後編

ー3分前ー

「康子。校内工作コンクールの順位を変えてくれって、それはいくらなんでも無理ってもんやで」

「そこを何とかお願いします先生。私、どうしても美術大学に推薦で行きたくて、ここで内申点を稼いでおきたいんです。もし、私を1位にしてくれたら、市議会議員をしているパパに頼んで、正樹先生を非常勤講師から正式採用にしてもらうようにするわ。どうです?」

「お、おまえ、先生を買収する気か?悪いやっちゃでー。。。まっ、しかしだな、その、もしかしたら、採点ミスがあったかもしれへんから、もう一度集計してみるわ。ひーふーみーよー、、、ありゃま。こらあかんわ、やっぱり集計ミスやったわ。厳正に採点した結果、康子のピエロが1位やったわ。悪かったな。かんにんやで。決して買収されたとちゃうからな。ただ、おまえがどうしても?ワシを教師として?正式採用?してもらいたいのなら止めはしないで。ほなそういうことで、行ってええで。あーそうそう加奈子を呼んできてくれへんか」

「先生大好き。ありがとうございました」

 したり顔の康子は美術準備室を出ると、加奈子の元へと向かうのであった。



ー4分前ー

「康子さん何見てるの?」

 教室の机に肩を落として座る康子に、クラスメイトの龍之介が話しかけてきた。

「これ?美術大学のパンフレットよ。推薦で行きたいと思っていたんだけど今回の校内コンクールを逃しちゃったから絶望的なのよね。まいっちゃったわ」

「そうなんだ。残念だったね。でも、あきらめるのは早いんじゃないかな。康子さんのいいところは粘り強いってところだと僕は思うよ。たしか、校内コンクールの順位をつけたのは美術教師の正樹先生一人だよね。そういえば正樹先生は非常勤講師で正式採用してくれる高校を探していたような。この学校は市立だから、誰か強い権力を持った人が一声かければ何とかなるかもしれないけど、、、どうなのかな。分からないや」

 龍之介の話を聞いた康子は、目を見開き、何かを思いついた表情で立ち上がった。

「ありがとう。いいこと聞いたわ」

 そう言うと康子は、美術準備室の方向へと走り去っていた。

 そして、龍之介はゆっくりと多目的教室の方向へと歩いて向かうのであった。


ー5分前ー

 この日、龍之介は生徒会長選挙に立候補した。そして、この学校のスクールカースト1軍で、さらにその中でも中心人物である加奈子の票をどうしても欲していた。彼女の票を獲得さえできれば、おのずとその取り巻きからの票も集まるからだ。

 龍之介の思考速度は、凡人のそれとは大きくかけ離れた速さで、人間の行動を数日先まで見通すことができるほどの持ち主だ。だがそれを隠して、日々生活を送っている。なぜなら、人はあまりに巨大な能力を目の当たりにすると、恐れをなして誰も近寄ってこなくなってしまうからだ。


 そんな龍之介が、何か思いついたようだ。

(ん?あそこに座っているのは康子。そういえば美術大学に行きたいと言っていたな。そして彼女の父親は確か、市議会議員だったかな。

ということは、あれがこうして、こうなって、はいはい。見えたぞ見えたぞ、この先ごっそり見えたぞよ。

 それでは人間の欲望ドミノ第一押し目いってみましょうか。最後はちゃんと受け止めますぞよ。)



ー事件解決から1分後ー

 龍之介は、多目的教室から全員退室したのを確認して、割れた窓ガラスと展示物を片付けながら心の中で笑っていた。

(ふっふっふっ。5分前に立てた計画が見事成功するとは我ながら恐ろしいほどの高IQだ。百万はあるんじゃなかろうか。

 加奈子は虚栄心と嫉妬心が強いから、必ず工作物を壊すと思っていたけれど、まさかピエロ恐怖症の嘘が出てくるとは思わなかったがな。当初の予定は、壊した事実を隠すことを条件に、取り巻きからの票を集めるように約束させることだったけれどまあいい。加奈子との秘密を今後も使えるだろう。全てはわれの思い通りになった。この調子で必ず生徒会長になってみせるぞよ。これこそがわれのドミノ第一押し目なのだ。


 われがここで生徒会長になることは不可欠なのだ。が将来、この国を動かす総理大臣になるためにはな。ふっはっはっはっ!!)


おわり



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欲望ドミノは倒された 団田図 @dandenzu

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