先輩に元彼の話を聞いた
俺は風呂掃除を手っ取り早く済ませて、先輩が台所の掃除まで綺麗にしてくれた所で、休憩をお互いにとることにした。ソファーに横並びになって座り、スマートフォンで動画配信者の映像を視聴する。
お互いに違う配信者であるが、それぞれの動画クリエイターが挨拶をしている映像の音が響き渡る。
先輩が見ているのはゲーム実況の動画だろう。配信者がエナジーアイテムやコマンドがどうとか言っている。
一方俺は様々な検証動画を作成しているクリエイターの動画である。チャンネル登録をしている為、最新の動画がアップロードされたと報告が来たので観てみる。
『はい!今日はですね、今相棒のスー君と一緒に夜に徘徊している輩共がですね、最近近所迷惑だと言う噂が、もうわんさか集まってくる訳ですよ』
『そーですね。我々も非常に迷惑していますからね』
『そういう事なので今回は、そんな輩共に幽霊ドッキリを仕掛けて祟られて貰うという内容でございます!』
二人で拍手をしている。
このクリエイターはかなり過激な動画が多く、チャンネルもBANを一度貰った事でチャンネルを変えたコンビクリエイターである。
このクリエイターは今ではアカウントが停止してしまうような動画に挑戦し続け、過激系の頂点を目標とし活動しているのである。俺はそういうクリエイターが大好きだ。
グレーゾーンから完全アウトな動画に挑戦するクリエイターは数を減っている。その中彼らの動画は常にアカウントBANを貰ってもおかしくない動画に埋め尽くされ、俺の退屈を忘れさせる。
「亮ちゃん何観てるの?」
「この人達知ってます?」
俺はチャンネルを先輩に見せる。
「何この人達?」
「こういう過激系に挑戦する人達なんですけど、俺がハマってるクリエイターです。見てみます?」
「…あっ、いや、私はいいよ…」
遠慮気味だった。まぁ好みも違うし、先輩には合わなかったようだ。
「先輩こそ何観てんすか?」
「私のはゲーム実況者のやつだよ。そんなに有名じゃない人だよ」
「へぇー。ホラーゲーム系ですか?シューティングゲーム系かと思いましたけど」
「さっき観てたのがそうだったけど、これは違う。この人は元々はプロゲーマーだったんだけど、引退して普通にゲーム実況者として配信してら人。めっちゃ面白いし、プレイも上手いから参考になってるから観てたんだ」
「参考?」
「うん、参考。今ハマってるゲームがあるんだけど、そのゲームのプレイをしてくれているんだよ、この人。そのゲームは元々、私の元彼がやってたゲーム」
「えっ?先輩彼氏いたんですか?」
「いたよ?そんなに驚く?大学生くらい彼氏彼女くらいできるでしょ…って、亮ちゃん童貞だったもんな!」
「…ほっといて下さい…」
ニヤニヤしながら先輩が俺を童貞弄りしてくる。実際そうなんだが…
「流石に亮ちゃんも高校くらいはいたでしょ?」
「……いません…でした」
「プフッ!う、嘘でしょ!」
ぷるぷると唇を震えさせながら笑いを我慢している先輩。めっちゃ顔赤くさせていた。
「笑わないで下さい!悪い事ですか?彼女がいなかった事なんて!」
「いや、別に悪いとは思ってないよ。いや、亮ちゃんがあまりにも童貞だって事思い出したら面白くて…」
そして先輩は我慢ができず、大笑いでその場に吹き出した。
「……いや、笑いすぎです」
「あっ!ごめんごめん。つい…」
涙まで流すくらい笑ったのか。だいぶ失礼な気がするが、俺は怒らずに先輩に横目で見るだけにした。
「でもさ、亮ちゃんって学生ではすごいモテる気がするのに、なんで彼女を作ろうと思わなかったのさ?」
「いやまず俺、小学生から中学生の頃なんて異性と話す時間なんて九年間の中で三十分もないほどでしたよ。だって地域も男子ばっかりで、両親と俺と弟がいるだけで。女子なんて関わる機会が少なかったんですよ。高校からは女子と絡むようになったんですけど、ぶっちゃけどの子も好みじゃない人ばっかりでした。俺、ずっと昔から勉強しか取り柄がないように思われてて、今まで異性から全然印象が薄いって言われてましたし。大学生になってから女子達が勢いよく接してくれた人が多くて、今馴染めてるんですよね」
「そうなんだ。亮ちゃん顔もいいし、スタイルもいいし、性格も良さそうなのになんでだろうなぁ。私、亮ちゃんは今年入って来た新入生の中で一番仲良いんだよ?男子も女子も含めて」
「えっ?マジですか?そんな事ないでしょ?だって女子達と仲良いじゃないですか。普段だって付き合いで遊んだりしてるじゃないですか。なんで俺が一番なんですか?」
「亮ちゃんわかってないなぁ。普通女子がいきなり男子と仲良くなるなんて壁が出来たりするもんでしょ?その壁が亮ちゃんの場合なかったようなものなの。なんか優しいなぁって思ってたら、頼りになるなぁとか、人として出来てるなぁとか思っちゃうの。そういう人に女子は頼りたくなるんだよ。亮ちゃんはその素質があった。だから亮ちゃんって女子達の中で結構人気だよ」
「そうなんすか!?知らなかったぁ…」
俺ってそんなに大学でも目立つような人間じゃないからなぁ。どうせただの同じ大学に通う男子大学生としか思われてないのかと思ったら、そんな風に思われていたんだ。
「亮ちゃんってコンピューターとか詳しかったでしょ?だからこの前教えてもらってた女の子が頼りになったって言ってたよ。スペック高いんだから亮ちゃん!」
そう言って俺の肩をポンッ!と叩いた。
俺がそんな風に思われて嬉しい気持ちはあるが、なんせこっちが余りにも女慣れしていないから自信がなかなかつかない。門屋とか細井は以外と堂々と教授や女子に絡んでいたりするのに、俺はあんな風に接する事が出来ない。だから俺は門屋と細井も尊敬している部分はあるのだ。だから一緒にいてよかったと今でも思える。
「門屋とか細井の方がもっと頼りになると思いますけどね」
「そんな事ないよ。もっと自信持ちなよ。亮ちゃんって真面目すぎるのかもね。だからなかなかそういうのに鈍感なんでしょ?ちょっとずつでいい。段々自信持つようになりな。せっかくのイケメン面が台無しだぞ」
「堂々と…ですか……」
俺はソファーの背もたれに体重を落とした。
「そういえば先輩の彼氏ってどんな人だったんですか?」
「えっ?まぁ…同じ大学の男子同級生だった人」
「へぇ。どんな人だったんですか?」
「…………まぁ普通の人だったよ」
「先輩なんか彼氏さんの話するの嫌なんですか?」
「……正直、元彼は私にとっては最悪な人だった。だからさ誰にも打ち明けずにいた」
「そうなんですか。何かトラブルとかですか?」
「……まぁね。亮介ちゃんなら言ってもいいかもしれない」
動画を消した先輩。俺もその後自分の動画を消した。
「私の元彼、最低な人だった。勝手に私の私物を使っては壊されたりとか、金を錆びってくるわ、後嘘ついて私の事束縛してくるし。そのくせあの男…浮気しやがった……。人の心を弄んで勝手に浮気して、しかも相手を妊娠させたの。その後大学にも来なくなって、辞めたんじゃないか?って噂にもなって。私一年の後期はめちゃくちゃ頑張って単位落とさずに勉強したのは、あの男が居なくなって自由になれたから出来たんだよ。もし、今もあの男と付き合ってたら一年の時留年とかしてたかもしれなかった…」
「じゃあもう彼氏さんと別れたよかったじゃないですか」
「本当だよ。でもその後ストーカー被害に遭うし。私を守ってくれる人が欲しいって思ってた。けど、もうあんな男とは一緒に居たくない。多分元彼は私の事なんて守ってくれるような人じゃないと思うし」
「じゃあ今では彼氏さんと連絡とったりはしていないんですか?」
「まぁね。もう相手にしたく無いし。最初から好印象な感じではなかったらしいし。私が面食いなところもあるから顔で選んじゃったらあぁなって。馬鹿だなぁ私って…」
「まぁ、大学生の男子なんて心から人を愛する人は少ないでしょうね。大体身体目的な人だったりするでしょうし」
「やっぱねぇ。元彼がそうだったもん。ヤラセろヤラセろってしつこかったし。ちなみに元彼もそういう動画が好きだったんだよなぁ」
「え?そういう動画?」
「そういう過激系な人達の動画。だからそれ観た瞬間『うわっ!元彼と似たような感じの動画が好きなのか』ってなってさ。若干引いた」
そうか。だから少し先輩は遠慮気味だったのか。
だが、そんな先輩の彼氏と一緒にされるのは侵害である!
「いやいやいや!一緒にしないでください!俺童貞ですよ?そんな最低な元彼さんとは違いますよ!」
「……プフッ!今自分から童貞宣言した!アハハハハッ!」
「あぁ……確かにそうですね…」
少し萎える。自分から童貞宣言するって非常にダサいから。
「でもいいもん!亮ちゃんはそんな人じゃないって分かってる。だって真面目にバイト行ったり、人に思いやりがあったりと元彼とは全く違うから」
「そうですか。まぁ、先輩が安心してくれるなら嬉しいですね」
俺はもうすっかり暗くなった外の景色を観てカーテンをゆっくりと閉めた。
「あっ!そうそう。亮ちゃんさぁ、私の住んでたマンションに時々郵便とか色々来ると思うの。それ、私一人で取りに行くの怖いから、たまにでいいから一緒に来てくれない?」
「そうっすね。いつか取りに行きましょう」
そう約束をした後、お風呂を沸かしに行った。そして先に先輩が入ることになって、俺は布団の用意をする事にした。
大学生活がストーカー被害女子の先輩によって一変したんだが… 森ノ内 原 (前:言羽 ゲン @maeshin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。大学生活がストーカー被害女子の先輩によって一変したんだが…の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます