最近家事代行のバイトを始めました……だけど何か変だ!

東雲まいか

第1話 ある日の藤堂家

 姉の未津木(みずき)は、何に対しても控えめの妹の麻保(まほ)に言い放った。


「彼氏が欲しいってさんざんいってるけど、今まで男子に話しかけられるたびに下を向いたり、自分から話しかけると焦って目が泳いだり、そんなことじゃ彼氏どころか友達すらできないわよ……。幼稚園のころから、どれだけ機会があったと思ってるの。私が覚えているだけでも十回はあった。すぐ目の前にいるのに、みすみすチャンスを逃してる! 全く私の妹とは思えない奥手ぶりなんだからっ!」


「もう、そのセリフ、聞き飽きたわっ! お姉ちゃんは手が早すぎるのよ。私も気持ちだけは焦るんだけど、目の前に現れると固まってしまうのよ。この性格だけはどうすることもできない。あ~あ、姉妹でどうしてこうも違うんだろう。誰のせい、母親の育て方が悪かったのっ!」


「人に責任転嫁するのはやめなさいよ。だけど、どうしてなんだろう。私たち本当のしまいじゃないのかな。今時、そんな女子、ガラパゴスのイグアナ、違うっシーラカンス、いえいえそれも違うっ、生きた化石みたいなものよ」


「あ~ん、化石なんて言わないでよお。私としては普通の女の子、いいえっ並以上だとは思ってるんだから! しかし、どうすれば彼氏ができるんだろう」


「またその繰り返しね」


 姉の未津木はいつものように妹の顔を見て品定めをする。顔も、悪くはないけど……。


 私よりは劣るかな……とつぶやいた。


「彼氏とは言わず友達でもいいからほしい。あ~ん、それも無理なら、友達じゃなくてもいい、ただ話し相手になってくれるだけでもいい~っ! もう、かまってくれるだけでいいっ!」

「ちょっと、そんなことで泣かないでってば! 情けなさすぎる。よ~し、こうなったら、私に任せておいて」


 未津木は手を打った。疑り深そうな表情の麻保に向かって手をひらひらさせた。


「だけどこのことは誰にも言わないで。私たちだけの秘密。いい作戦がある」


 未津木は妹に耳打ちする。


(かくかくしかじか……)


「ええ~~~っ! そんな仕事があったなんてっ、知らなかったよ~~~!」


「そりゃあね、学校で聞く職業欄には出てないし、大っぴらには知られてないわよ。でもね、ある筋では流行ってるっていうの」


「ある筋、怪しげねえ。大丈夫なの」


「れっきとした職業よ」


「そうなの。私って世間知らずだから知らなかったのね。彼氏代行業なんて仕事があるなんて。だけど、大丈夫なのかなあ。出会い系とか、そういうんじゃないの? 後で問題が起きたら嫌だなあ」


「いいえ、これは仕事なの。だから、絶対に、大丈夫。家に来た時だけ彼氏になってくれて、外へ出たら他人に戻るの。もちろん、気に入らない人だったら、すぐにお断りすればいいの」


「へえ、簡単に解雇しちゃっていいの? 後で問題にならない?」


「そこのところは、普通の職業とは違って大丈夫。心配しないで!」


 ということで、ある男性が紹介されてくることになったのだが、事の真相は、麻保には内緒だった。少しは、話ぐらいできるようになってよ、というのが彼女の本音だったから……。

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