の涼だがもう言ってしまおうか、主人公から亜梨花を寝取るのがこの男なのだ。見た目はよく金もそれなりに持っていて、性格も本性を見せなければ好青年なのでまあ寝取られゲームの竿役には適しているキャラクターだ。

 そしてもう一人、この姉に関しても中々の曲者だ。

 寝取られゲームの定番として、亜梨花が寝取られる様を見せられる場面がある。

 それに傷ついた主人公を自らの体を使って癒すのがこの女なのだがそれは優しさなどではなく、この女の本性は涼に負けず劣らずの屑である。


『全部今だけは忘れましょう? 私とあなたは愛して合ってる。だから今は私だけを見て?』


 その時の表情は慈愛に満ちたモノではあったが内心にあったのは主人公に対する愉悦の感情で、この女は男の不幸な姿を何よりも好む。

 自分で癒し立ち直らせ、そして更にひどい追い打ちを掛けて絶望させるのが好きなのだこの女は。

 ゲームの描写で主人公だけでなく他の男にもそう言ったことをしているしまあ救いようがないよなこればかりは。


「ごちそうさま」

「お粗末様。美味しかった?」

「うん」

「そう、良かった♪」


 嬉しそうに笑っているが信用できねえんだよな。

 けど一つ疑問に思うのは、確かこの双子に俺のような弟は居なかったはずだ。

 だから最初は気づいたと言っても気のせいかと思ったのだが、二人の顔と話す内容を聞いていると全てがゲームと一致してしまい確信へと変わった。

 このゲームをやっていた時当然と言うべきかヘイトを貯めた二人だが、まさかそんな二人が家族になる日が来ようとは思うわけがないだろう。


「そう言えば蓮、高校に入ってから結構経つが彼女は出来たのか?」

「出来てないよ」

「そうか。もし女が欲しければ言え。いい女を紹介してやるよ」


 兄さんは女癖が悪いが扱いは驚くほどに上手く、だからその言葉のようにたくさん女性を知っているんだろうなと思って足が止まってしまった。

 だって俺も今は高校生だしそういうのに興味がないわけじゃないんだわ。


「涼、変なことを言わないで」

「……へいへい、歪んだ愛だことで」


 姉さんのドスが利いた声に兄さんは肩を竦めた。

 チラッと見えた姉さんの顔は本当に怖くてビックリしたけど俺は気にせずにリビングを出た。

 靴を履いて外に出ようとした時、姉さんがパタパタと音を立てて駆け寄ってきた。


「いってらっしゃい蓮。勉強頑張ってね」

「うん……って」


 姉さんはギュッと抱きしめて来た。

 姉さんの場合も主人公と体の関係を持つから一応ヒロインにはなるのか? そうでないにしてもエロゲの登場キャラだけあってスタイルも物凄い。

 抱きしめられるとその大きな胸に顔が埋まっちゃうくらいだもんなぁ。

 とはいえ不覚にもこんな女性に抱きしめられると色々とマズいことになりそうなので早めにこの拘束から抜け出す。


「ああん。もう蓮ったら」

「苦しいんだよ。それじゃあ行ってくるね」

「ええ、行ってらっしゃい」


 姉さんに見送られて俺は外に出た。

 誰かと待ち合わせをしているわけでもないので俺は一人で学校に向かう。

 そんな中俺はこれからのことを少し考えてみた。

 こうしてゲームの世界に生まれ変わっていたわけだけど病気で死んだのか事故で死んだのか、はたまた別の何かなのか全く思い出せない。


「……ま、考えても仕方ないか」


 ゲームの通りに進むという確証もない、それなら変に俺が考えても何も変わらないだろう。

 キャラクターに名前が付くのなら精々俺は男子Aと言ったところだろうか。

 まあクラスで夢野と全く話さない仲でもないし、いざとなれば兄さんに口答えするのもいいかもな。

 それから俺の目的の場所、川城高校に着いた。


「……ふむ」


 この学校で幼馴染でずっと一緒に居た主人公とヒロインは愛を育むのだが、そこに不幸を刷り込んでくるのが兄さんになるわけだ。

 そして姉さんも主人公をどん底に落とす着火剤になる……本当にどういう立場なんだよ俺は。


「おはよう、神里君」

「……あぁおはよう」


 席に座った俺に一人の女の子が声を掛けて来た。

 甘く聞き取りやすい愛らしい声、顔を上げればまず目に着いたのがしっかり着込んだ服装から見える大きな膨らみ、世の男の視線を掴んで離さない夢がたっぷり詰まったアレだ。


「どうしたの? あ、神里君はエッチだなぁ」

「いや、顔を上げたらそこに胸があったんだよ仕方ないんだ」

「そういうことにしておこうかな」


 クスクスと笑みを浮かべる女の子――夢野は楽しそうに笑っていた。

 そう、先ほどクラスで全く話すことがないわけではないと言ったがその通りだ。

 このようにある程度の会話はする仲で、どうしてこのような関係になったかというと少し過去について話さないといけない。

 それから友達に呼ばれて手を振って向こうに行く夢野を見送ると、バシンとそこそこ強い力で肩を叩かれた。


「羨ましいねぇ。夢野さんに話しかけられてよ!」

「いてえよ馬鹿たれ宗吾」


 俺の肩を叩いたのは斎藤さいとう宗吾そうごと言って友達になる。サッカー部に入っていて運動神経も良く、隣のクラスに彼女が居るので言ってしまえばリア充なやつだ。


「いいよなぁ夢野さん。美人で気配りも出来ておっぱいも大きくて……たまんねえなぁ」

「言い方が変態だぞ。ま、どんなに思っても有坂の女だろありゃ」

「んだな。けど別に付き合ってるわけじゃないはずだぜ? 幼馴染ってだけだろ」

「有坂の方は間違いなく好きだろうけど」


 夢野の名前が出て有坂という名前が出てくれば分かるだろうか。

 有坂ありさか彰人あきと、それが主人公の名前だ。

 幼馴染でずっと仲が良く、高校二年になった段階で有坂が告白して付き合うことになるのがプロローグだったはずだ。


「つうかお前新城さんに悪いと思わんのか」

「由香はまた別だって。っていうか流石に恋人放って別の女に目移りするまでは行かねえよ俺は」

「……そうだな」


 ま、それが普通だろう。

 そろそろ朝礼が始まるので俺は鞄から勉強道具を取り出して引き出しに入れようとしたのだが、そこで何かがクシャっとする音を聞く。


「……またか」


 手を突っ込んでそれを取り出すと俺の予想した通りのものだった。


『好きで好きです好きです好きです好きです好きです好きで好きです好きです好きです好きです好きです好きで好きです好きです好きです好きです好きです好きで好きです好きです好きです好きです好きです』


 熱烈な愛の告白ありがとう凄く嬉しいぜとはならんだろうこれは。

 今はもう10月になるわけだけど、7月くらいからこの不気味な手紙を見かけるようになった。

 こうして机に入っていることもあれば下駄箱に入っていることもある。

 ただの悪戯なのか、それとも本当に俺を好きなのか……あはは、全然嬉しくねえ。


「……はぁ、何もないといいけど」


 窓ガラスに映る端正な顔をした少年が小さく溜息を吐いている。

 あぁそうそう、この世界の俺は流石あの双子の弟ということもあって顔は整っていた。

 そこはちょっと神様に感謝したかも……いや、しないかな。

 もう少しマシな転生先はなかったものか、思い出してから俺はずっとそれを考え続けている。




【あとがき】


以前になろうに投稿していたものです。

完結しているので最後までノンストップで更新します。

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