第16話 寄り道は甘~い味

 水たまりに遭遇すると、上手い具合にひょいと飛び越えながら、足元は濡れないでスーパーへたどり着いた。


 買い物リストに従ってかごに入れていくが、一か所ではなかなかいっぱいにならない。


「あれ、あっちこっち、ぐるぐる回ってるわね」

「種類が多いいですから」


麻保は、わざといろいろな種類のものを書いたのかなあ、と姉の策略の意図を探る。たくさんのコーナーを回り、日用品のコーナーにも立ち寄らなければならない。


「あら、洗剤もはいってる。重いんだから、別の日にすればいいのに……」

「書いてある以上買わなければなりませんね」

「お姉ちゃんって鬼ね」


 仕事だから、と海斗は思うが、そんなことはとんとお構いなく麻保は嘆く。


「何もこんな雨の日に、たくさん買い物をさせなくていいものを。お姉ちゃんたらしょうがないわね」


 と麻保はため息をついた。


「よっこいしょっと。洗剤に石鹼に、わあ重いよ~~」

「麻保さん、おーばーですね」

「だって、杉山さん一人だったら、大変だったわ、悪魔ね」

「ハハハハハ、悪魔とは、せめて魔女にしてあげましょう」

「それもいいかも。なかなか言いますね、杉山さんっ」


 意気投合した。こういうショッピングならいつ来ても楽しい。


 すべて買い物を終えるころには、カートに三つあった買い物かごがいっぱいになった。


はあ、これは帰りが大変だわ……。


「だいぶありますね」

「すごい量です。杉山さん一人じゃ、持ちきれません」


 言いつけられたからとはいえ、気の毒だ。


「大丈夫、僕が持っていきますから。麻保さんは気にしないでください」

「そんなあ」


 だが二つ持ってきたショッピングにぎゅうぎゅうに詰め込んでも入りきらず、スーパーの袋を買わなければならなくなった。海斗が両手にショッピングバッグを下げたところで、スーパーの袋は麻保が持った。


「やっぱり悪いなあ」

「いいんですっ! 持たせてくださいっ! そうじゃないと、周りの人達が、私のことを悪魔だと思ってしまいますから!」 

「そっか、それじゃ……申し訳ないけど」


 やっと海斗は折れた。


「私だって結構力があるんですよ……」


 両手いっぱいに荷物を持っている海斗は、傘をさすことができなくなった。


 その時急に、麻保は隣にソフトクリーム屋があることを思い出した。早速ねだってみることにした。


「あらっ、杉山さん、私急にソフトクリームが食べたくなりました!」

「早く帰らなくていいんですか? 雨が降ってますよ」

「いいですよ、寄り道したからって、雨が強くなるわけじゃないし、姉にはメールしておきますから」

「わかりました。麻保さんの命令とあらば」


 おお、まるで姫になったような気分。


「では、行きましょう」

「はいっ」


 濡れないように、スーパーを出てダッシュですぐ隣のソフトクリーム屋へ駆け込む。


 客はほかには一人もいなかった。ラッキー!


 麻保は、バニラとブルーベリーのミックス、海斗はバニラを購入。荷物を空いている椅子の上に乗せ、二人向かい合って椅子に座った。


「美味しいわ~~~っ」

 

 麻保は大好きなソフトクリームを海斗と食べられて感激だった。最上部のつんととんがった部分を口をすぼめてチュッと吸う。う~ん、バニラの香りがお口いっぱいに広がって、幸せ~~。脳天につ~んとくる冷たい感触も大好きだ。


「う~ん、美味しいっ!」

 

 海斗も両手の荷物を置いてソフトクリームを一口含んだ。買い物についてきて、挙句の果ては一緒にソフトクリームを食べるなんて、楽しい家事代行だな。でもいいや、こんなお楽しみがあっても。第一、お客さんに誘われて付き合ってるだけだ。

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