甘くないお仕事 ~初めてのお使いは陰謀の香り~
滝野れお
プロローグ🍀ヴィクトール王子のむちゃぶり
「──ねぇイザック。きみの隊に、女の子、いるよね?」
執務机に頬杖をつきながらそう呟くのは、くせのある金髪に青い瞳が麗しいヴィクトール王子だ。
傍らに立つ背の高い銀髪の騎士イザックは、嫌な予感にピクリと眉を動かした。
ここはラキウス王国の王都にそびえる白亜の王宮。
その一角にあるヴィクトール王子の執務室は、王宮内とは思えぬほど簡素で地味な部屋だ。扉を開けると右わきに長椅子とローテーブルがあり、正面には執務机。窓は小さく、壁一面が書棚になっている。
そんな質素堅実な部屋でヴィクトール王子の執務机の脇に不動の姿勢で立つのは、王子の護衛騎士イザック・リベリュルだ。
一般の騎士たちよりも頭一つ大きく、その端正な顔立ちから王宮で働く女性たちには人気だが、一片の温かみも感じられないアイスブルーの瞳は「ひと睨みで相手を凍りつかせる」という噂が絶えない。
ただ残念なことに、ヴィクトールには全く効かないらしい。
「は? 何を仰られているのですか殿下。わが隊に女子はおりません。あれは隊舎付きの侍女です」
イザックの瞳に剣呑な色が浮かぶのを確認して、ヴィクトールはにっこりと微笑んだ。
「侍女だって、きみの部下には違いないよね? だって普通の侍女じゃなくて黒狼隊の侍女だよ? 当然、普通の侍女仕事だけをさせるつもりじゃないよね?」
ヴィクトールが言い募ると、氷の騎士はコホンと咳払いをして視線を逸らした。
「彼女を使いたい。構わない、よね?」
ヴィクトールが小首を傾げて見上げれば、渋々といった顔でイザックが頷く。
護衛騎士にして黒狼隊隊長の彼でも、王子のお願いには逆らえないのだ。
満足気に頷き返したヴィクトールは、その端正な顔に微笑を浮かべた。
「では、詳細を詰めよう。彼女には準備が整い次第、任務に就いてもらうからね」
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