閑話 とある夜

 昼寝をしていたら、もう夜になっている。みんなもう夕食食べてるかも。


 そう思いながら扉を開けると、料理が用意されたリビングで、リークとミルが落ち着かない様子で座っていた。


「ミル、リーク、どうしたの?」


 俺がそう話しかけると、ビクッと過剰な反応を示すと、ぎこちない笑みを浮かべながら言った。 


「い、いや、何もないわよ?」


「そうですよ。ほら、もうすぐ料理が整いますので、座って待っていましょう!」


 何かに緊張しているようで、料理を見ながらじっと固まっている。


 一体どうしたのだろうか?


「その料理がなんかおかしいの?」


 と俺がそう聞くと、二人はだらだらと汗を流しながら何かを誤魔化すようにして言った。


「そ、そんなわけありませんよ。真理さんが作った料理ですので何も入ってないですよ」


「そうよね。何も入れてないし入ってないわ」


 うーむ、二人は何かを隠している様子だ。一体何を隠しているのだろう?


 俺は疑惑の眼差しで二人を見つめる。


 ジーッと、ジーッと、見つめてみる。


 二人はどこかを見ながら平然を装っているが、どこかいつもと違う感じだ。


 俺は諦めて椅子に座ると、二人はホッと溜め息をついた。


 やがて、真理が料理を作り終え、昼寝をしていた猫耳少女が夕食の匂いに釣られてやってくると、みんなで料理を食べ始めた。



 真理を除いた3人は、料理を食べないまま俺をじっと見つめている。


 一体何だろうと思いながらも、目の前の料理を口にしようとすると、隣に座っていた真理が俺の服の裾を掴み、何かを言いたげにこちらを見ている。


 やがて、自分の前に置かれた料理をスプーンに乗せ、俺の顔に近づけると、頬を赤く染めながら言った。


「あ、あーん?」


 かっ、可愛い!可愛すぎる!


 俺は顔の前にあるスプーンを口に咥え、飲み込むと、真理は嬉しそうに頬を染めた。


 俺と真理以外の3人は、未だ料理に手をつけぬまま、じっと俺たちの様子を見ている。


 真理はまだ何かを言いたそうに俺を見つめていたが、やがて、待ちきれないといった様子で口を開いた。


「優も、私に、あーん?、して」


 真理が恥ずかしそうにそう言うと、3人は慌てた様子でこそこそと囁きあっている。


 まあ、ミルとリークはあんまりそのことに触れて欲しくないみたいだし、大丈夫か。


 そして、俺は改めて真理の方を向くと、真理は無表情のままこちらを見つめていた。


 俺と真理との間に、変な雰囲気が流れた気がしたが、俺は平然を装いながら料理に刺さっていたスプーンを持ち上げると、ひな鳥のように口を開いていた真理にそれを運んでいく。


 真理はそのスプーンをはむっと口に咥えると、頬を赤らめながらも幸せそうな表情で微笑んだ。


 その様子を見ていた3人は、やっちまったというように目を瞑り、諦めたような顔をした。


 しかし、もう一度俺を見ると、熱心な眼差しで、何かを期待するように料理を見た。


 そんなに見られてたら食べにくいなー、と思いながらも普通に食べ始める。


 俺が料理を口に含んだ瞬間、3人はハイタッチを交わし、自分たちも料理を食べ始めた。


 俺と真理は、不思議そうに顔を見合わせると、2人して首をかしげた。


 やがて、みんなが食べ終わると、各々が自分の部屋に戻り始めた。


 猫耳少女は、ミルとリークにサムズアップをすると、2人は覚悟を決めたような顔をして、サムズアップを返した。


 いつも無表情の真理は、何故か頬を赤らめながら、はあはあと呼吸を荒くして自分の部屋へ戻っていった。


 みんな今日はおかしいなあ?Sランク冒険者になったから浮かれてるのかな?


 俺はそう思いながら部屋へ戻った。



 部屋で、初級魔法を精密に発動できるよう練習しているときのことだった。


 もう夜遅くなのに、俺の部屋の扉からトントンとノックの音が聞こえると、上品なネグリジェ姿の真理が入ってきた。


 真理の表情は、熱に浮かされたように真っ赤で、はあはあと荒い呼吸をしている。


 具合が悪いのかな?と俺が心配していると、真理は俺の近くにやってきて、金色の瞳を俺に向けた。


 たっぷり数十秒ほど見つめ合うと、真理は俺のことを押し倒し顔を近づけると、強引に俺の唇を奪った。


 至近距離で見つめ合ったまま、ゆっくりと唇を離すと、瞳を潤わせながらこう言った。


「優の、子供が欲しい」


 そう言って服を脱ぐと、扇情的な下着と、それによって隠されていた質感のある四肢が露になった。


 互いの体を密着させると、温かく、柔らかい物体の感触が下着越しに伝わってきた。


 真理が、胸を覆う薄い布を外そうとしたときだった。


 開けっ放しになっていた扉から、慌てた様子のミルとリークが入ってきた。


「な、ななな、なんとことしようとしてるのよ!」


 ミルは俺たちを見るや否や、赤く染まった表情で、そう叫んだ。


 リークは顔を手で隠しながらも、指の隙間からは、バッチリと俺たちを視認しているところがわざとらしい。


 真理は、火照った顔で荒い呼吸をしながら扉の近くに佇む2人を見た。


 やがて、半裸のまま2人に近づくと拳を握り締め、黒と金色の頭に一発ずつ拳骨を放った。


 2人は涙目で殴られた箇所を押さえると、キッと睨み付けるように真理の方を向いたが、真理は俺を一瞥すると、名残惜しそうに部屋を出た。


 ミルとリークは、冷たい視線を俺に向けると、逃げるようにして部屋から出ていった。


 

 やがて、残された俺のもとに、悪戯が成功したときのような表情を浮かべた猫耳少女が現れた。


 猫耳少女はニヒッと笑って床に座ると、愉しそうに瞳を輝かせながら言った。


「おにーちゃん、どうだった?3人とも面白かったね!」


 いつもとは違う悪い笑顔でそう言うと、ネタバラシをするように語りだした。


「ミルちゃんとリークちゃんが私に言ったの。『時間差で効果が出る、強い媚薬を作って』って。びやく?っていうのは分からないけど、何か作れそうな気がしたから作ってみたの!」


 媚薬、だって?まさかあの料理に……


「できた薬をおにーちゃんの料理に入れてねー、おにーちゃんが食べるのを待ってたんだけど、マリちゃんに食べさせちゃったんだもん。もう、びっくりした!」


 ニパーっと、いつもの笑顔でそう言っているが、あの二人の慌てようはそれが原因か。


 まさか、真理がああなっていたのは……


 と俺が推測すると、猫耳少女はニヒッと笑いながら言った。


「そしたらマリちゃんにその効果がでてきてねー、だからあんなふうになっちゃったの」


 やっぱりな。なんか様子がおかしいと思ったもん。


 それにしても媚薬か……。


「ねえ、それって俺にも作ってくれる?」


 俺がそう言うと、猫耳少女はニッコリと笑って言った。


「だめ!」


 そう言うと、部屋から走っていった。



 既に夜遅かったため、もう一度寝ようとしたが、真理のあの表情を思い出して悶々としていると、結局朝まで眠れなかった。

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