第21話 海斗の仕事先を聞きジェラシーを感じる麻保
「あの……明日は日曜日ですが、仕事があるのですか?」
「はい、おかげさまで入ってます」
おかげさまでって、不思議な返事。契約彼氏は、繁盛してるってこと。それだけお客さんがたくさんいるのね。
「そうですか、繁盛しているんですね。やっぱり家みたいなところですか?」
「こちら見たいっていえば、そうですね。庭があって、お宅も広いですね」
広い家は、掃除やら何やら大変なようだ。仕事が多くありがたい。庭木がや雑草が伸びる時期も繁盛するようだし。
「お客さんは、どんな方ですか?」
こんな質問をしながら、はっとしてしまった。聞いてはいけないことだったかな。心臓の鼓動が早くなっていく。言葉が上ずり、顔が赤くなっているかもしれない。
「若い奥さんです」
それを聞いた瞬間、心臓が飛び跳ねた。
えっ、若い奥さんが契約彼氏を呼ぶなんてことがあるのか。凄い人もいるものだ、そんなの旦那さんが承知してくれてるんだろうか。どういうこと! 疑惑が広がっていく。
だが、そんなことにはお構いなしに、海斗は平然と話を続けた。
「一人では、いろいろ大変なのでしょう」
「大変とは……」
何が大変なのだろうか。
若い男性を堂々と呼びつけて、私は彼氏もいないっていうのに、っていうか生まれてこの方男性と話したことなどほとんどなかったというのに。
いったいどんな人なのだ!
「素敵な人ですか?」
「とってもお綺麗案な方です」
しゃあしゃあと容姿を褒めている。私のところに来ているのに酷いよ。麻保のプライドが傷ついた。
そんなの許せない! ああ、だけど私の彼氏じゃないんだから、許すも許さないもないんだった。
だけど、ずる~~~い。ずるいよ~~~っ! 美人で広い家に旦那さんがいて、さらに彼氏を呼ぶって。どんな人か知りたい……。そして、その秘訣を知りたい。
旦那さんはそばにいるのだろうか。それとも留守中? いったいどんな話をしているのだろうか、二人きりで。
楽しかった時間が一転。ショックで、今日は立ち直れそうもない。ソフトクリームを食べて、相合傘で喜ぶなんて、私って子供なんだわ……。
「楽しかったですか?」
と言って後悔した。楽しいに決まってる。ああ答えを聞きたくないよお!
「まあ、仕事とはいえ、楽しかったです」
はあ、やっぱり。
「あの、僕はそろそろ失礼してもいいでしょうか?」
「ああ、もうそろそろ時間なんですね」
「Tシャツ洗って持ってきます」
今日もさわやかな笑顔とともに、去っていった。
翌日の日曜日は、からりと晴れて気持ちの良い天気になった。傘の分だけ荷物が減り身軽だ。
仕事先の家へ到着すると、庭の木々がたっぷりと水分を吸い、日の光を浴びて瑞々しく輝いていた。潤いに満ちて、まるで十分に食事をした後のように植物が喜んでいるように見える。
「ごめんください、杉山です」
とドアフォン越しに挨拶すると、絵美里が微笑みを浮かべて返事をした。
「ちょっとお待ちください。今すぐ開けますから」
重厚なドアが開き、再び笑顔を見せた。玄関にはほんのりと良い香りが漂っている。彼女がつけている香水のようだ。
「今日のお仕事は?」
「えっと、まずは、犬のお散歩をお願いしてもよろしいかしら?」
「こちらのワンちゃんですか?」
「そうなのよ。今日は私いろいろ用があって、出られないんです。そのあとは、庭の草取りをお願いします。だいぶ雑草が出てきてしまって」
リビングから外を見ると、あちこちまだらに雑草が生えてきている。
「それじゃ、さっそくワンちゃんを連れて行ってきます」
「大体、このルートでお願いします」
と、絵美里はスマホの画面をこちらへ向けた。目的地は、町の中心部にある公園だった。海斗もスマホを出し、公園の名前を入力する。すると、麻保の家の近くだということに気が付いた。
絵美里と麻保の姉の未津木が友人だったが、家も近くだったのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます