第23話 麻保の公園デート
「ちょっとあそこへ行きましょうよ!」
と麻保が指さしたのは木陰のベンチだった。休憩するにはおあつらえ向きだな、と海斗は返事をした。
「少し休憩しましょう」
「はいっ」
そのつもりだった。トイプードルはちょこんと行儀よく膝の上に乗り、ミッキーは麻保の顔をチラチラ見ながら麻保の足元に座った。海斗のすぐ隣に体を滑らせ麻保が座った。
二人でベンチに座っていると、そよ風が心地よく吹いてくる。
今日は絶好のデート日和、と麻保が心の中で呟く。
こういう時間を有効に使うにはどうすればいいのだろう。どんな会話が盛り上がるのか、デートなどしたことのない麻保は、話題が思い浮かばない。
「麻保さん、何を深刻な顔をしてるんですか。悩み事でもあるんですか?」
「いえ、悩み事などありませんが……」
目下、話題を探索中だ。
「ないけど、考え事をしてますね」
「考え事をしているんです」
こうなったら、相談に乗ってもらうことにしよう。
「そういろいろな闇が多くて、考えてたんです。相談に乗ってもらえますか?」
「内容にもよりますが。いいですよ、麻保さんの頼みなら、力になりますよ!」
「ええっ、嬉しい。じゃ、連絡先を教えてもらえますか。仕事のないときでも、連絡が取れるように、ねっ、どうですか?」
麻保は、明るく微笑みながら人差し指を頬に当てた。それから少し首を傾げ、目を瞬きさせた。わざとらしかったかな。
「いいでしょう、お互いの連絡先を交換しましょう」
おお、やった! 言ってみるものね。これでいつでも連絡が取れる。
海斗はスマホを取り出し、麻保と連絡先を交換した。
姉からは契約彼氏はプライベートでは付き合いはできないといわれていたが、相手が構わないと言ってくれたのだからいいのだ。
「ところで、相談したいことって何ですか?」
麻保は、考えてこんだ。せっかく二人だけで話せるいいチャンスなのだが、特に悩み事などなかった。再び必死でアイデアをひねり出した。
「あの……えっと、自分の性格のことなんです」
「性格ですか~~。何を悩んでるんですか」
海斗はきょとんとしている。
麻保さん、特に問題はなさそうだけど、悩み事って何だろう。解決できるかどうかわからないな。
「私、友達を作るのが下手なんです。だから、どうやったら親しい友人ができるのかと、しょっちゅう悩んでるんです」
「そうですか~~、とてもそんなふうには見えないけど。どちらかといえば社交的なほうだと思いました」
「そんなことないんです。もしよかったら、私の練習台になってくれたらいいんだけど……」
「僕と友達を作る練習をするってことですか」
「あっ、練習だけではなく、本当に友達になってくれたらうれしいけど。煩わしかったらいいんです、こんなお願いおかしいものね」
海斗は、しばし考えた。練習台と称して、自分の都合に合わせて時間も場所も構わず呼び出されたのではたまったものではない。こちらにも都合がある。
麻保はじっとうつむいてしまった。返事を待っているのだ。しみじみ彼女の横顔を見た。少しシャイで、なかなかした親しい友人ができない。きっと、自分の気持ちを伝えるのが下手なだけなのだろう。それならば、自分が彼女の気持ちを解きほぐしてあげようか。今時そんな性格の彼女に俄然興味がわいてきた。
くっきりとした瞼に、ちょっと上向きの唇、つんとまっすぐ伸びた鼻の形も可憐だ。普段は小声で話すが、ソフトクリームを食べた時のリラックスした声はのびやかだ。
話をしていると、ほんわかと優しい気持ちになってきた。これは彼女の持つ独特の雰囲気だ。良い友達になれるかもしれない。
「いいでしょう。友達一号の名誉ある役割を引き受けます」
「わあっ、よかった」
海斗もその返事を聞きほっとした。麻保の申し出を断ったら、泣き出していたかもしれない。彼女の友達になるのは楽しそうだ。
「では、友達になった証に」
「……はい、証に……」
海斗は手を差し出した。きょとんとしている麻保にいった。
「握手です」
「わあ、いいですね」
麻保はきつく手を握った。今日から堂々と友達として会える。麻保は、ニンマリした。
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