復讐少女の夜は明けない

ふぃるめる

Prolog

 復讐少女

 ―1580年イタリア北東部フリウーリ地方―


 「このフェリーチェ・ダ・モンテファルコの前において、まだ悪魔崇拝をしていないとぬかすつもりか?」

 「この者達は、伝統的に幻視をする稀有なもの達で、魔女と戦い我らの豊穣を守護してくれているのです!」


 この高圧的な言動のモンテファルコという男は、ローマの異端審問会から派遣されてきた異端審問官だった。


 「幻視を見るなどますます怪しい。聞くところによれば、その者等は夜に魂を動物などに変えて旅をするそうだなぁ?」

 「その通りでございます」

 「夜に旅するなど魔宴サバトに行っているに違いない」

 「とんでもない言いがかりです!」

 「ならばなぜ、夜に魂のみで旅をするのだ?ひょっとして村長、お主も怪しきベナンダンティ共とともに処断されたいのか?」


 凄みをきかせてモンテファルコは、扇子の先で村長カルロの顎をつつく。


 「そ、それは……いやしかし……」


 全身に冷たい汗をかきながら、カルロはたじろぐ。


 「そうかそうか処断されたいか。この者をベナンダンティ共と一緒に十字架に縛りつけろ!」

 

 モンテファルコの指示を受けて異端審問に加担する修道士達が、広場に用意した十字架にベナンダンティ達を縛りつけていく。


 「俺達は異端なんかじゃない!」

 「魔女と戦っているんだ!」


 ベナンダンティが待ち受ける死に抗おうとすると


 「悪魔崇拝者は、喋るな!」


 と修道士達に寄って集って蹴り付けられる。

 動かなくなるまで或いは喋れなくなるまで蹴りをいれられると、もはや手慣れた様子で十字架に縛り付けられるのだった。


 「お前達の穢れきった魂は、神の御名みなの元に浄化されていくからなぁ?次にこの世に生まれ落ちるとき、曇りなき眼となっていること、このモンテファルコが保証しよう」


 十字架に縛られたベナンダンティを前に満足そうな顔をしたモンテファルコは言った。

 手足に釘を打って固定するのではなく、縄で縛っているのは、せめてもの情けと言えた。


 「さて、そろそろ火の用意は出来たか?」


 既に十字架の周りには薪が置かれており、後は着火するだけとなっていた。

 もはやベナンダンティ達には抵抗する気力もなく、虚ろな光を失った目で燃え盛る火を眺めるのみだった。


 「準備整いましてございます」

 「そうか、ご苦労だったな。この者たちを浄化してやれ」


 モンテファルコは、高揚感に歪んだ笑みを浮かべながら両手を広げ尊大に言った。

 修道士がその指示に従い火を移そうとしたそのときだった――――


 「浄化されるのはお前だ。モンテファルコ!父の仇!」


 漆黒の靄を纏った少女が一人、広場に現れた。


 「何奴!?」


騎士達や修道士に守られるように囲まれたモンテファルコが誰何する。


 「貴様が嬲り殺しにした我が父の名を覚えていないのな!?」

 「異端共の一人一人をいちいち覚えていたら気がおかしくなりそうだ」


 さも興味なさそうな声音でモンテファルコが言うと、少女は騎士達が持っているのと同じ剣を鞘から抜いた。


 「私は、パオロ・ガスパルットの娘、アルマ・ガスパルット!父の仇、討たせて貰う!」


 これは、父の仇をとるために、魔女狩り根絶の為に自ら魔道に身を堕とした少女の復讐譚――――。

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