魔法騎士は幼馴染を奴隷にしたい
白里りこ
第1章
第1話 不思議な訪問者
ライハナは王宮の中庭で精霊たちと遊んでいた。
青い玉ねぎみたいな形の屋根の建物の裏側。周囲をぐるりと囲む壁や柱には全て青くて精巧な文様が嵌め込まれている。そして中庭には小さな草原があっていくつか木も生えている。特に、白い小さな花が地面に咲いていて、風にそよいでいるのが、ライハナのお気に入りだった。精霊たちも花を揺らして遊ぶのが好きだ。
精霊たちの姿はライハナにしか見えない。そしてライハナは自分の魔力と引き換えに、精霊たちの力を借りることができる。そういう魔法を生まれ持っている。
その能力を買われて、ライハナは魔王軍の魔法騎士の隊長に身柄を購入された。以来、教育を受けながら、このシェリン帝国の王宮の中で暮らしている。
ライハナはまだ七つだったけれど、立派に魔法を使いこなすことが出来たから、将来を有望視されていた。それもあって、ライハナは常に魔法を鍛えることを義務付けられている。今こうして遊んでいるのも、魔法の訓練の一環なのだ。
ライハナに懐いている精霊は三人いる。風の精霊ルマ、水の精霊レマ、木の精霊リマ。ライハナは彼らとの親交を深め、いざというときに円滑に力を貸してもらえるようになる必要がある。
彼らは手のひらに乗るほどに小さな人の姿をしており、背中には薄くて透明な羽が生えている。いつも薄い布を体に巻いているようだが、羽があるので背中だけは剥き出しだった。彼らの肌の色はライハナと違って褐色ではなく、薄い青や緑色をしていた。
「いつも訓練をして、ライハナは真面目なのね」
水の精霊が言った。
「だって、隊長に買ってもらった恩があるから」
ライハナは答える。
「大きくなったらこの国一番の魔法騎士になって活躍するんだ」
「ふうん。それはそれで面白そうね」
「なあ、私が大きくなっても力を貸してくれるか?」
「もちろん!」
三人の精霊たちが声を揃えた。
「ライハナの魔力は美味しいもの」
「ええ。とっても強力だから」
「それにライハナといるのって面白いもの」
「ありがとう」
ライハナは笑った。
ところが、精霊たちは急に、怪訝な顔で空を見上げた。
「ん? どうしたの?」
「……誰か来るわ」
「誰か? 精霊?」
「どうかしら……」
彼らの言う通り、精霊たちの視線の先から、半透明の大きな何者かがふわふわと降りてきた。
人間のように見えた。年の頃はライハナと同じくらいの男の子。肌が白く、髪は金色で、見慣れない窮屈そうな白い服を着ている。だが人間の体が透けて見えるはずがないし、人間が空から降ってくるはずもない。
「あんた、誰?」
ライハナは試しに話しかけてみた。すると白い男の子は驚いたようにこちらを見た。
「僕のことが見えるの?」
訛りの強い言葉だったが、ライハナには辛うじて理解することができた。
「見えるよ。あんたは精霊? すごく大きいな」
「いや……違う。精霊って何?」
「この子たちみたいなもののこと」
「ああ……」
男の子は精霊たちに目をやった。彼らは興味津々に男の子のことを見返した。
「初めて見た。小さいんだな」
「で、あんた、誰?」
「僕の名前はチリーノ。人間だよ。今は魂だけの状態なんだ」
よく分からないことを言われてライハナは首を傾げた。
「魂だけ?」
「僕の魔法だよ。眠っている間に体から魂だけを飛ばして、どこへでも旅をできるんだ。今日は何となく東の遠くの方へ行ってみたくて……ここまで来てみたら、何だか強い気配がしたから、降りてみたら君がいた」
「じゃ、あんた、本当は今は眠っているのか? まだお昼なのに?」
「こっそり昼寝をしてるんだよ」
「へえ……」
ライハナはチリーノを改めてまじまじと見た。
つくづく見慣れない風貌だ。でも何だか可愛らしい。青い目は大きくて、睫毛は長い。金色の髪の毛は撫でつけてあるようだがちょっぴり癖っ毛だ。そして立派な服装をしていた。各所に細かな刺繍が施されており、布も贅沢に使われている。
「それで、君は誰?」
チリーノが尋ねた。
「私はライハナ。ここで騎士になるために訓練をしている」
「へえ。女の子なのに?」
「才能があったら女の子でも買ってもらえるんだ。魔法騎士になるために」
「そうなんだ。魔法の才能? 君はどんな魔法を使うの?」
「精霊使いの魔法。精霊を見ることができて、その力を借りることができる。とっても強力なんだぞ」
「へえ……だから僕のことも見えたのかな?」
「どういうこと?」
「普通の人には魂の姿は見えないんだよ。だから色んな所に忍び込み放題。戦力にはならないから、家では落ちこぼれ扱いされているけどね」
「ふうん。便利そうなのにね」
「そうかな……」
「うん。きっと凄い冒険ができるんだろうな」
「そうだけど……あっ」
チリーノはちょっと慌てた風に言った。
「さぼって昼寝してるのがバレちゃったみたいだ。戻らなくちゃ」
「そうなの? 残念。……またここに来てくれるか?」
「そうするよ。僕もまた君に会ってみたいからね」
「嬉しいな。待ってるよ」
「うん。それじゃあ」
チリーノの姿はパッと消えた。
ライハナはぽっかりと空いた中庭の木立の前を、ぼんやりと見ていた。
「……本当にまた来てくれるかな」
ちょっと不安になって呟く。
「大丈夫よ」
精霊たちは呑気に花々の間を飛んで回っていた。
ライハナは不安を拭うようにして、気まぐれに風の精霊の力を借りて、辺りにそよ風を巻き起こしてみた。精霊たちはキャッキャと笑った。
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