第19話 助けた少女は……

 サバトに乱入し、魔女や悪魔たちを壊滅させた後、ミルとともに真理たちのもとへ戻ると、猫耳の少女が手を振っていた。


「え、誰あの子?」


 俺はミルにそう聞くと、呆れた表情で言った。


「あれは、あなたが助けた女の子でしょ?もう忘れたの?」


 あ、そうなの?助けたときは頭を鷲掴みにされてたし、上空に放り投げたりしてたから気づかなかったわ。


 その子は手を振りながら俺の近くまで走って、勢いよく抱きついてくると、無邪気な笑みを浮かべながら言った。


「おにーちゃんが私を助けてくれたんだね!ありがとー!」


 元気な声でそう言うと、大きく頭を下げて、にっこりと笑った。


 くっ、なんて可愛さだ。ミルと真理をいつも見てなかったら危うく死んでいたところだ。


 俺はそんなことを考えてながら猫耳の少女をじっと見つめた。


 銀色のショートカットに、緑色の瞳。その瞳は暗闇の中で爛々と光っている。


 身長はミルよりも少し低いくらいで、小学4年生ぐらいの見た目をしている。


 その子は、ニコニコとした笑みを浮かべながら俺を見つめている。ヤバイ!可愛い!


 俺は平然を装いながら、ゆっくりと聞く。


「名前はなんていうの?」


 俺がそう聞くと、うーんと唸るようにして考えだしたが、やがてニパッと笑って俺を見ると、元気に答えた。


「分かんない!」


 え、ええ?どうすればいいかな?


「お、お母さんとかお父さんはいるかな?」


 今度は、考える素振りも見せず、そのままの笑顔で言った。


「分かんない!」


 おいおい、嘘だろ。これはちょっとまずいんじゃないか?


 ミルやリークを見ると、困ったような顔をしている。おそらく俺も同じような表情だろう。真理は相変わらず無表情だが。


 今度は俺たちが唸るようにして考えていると、大きくお腹の鳴る音が聞こえた。


 音がした方向を見ると、ニパーっと笑っている猫耳少女が口を開いて言った。


「お腹空いた!」

 

 俺たちは顔を見合わせると、指輪の空間に行くことにした。


 異空間へとやってきた猫耳少女は、目を輝かせると、興味津々といった様子で忙しなく辺りを見回している。


 俺はそんな猫耳少女を見てホッコリとしていたが、やがてミルが思い出すようにして言った。


「あの子、どうするの?」


 俺と猫耳少女を交互に見ながら言った。


 そんなこと言われても、今のところどうしようもないんだよなあ。


 再び唸るようにして考えていると、キッチンで料理を作っていた真理がやってきた。


「あの子、飼い主が見つかるまで、飼ってたら?」


 いや飼い主て、猫じゃないんだから。


 ……猫だけど。


 それを聞いたミルは、少し考える素振りを見せると、俺を見て言った。


「まあ、それでも別にいいと思うわ。下手に探しても見つからないと思うし」


 そうかもしれないけど、俺たちの冒険に連れていくのは危険だからなあ。


 そう思って猫耳少女を見……いない!


「ちょっと待って。あの子どこ行った?」


 ミルとリークも猫耳少女がいないことに気づいたようで、辺りを探し始めた。


「とりあえず、手分けして探そう」


 そう言って、色々な部屋を探し、次の部屋は行くと錬金術の工房だったのだが……。


 猫耳少女が真剣な顔つきで何かの実験をしていた。


 え、あの子なに作ってるの?


 緑と青の薬品を試験管の中で混ぜ合わせると、急に立ち上がり、目を輝かせながら嬉しそうな声で言った。


「できたー!」


 試験管の中の液体は、濃い緑色をしており、如何にもヤバそうな雰囲気が漂っている。


 やがて、扉の前でその様子を見ていた俺を見つけると、シュタタっと素早く俺のもとまで駆け寄ってきた。


「おにーちゃん!これ飲んで!」


 ヤバそうな液体を俺の顔のすぐ前まで近づけると、フリフリと尻尾を揺らしながら、期待の眼差しを向けながらそう言った。


 だが……


「いやー、それは流石の俺でも……ね?」

 

 自分でも何が、ね?なのかは分からないが、とりあえず飲んではいけないのは分かる。


 そんな俺の表情を見て、悲しそうな顔で瞳をうるうると滲ませた猫耳少女は、俺の瞳を見つめながら言った。


「私のじゃ、ダメなの?」


 飲みますよ、飲んでやりますよ!おにーちゃんに、まっかせなさーい!


 俺はその試験管を受け取ると、勢いよくグイっと飲み込んだ。


 猫耳少女はワクワクとした様子で俺を見つめている。


 おいおい、これからいったいなにが起こるんだ?と思っていると、体の内側から何かが生まれたように気がした。


 しばらくすると、その感覚は体全身に行き渡り、ミルと契約して魂を増やしたときのような感覚になった。


 いや、感覚だけじゃない。本当になってる。


 よく気づいたな俺も吃驚したよなんかおかしいなーって思ってたらこうなってたなんだろうなーなんか変だよな多分あの薬の効果だろうな


 ごちゃごちゃとうるさいので、とりあえず同調を使ってひとまとまりにした。


 これってもしかして……


「ソウルフエールだよ!」


 フフンと鼻息を荒くしながらドヤ顔でそう告げた。


 ソウルフエールって、魂増えーる?


「飲んだ人の魂が、一時的に2倍になるお薬だよ!おにーちゃんを見るに成功したようだね!」


 こ、この子いったい何者だ?


「1日に5回以上飲んだら死ぬからね!」

 

 元気な笑顔でそう言った。

 

 何なんだこの子、天才ってやつか?と俺が戦慄していると、ミルとリークがやってきた。


「あ、こんなところにいたのね。……その子、何してたの?」


 ミルが実験器具を見てそう言うと、リークがそれを見て、驚いた様子で言った。


「え?それ、魂魄の神薬じゃないですか!」


 ソウルフエールじゃないの?


「使用した人の魂を2倍に増やす神薬です。この子、一体どうやって?」


 その説明を聞いたミルは、戦慄の表情を浮かべながら猫耳少女を見る。


 当の本人である猫耳少女は、不思議そうな表情で首をかしげている。


 やがて呆れたように首を振ると疲れたようにして言った。


「考えても仕方ないわ。ほら猫耳、ご飯食べるわよ」


 ミルがそう言うと、猫耳と呼ばれた少女は、目を光らせながらリビングへ駆けていった。


 俺たちは溜め息をつきながらその子の後をついていき、5人で遅めの夕食を食べると、一人一人の部屋で寝ることとなった。

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