第14話 立花社長の期待
立花園芸店のシャッターを
鹿能にはいつものような単調な花作りの仕事が続いていた。何だか気が抜けたように
なんやその花は、と気持ちが入ってないと直ぐに見抜かれてしまう。もう昼過ぎだが風が冷たくなり出すと、花より団子じゃないが暖かい物が売れ出す。通りを挟んだ斜め向かいのたこ焼き屋は、ぼつぼつ立ち止まる人が増えてきた。もっともあの店は夏はかき氷をやっているから季節に取り残されないだろう。花は矢っ張り寒くなり出すと鑑賞用に買う人は減ってくる。この季節になると、イベント会場の飾り付けが勝負だが中々注文が来ない。
「例のあの亡くなった会長さん宅はその後どうなってる」
と社長に訊かれても答えようがない。不思議なのは、なんせあの家は今は喪中なのに披露宴の飾り付けを頼まれたからだ。そこで立花さんは、おちょくられているんちゃうかと鹿能に確認を求められた。
「そやかてあそこは喪中やでそんな家が披露宴をするか」
と立花社長にすれば半信半疑なんだ。それより大抵はそんな場合はホテルに入っている花屋に任すのが普通なのに、そこを飛び越えてなんでうちに頼んでくるのか。そこで立花さんは、鹿能に昼飯を奢ったるさかいちょっと付き合えとなってしまった。
珍しくご近所でなく選りに選って、波多野健司が来月結婚するホテルのレストランに連れて行ってもらった。社長、店を間違ってませんかと冗談っぽく正しても、心配するなの一点張りで昼食を摂った。
流石はちゃんとしたホテルの制服を着たボーイが注文を取りに来る。昼のランチを注文するが、鹿能にすればちょっと値が張る。そこは社長だけ有って、夜の食事に誘えば到底この料金では収まらんと、仕事中でも夜より安いと見越して昼食なんかと、鹿能にすれば余計に考えてしまう。
「このホテルで来月結婚する波多野総一郎の息子の健司さんやがなんで内の会社へ花を頼んできたかお前知らんはずないやろう」
と言われたが、料理を目の前にして知らんとは言わさん、と言う雰囲気を社長に作られて仕舞った。
「多分に
「この前の通夜でおうた会長の孫娘やなあ、そやけど決めるのはその娘とちゃうやろう」
確かに言われてみればそうだが、なんせ彼女は亡き会長の遺言の一部を黙殺させた人だ。それ位は遣れても不思議では無い。問題はその微妙なニュアンスをどう説明すれば立花さんに解ってもらえるか、前に出て来た料理を観ながら思案した。
先ずは先日に波多野家の宴会に誘われた話から喋り出した。
「ホウそのお前が孫娘に呼ばれたと云うのはその亡くなった会長が生前に眼を掛けてた片瀬とか言う男の送別会にか」
送別会ではないが再出発を見送る会だろう。立花さんにすれば注文が取れれば良いのだからどっちでも変わりはない。その
「それで会長の本葬はまだ先の話か」
「今年も後ひと月ちょっとですから財界や取引先に来てもらうとすればおそらく来年でしょう」
「そやなあそんな大きな葬儀に内みたいな花屋に頼むわけないわなあ」
立花社長は賑わう表通りをウィンドウー越しに眺めながら寂しそうにポツリと言う。その顔を見ていると従業員ながら何とかしたくなる。
「まあこの前の密葬と違ってお前にあんな大きな会社の社葬の花飾りを頼むわけがないわなあ」
当てにしてへんさかいあの娘とは気楽に付き合え、と云ってるようでも、それでいてまだ
「そいでその片瀬と云う男はもうヨーロッパへ行ったんか」
あの翌日、珍しく希未子は兄の健司と一緒に片瀬を関空まで見送った。その日に希未子さんから電話で、その時の様子を聞かされた。
酔いがまだ残る早朝に片瀬は、泊まり込んだ波多野の家から、関空までタクシーで行かされた。途中で片瀬のアパートに立ち寄って、用意されたスーツケースを積み込んで空港へ向かった。道中は殆どが寝ていたそうだ。空港待合室で三十分ほど話した。その殆どが健司との会話で費やされた。
じゃあ希未子さんは何しに付いて云ったと訊くと、お父さんが気を遣って、是非お前も行けと云われて行ったそうだ。
「それじゃあ、何も、その片瀬とは進展はなかったちゅうことか」
「そうですね主に健司さんが夕べの宴会の続きのように会社の批判、この場合は社長であるお父さんへの愚痴に終始したらしんです」
それで片瀬は希未子さんからは、形ばかりの激励の言葉を受けて出発ゲートを潜った。
「そうかそれで、今日まで彼女からは何の連絡もないんか。何を考えてんのや解らん娘やなあ、熱があるなら見送ったその日にお前をデートに誘って祝杯を挙げても良さそうなものを電話の報告だけか、何度も言うがそれは利用されてるだけとちゃうか」
どうも社長にすれば昼食を張り込んだ割に、味気ない鹿能の報告と、此の見返りのない出費に気落ちしたらしい。
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