第5話 大人のチカラ

 ガガーン、ガコン――

 コーン、コーン――

 扉を開ける音が反響するが気にする事はない。ここは個人で借りている倉庫だし、人が住んでるところからはだいぶ離れている。そばに別の倉庫があるが人が出入りしているのを見かけたことはない。

 そろそろアイツに水分と食料を与えておかないとまずい。


「めんどくせぇなぁ」

 コッコッ

 締め切ったまま3日も開けていない思いドアノブに手を伸ばす


「カレンはここにいるんですね?」


 驚いて後ろを振り向く。後ろから入る光に目が慣れてないせいでよく見えてないが、声には聞き覚えがある。しかもそんなに前じゃない。


「もう……やめませんか、都築さん」

「な、なにを言っているのかね? 君は……確か二日前の……」

「藤堂です。藤堂伊織の兄の。まぁ、伊織しか見てなかった、女の子にしか興味のないあなたには名前なんてどうでもいいんでしょうけどね」


 昨日、カレンを後ろに憑けたまま、また事務所へと来ていた。1度用事があって面接をしている妹がいることで訪れる理由はどうとでもなる。

 またここに来る理由、それはもちろんのことについてだ。

「すいませんちょっとお尋ねしますが、もし義妹いもうとがこちらにお世話になるとしたらどちらの方が担当になるんですかね?」

「ん~そうだなぁ?状況にもよるけど都築じゃないか?アイツ女の子売り出すことに今は燃えてるからな」

 事務所に居た男性の職員さんが答えてくれた。今までこの事務所に何度かお邪魔してきたけど、会った事の無い人だ。もしかしたら誰かのマネージャーさんなのかもしれない。


「そうですか……ちなみになんですけど、都築さんてこの辺りにお住まいなんですか?」

「いや、確か郊外の工場の息子とかで、ここには毎日通ってるはずだけど?」

 めんどくさそうな顔をしながらも一応は答えてくれた。顔は全くこちらを向かないままでではあるが。「なんで?」とか聞かれたけど、その辺は適当な理由をつけて誤魔化ごまかす。

 

――聞きたい情報は充分聞くことができたな。


 あとはその場所を探す事だけど、知っていそうな関係者の人にも聞いたりしたが、一定のそれらしい場所は答えてもらえた。けど、その先まではみんな知らないと返ってくるばかりで、これ以上は俺には探し出せるだけのチカラはない。


『どうするの? もう遅いし明日にしようか?』

 ふわふわと浮きながら目の前にしゃがみ込むカレン。

『そんなに頑張んなくてもいいよ。もうすぐ見つかると思うし』

「いや、いやダメだ。カレンがいなくなって、連絡が取れないままもう1週間以上経つ。今まではもしかしたら説得したりしてどうにかできると思ってたかもしれないけど、それが無理だと、無駄だとわかったらもう止められなくなる」

 反射的にした言葉が意外と熱を帯びていることに少し恥ずかしさもあって、俺はしゃがんだままのカレンから少しだけ視線をそらした。

『じゃぁ、どうするの?』

 ふうぅ~っとため息を一つついて、ズボンのポケットに押し込まれていたままのケータイを取り出した。


「本当はあんまりこの手は使いたくないんだけどなぁ……」

 画面に出たままの名前を見て少し考える。

 そしてタップした


「もしもし、あ、父さん?」




「そうそう……藤堂君だっけ? どうしたんだい、こんなところに。妹さんのことかな? だったら話は明日事務所の方で聞くから……」

 優しい笑顔を向けてくる都築。これが大人の営業スマイルってやつか。って少し感動するがいまはそんな場合じゃない。

「いえ、都築さん。先ほども言いましたけど、もうやめませんか? 日比野カレンさんが、カレンがここにいるんですよね?」

「……」

 こちらを見すえたままの姿勢で何も言わない彼に追撃をする。

 

「俺はもう知ってしまいました。そしてここまで来ている。違うとは言いませんよね?」

 そういいながら俺も入り口から扉をくぐって少し中に入る。間が開いて、都築は腰を折るように小さくなって震えだした。

 

――いや、笑い出した?


「パッとしない小僧のくせに、よくわかったもんだな? お前、カレンの何? カレシ? まったく急に言う事聞かなくなったと思ったらお前か? お前がカレンをたぶらかしたのか?」

 外面をはがした都築は言葉遣いも荒く人が変わったようになった。

 こうして話している間に、カレンにはしてもらいたいことがあるので別行動。これは前日家に帰ってから打ち合わせをしていたこと。

 

 そのことを目線だけでカレンに伝える。

 うなづいたカレンはふわふわと飛んでいくが……。思ったよりもスピードがない。俺は冷たい汗が背中を流れていく。

 心の中で叫んでいた。


――めっちゃ遅くねぇぇぇぇ~!? つか緊張感台無しだしぃぃぃぃ~!!



 ようやく部屋からカレンの姿がなくなった頃、都築が無造作に転がっていた鉄パイプを手に持った。

「知られちゃってんなら一人も二人も同じだからなぁ……。ぼうずぅぅぅ消える前に参考までに一応聞いといてやるよぉぉぉ。何でわかったんだぁぁぁ?」

「わかったわけじゃない。確信があったわけじゃない」

「ならなんでだぁぁぁぁ?」

 

――やべぇぇ~、マジでこのままだとやられる3秒前みたいなかんじ? つか、あの人もまだこねぇし、クソッ!!こいつ、もう駄目だ。後ろのヤツにほとんど飲み込まれてやがる!!


「はじめは、ただの違和感だった。この1週間のあんたたちの行動や言動を聞いて、なんか違うなって思っただけだった。でも義妹いもうとを連れて行ったあの日俺はあんたの背にいる」が見えた。そしてあの言葉」

「あのことばぁぁぁ?」

 焦点が合わなくなった眼が血走り始めている。


「あんた言ったろ?って」

 ぴくっと少し上体が揺れる。

 時間稼ぎをしたい俺はさらにまくしたてた。

「あれは、あれは生きていることを知ってるし、いる場所も知ってるから出た言葉だろ? それに、周りの人が言ってた。あんた、カレンがいなくなって連絡も取れなくなったのに全然探すそぶりもしてなかったってな!」

 そこまでをいっぺんに話したからさすがに息切れした。はぁ、はぁと荒い息をする。こういう時の俺ってほんとに情けない。


「んん~、頭の回る子は嫌いじゃないねぇ。どうだい? きみ、俺とくまないかぁぁ?」

「ぜったいにお断りします!!」

 ばばぁ~ん!!っていう効果音が聞こえてくるようにめっちゃカッコよく決めてみたつもり。


「ただ、どうしてカレンの記憶が駅で消えたのかが分からない」

「あぁ、それは簡単さ。マネージャーが話があるって言ったら、普通疑いなく付いてくるさ。そこを眠らせたんだよ」

くつくつと笑う都築。


「ん~、君は見た目以上に度胸もあるようだねぇ~? でもバカだ。やっぱガキだな。君一人でこんなとこに来て、何ができるのぉ? 大人をなめてもらっちゃ困るよぉぉ」

 都築の目は充血しすでにいた。


――やばいねこれはヤバい。もう完全に冷や汗が止まんないもんね。確かにちょっと考えが甘かったかなぁ?っては思うけど非常にまずいです。


 早く来ないかなぁと思っていると遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

 良かった間に合ったと心の中で何度も繰り返す。俺が待っていたものがもうすぐここに来る。それはもちろん俺の耳にだけ聞こえたわけじゃないみたいだ。

「ちっ、ケーサツ呼んでやがってたのか」

「はい、もちろん。俺はまだ坊主でガキですから、大人の力を使わせてもらいますよ。それに、言い逃れはできませんよ?奥にカレンがいるんでしょうから」


 バンッ、ババンッ


 サイレンの音が近くで止まり、車から人が降りた音が倉庫に響く。

 警察の人が突入してきたのはその後すぐだった。

「都築、都築恵一だな? 未成年略取、ならびび監禁容疑で逮捕する」

「さがせ、どこかにいるはずだ!!」

 先ほどまで緊迫していた倉庫の中にバタバタと数人が駆け込んでいく。

 目の前で取り押さえられている都築は、俯いたままブツブツと独り言をつぶやいているようだが、すでに俺の方に意識が向いているようには見えない。

 まだ彼の背中にはそのモノがついていて先ほどよりも暗さを増して大きくなって見える。


 心の中で舌打ちする。何度も見てきた光景で嫌になる。それも一度ではなく数えきれないほどに。助けることができなかった悔しさもまた押し寄せて来ていた。



「被害者発見!! 被害者発見です!!」

「意識はないようですが、無事です!!」


 その言葉を聞いてようやく安堵した。

 一つため息をついて、ようやく外に出ようと振り向こうとしたが足が動かない。そのうえ震えている。強がってはいたものの、俺はやっぱりビビっていた。

 

――ああぁ~!! びっくりしたさ!!相手大人だし!!こっちは俺一人だし!! カレンいたけど幽霊だし!! それにアイツ鉄パイプとか持ち出してるしぃぃぃぃ~!!


 てなことを考えていたら、警察の方が後ろから支えてくれた。 付き添われる形で倉庫から出たのはおそらくその10分後くらいだったんじゃないかな。


 すでに規制が張られているその下をくぐり警察車両の集まっている方へと誘導される。ちょうど救急車からストレッチャーが出されて倉庫の方へ向かうところだった。これから車の中で事情聴取されるのだろう。


「あれ?」

 俺は場面に似合わない声を上げる。いや正確には上げたらしい。記憶にない。

 歩いた先の車の前に、ヘッドライトでよく顔が見えなかったが、腕を組み足を広げた(言うと怒るからあんまり言えないけど決して長くはない)見慣れたシルエットが見えたから。


「や、やぁ、とう……」

 ゴスッ!!

 ッっ!!

 その場にうずくまる俺。うん、殴られた。マジなヤツ。


「な、なにすんだよ!! 俺は子供だし情報提供者だぞ!! 功労者なんだぞ!!」

「はっはっはっは。何を言ってる。だからこの位ですんだんだぞ!! 父の愛だと思え!!」

 ゴスッ


――まさかの二発目きた~~!!


「ほらっ乗れ」

「わかったから押すなよ!!」

 無理矢理に後部へと押し込められると

「良くやったな……さすが俺の息子だ」

 っと、小さなほんとに小さな声で父さんは言ってくれた。

 これには俺もジンと来て「うん」と頷いた。


 それからその場で事情を聴かれたのだが、その間にカレンを乗せたであろう救急車は行ってしまい、話することはもちろん一目見ることすらできなかった。


 それから俺は警察署へと場所を変えて話をすることになり、そのままパトカーに乗せられ倉庫を離れた。街の中に向かって走っている車の中で、大人の力に感謝しながら、外側から見る街はこんなにキレイなのになぁと本気でそう思っていた……。



 ――後日談ではあるが。

 前の日に息子からの電話で事情を知った父は、その日のうちに上司と掛け合ってくれて総動員して事のウラを取ってくれたらしい。そして倉庫に向かう車中では 「時間に間に合わんと息子が死ぬ!! とばせぇぇぇぇぇ!!」

なんてことを言っていたとかいないとか。


「お義兄にいちゃぁん、お義兄ちゃぁん!! まだ寝てるのぉ? しょうがないなぁもう!!」

 パタパタパタパタ……。

 珍しく朝から家にいる義母さんに何かを言っている伊織の声がする。

 小さくなって行く足音を聞きながら時計に目を移すと、そろそろ起きて支度をしないと学校に間に合わない時間が迫っていた。


 事件から間もなく十日ばかりが過ぎる。

 事件解決当初はアイドルの失踪からのマネージャーの逮捕という、ワイドショー好みの事件とあって連日のように事件が取り上げられて結構な話題提供となったが、ここ最近はそれも沈静化してきた感じがする。チラッとではあるが、俺も映ったとかで学校などでは似ているとか話題に上がったが、俺はそれまでも目立たない地味目キャラだったこともあり、クラスでも2日くらいしか騒がれることはなかった。当の俺はというと、もちろん話題になってることも興味はないしテレビもそんなに見ないこともあって、ごくごく平凡な毎日をごくごく平凡(地味目に)に過ごすことができた。


 そして、あれからカレンとは会っていない。

 いや正確にはそんなことはもう難しくなった。

 ニュースを皮切りに報道による相乗効果も相まって、カレンの加入しているグループ[セカンドストリート]は一躍有名になり今ではトップアイドルとしての位置をつかみそうな勢いになっている。

 報道によると、マネージャーの逮捕をきっかけにしてカレンの脱退やソロへの転身なども噂されていたようだが、事務所ならびにカレン本人によって否定され、グループは更に結束を固めたらしい。


 カレンを監禁していたマネージャー都築恵一は、あれから割とすぐに話しすらできなくなったらしく、今は何を聞いても意味の分からないことを言っているらしい。

「精神鑑定に持ち込まれるなぁ」っと父さんがぼやいているのを聞いた。

 都築恵一を蝕んだもモノ、それは[欲]というものだと思う。

 思うって表現したのは、俺自身がそう断定できるほど知っているわけじゃないからだ。強い欲は表裏一体だと思う。いつもその想いにそれ相応の範囲で応えることができているうちはどうってことないが、応えられなくなった時、対処を間違えたら落ちていくのは簡単なのだ。


「お義兄ちゃん? そろそろ起きてこないとホントのにまずいよおぉ?」


 都築恵一はまさにその落ちていく方だったらしく、初めのころはカレン達と共に頑張っていたが、売れ始めた時から[強欲]というモノに憑かれ始めたのだろう。それが暴走した結果が、今回の事件へと繋がった。

 俺はそう思っている。

 それを止められなかった事を悔しいと思う。最後の瞬間、どうにかこちら側に戻らせることができなかったのかと、いつもこういう時に思ってしまうのだ。

 俺にはまだ、年齢も知識も経験も、体格さえもまだまだ足りないのだと、考え込む日々が続いていく。


「お義兄ちゃんってば!!」


 ばた~ん!!


 勢いよく開かれた部屋のドアから制服姿の伊織が駆け込むように入ってきた。

 さすがに俺もビクッとなって我に返る。


「起きてるなら返事くらいしてよ! もう!! 心配するじゃない!!」

 学校に遅れるってだけで心配してはいってきたの?

 

――あれ? 伊織って心配症だったっけ?


「あ、いや、悪い。少し考え事しててさ……」

「お義兄ちゃん……」

 てこてこって感じで歩いてきて、俺の目の前に立つ伊織。そのまま覗き込んできた顔はやけにいたわる様なそんな感じの表情だった。

 うん、我が義妹いもうとながらかわいいではないか。言えないけど。

「どこか、体調悪いの? なら無理しない方がいいよ?」

 あの日、警察署から帰って来た時、もう日付が変わろうとしてるにも関わらず、伊織はおきていて、俺の姿を確認しケガはないかお腹はすいてないかなど、いろいろと世話を焼いてくれた。

 これにはものすごく反省したのだ。伊織には心配をかけたくなかったから。

「だ、大丈夫さ。心配はいらないよ。ちゃんと制服も着てるだろ? もう部屋を出るところだったんだよ」

 はいこれは嘘です。心配かけたくない優しいウソだと思ってください。


 そしていつものように二人並んで家を出る。途中で俺はコンビニによるから伊織だけが先に着くことになるのだが、これは学校でもあまり目立たない俺の義妹への配慮である。俺とは違って伊織は学校での評判がいい。俺のせいでそれが下がることを防ぎたいなぁっていう、ちょっとしたプライドだ。


 いつものコンビニに着いて伊織を先に行かせ、まず買うものを先に入手してレジまで行かずに店内をブラつく。時間稼ぎをしている。

『助けてくれてありがとう……』

 棚の陰からそんな言葉をかけられたような気がするけど、他にも客はいっぱいいるし、気のせいだと思いながらしばらくの間その店の中にとどまった。


 ――それから二つの季節が過ぎて。



 通学する背中に冷たい風に桜の香りが交じり始める頃

 俺は第二希望の高校に何とか引っ掛かり無事に進級することができた。

 街中から聞き覚えのある声とともに、軽快なメロディーが流れているが歌っている子が誘拐されていたなんて事自体がなかったかのように、世間では語られることはない。

 最近では毎日のお馴染みの顔になりつつある。


 俺ももうあまり思い出すことはなくなっていた。そもそもカレンは彼女が言う通り死んでいなかったわけでつまりは[生き霊]だったわけで、自分の危機を無意識に飛ばしていただけ。元に戻っ時に[生き霊]だったほうの記憶はほとんどの人は残らない。だから今のカレンは俺を知らないことになる。

 俺だけがあの時のカレンを知っているのだ。


「シンジ、はよ!!」

「ウス」

「はよー」

 今のクラスメイト達にあいさつをされる。今の俺は少し暗いけど平凡なクラスメイトくらいの感じでなじんできている。同じ中学卒の奴もいるけど、別段前の俺のことを持ち出すわけでもなく、ただただ平和で平凡な毎日が過ぎていくだけ。高校生生活はそんな感じでスタートした。


 そんなある日、なんか朝からスカッと起きた。


「あれ? お義兄ちゃんが起こされる前に自分から起きてくるなんて‥‥やりとか雹とか降ってきそう」

 なんて、少しだけ身長が伸びた伊織に朝からからかわれた。家族との関係はそんなに変わらないけど、伊織との義兄妹としての距離は少し縮まったような気がする……よね?


「え~ここはこの公式を当てはめてだな……」

 嫌いだった数学の授業もこの日はなぜか楽しかった。

『シーンージ、ク~ン』

「どうりゃ~」

 突然の絶叫が教室にこだまする。

 先生はもちろんクラスメイト達も一斉に視線の集中砲火を一転に集中する。そう俺だ!!


――だって、だってさ、机から頭だけ出てきたんだもん。そりゃびっくりするでしょ!?


「な、なんだ藤堂!! ど、どうかしたか?」

「な、何でもありません! ちょっとその……そう虫が顔に張り付いたものですから!!」

「そ、そうか、よくわからんが気をけろよ~」

 はい、無理っす。その場は、一応笑い声とともに収まったがおさまらないモノがひとつ。


――なにこれ? 怖いんですけど!!


『なんでぇ~会いに来ないのよぉ~~~』


 ――あれ? この声、この髪色……もしかして……。

 極力机の上にかがみこむように、極力小さな声で。

「お前……カレンか?」

『見ればわかるっしょ? あたし以外になんなのよ?』

「え、それは、生首? かな?」


――間違いなくそれ以外ないでしょ?俺間違ってないよね?


『生首って……アイドルの私が……マジで言ってんの?』


――やっべまじでこえぇ。


「てか、なんでここにいんの? あれ? 俺のこと何で覚えてんの?」

『ん~なんか、あの後も記憶ってゆうかあの時のこと全部覚えてのよねぇ……だからシンジ君のことも全然普通に覚えてたよ?』

こっち向いてニコッとするカレンはアイドルスマイルに磨きがかかっていてほんとのかわいかった。ドキッとしちゃったもん……さすがですよもう。

『それに一度シンジクンに憑りついたからか、この状態になるとなんとなくいる場所がわかるんだよねぇ』

なんて笑うカレンの顔は確かによりも少し大人びているような感じがする。


「あれ? お前本体はどこにいんの? まさか、また誘拐とか?」

 あははははって生首が笑う。

『バカねぇ、いくら何でもあの後でそんなわけないでしょ。ちゃんと安全に学校で授業受けてるわよ』

「え? じゃなでそんなモノになってるわけ?」

『ん~良くわかんないんだけど、あれからなんかなりたいって思うとなれるようになっちゃったみたいなんだよね』


――意味わかんねぇし――こえぇよぉぉぉ! しかも軽くストーカーじゃねぇかぁぁぁぁ!!


心の中で叫んだけどもちろん誰にも聞かれることはなかった。

 




 俺は悩んでいた。

 カレンが突然現れて会いに来いと言われたからだが(しかも授業中に)、さてどのようにして中に入って行けばいいのと、カレンの事務所の入るビルの前で。


 ツカツカツカッ

 どーん!!


 俺は派手に転んだ。突然の横からの衝撃に耐えきれなかったのである。


「いってぇ」

「フンっ!!」

たぶんぶつかってきたのは、この「フンッ!!」って言った人で、偶然ではなく狙ってぶつかってきたみたいだ。だってその人がカレンだったから。


「やっと来たわね、さぁ入るわよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

「ダメ!!」

「えぇぇぇぇ!!」


 結局俺は引きずられるようにではあるけど、ビルの中には入って行けたのだった。

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