第40話 海斗の仕事って?
海斗の周りにはいつも女性がいっぱい、考えただけでも目の前が真っ暗になる。麻保は、相変わらずがっくりとうなだれていた。
「麻保ちゃん、そんなにがっくりしないでよ」
すると海斗が心配そうに訊いた。
「おい、田中。彼女に何をしたんだ」
「何もしてないよ。海斗は結構大学ではモテるんだって、話をしただけだ」
「心配させるじゃないかよ。俺全然モテてないぞ」
「そんなことはないだろう」
「ったく、お前ってやつは。麻保ちゃん、こんなやつのこと信用しなくていいから」
海斗は麻保の頭をそっと撫でる。麻保は涙目で答えた。
「ありがとう、慰めてくれて」
「さあ、さあ、元気出して」
それを見た田中はおかしそうに笑った。
「君ら子供みたいだな」
「もうっ、田中さん」
「それがいいところなんだよね、海斗は」
麻保は気を取り直して苦笑いした。
「海斗は、バイト先ではどんなことをしてるんだ」
突然田中が訊いた。麻保は海斗がどうこたえるのか気が気ではない。
「色々だよ、買い物へ行ったり掃除、犬の散歩、料理もするな」
「なんでも屋みたいなもんなんだな。俺にはとてもできそうもない」
「そうだろうな、俺は結構まめなんだよ。そういう仕事をめんどくさいとは思わない」
「へえ、すごいなあ。麻保ちゃんはラッキーだな、こういう彼氏を捕まえて」
「そりゃそうだ」
二人の会話を聞いていた麻保が、割り込んだ。
「だから、女性からもてはやされて仕事がどんどん来るのよね、海斗さん」
「あれ、女性だけじゃなくて最近は男性からも依頼が来るようになったよ。ありがたいことに」
「えっ! そうなの。男女両方だなんて……」
麻保は絶句する。
「そりゃあ仕事の依頼は女性だけとは限らないよ。やってもらいたい事があれば、誰が頼んでもいいんだから。年齢性別問わないよ」
「へっ、へっ、へっ、へっ、へええ~~~~っ」
「おかしな麻保ちゃんだな」
田中が怪訝な顔で麻保の様子を見ている。なんかこの娘変だなあ、という顔をしている。
「麻保ちゃん、海斗の仕事を何だと思ってるの」
「そっ、そっ、そっ、そんなこと私が答えていいの?」
「君の反応ものすごいからさあ」
「だっ、だっ、だっ、だって~~~私の口からは答えられない」
「だったら、海斗がしっかり説明してあげた方がいいよ」
「そ、そ、そ、そ、そんなあ~~~! 説明なんかしなくてもわかってるわ」
「ほら、焦ってないで、なあ海斗」
「ああ、麻保ちゃん」
麻保は下を向き顔を真っ赤にさせている。恥ずかしくてとても聞く気になれない。彼氏代行で来ているうちに付き合いだしたことが田中にばれてしまう。
「ねえ麻保ちゃん、耳なんかふさがないでちゃんと話を聞こうよ。さあ、海斗」
「俺の仕事は麻保ちゃんも知っての通り、家事代行サービス。まあ仕事の内容は種々雑多、依頼人の要望次第でいろいろなことをしている。依頼人は老若男女、必要とあればどこへでも行く」
麻保はぽかんと口を開けた。
今まで彼氏代行業だと思っていたのに家事代行だなんて。自分の勘違いだったのか。姉の未津木の説明がおかしかったのか。だが未津木はなぜそんな嘘をついたのだろう。嘘をつく必要があったのか。おかしい、絶対におかしい。
お姉ちゃん、いったいどうして私をだましていたの。目的は何!
麻保は混乱した。その気持ちをぶつけたくても誰にぶつけることもできず怒りが沸々とこみあげてくる。
「麻保ちゃん、どうしたの。真っ赤な顔をして、卒倒しそうだけど」
「だ、だ、だ、だ、大丈夫です! 何でもありません」
海斗のことを彼氏代行だと思って見ていたなんて口が裂けても言えない。ここはだんまりを決め込むしかない。
「そうか、それならいいけど。海斗、なんか麻保ちゃんヘンだぞ。どうかしちゃったみたいだし、かなり驚いてるみたいだけどどうしてなんだろう」
「な、な、な、何でもありませ~~~~んって! 勘ぐらないでください、田中さん!」
ああ、もうこの場からいなくなりたい。この気持ちどうすればいいの。恥ずかしくて消えてしまいたい……。
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