第9話 片瀬井津治
先ずは
どうやら祖父は孫娘には片瀬のような男が良いと決めた。そこで片瀬を入社して一年足らずで、そこそこの幹部候補に育てるつもりだったらしい。それも全て孫娘に善かれと想ってのことらしい。全てが想像の域に収まっているのは祖父がハッキリした方針を家族や社内に示していないからだ。祖父に言わせれば黙っていても俺の遣り方を見れば
先ず会長は片瀬の地位を上げようと海外勤務させた。片瀬が欧州担当で暫く留守になると希未子はホッとしたのか感情に変化が現れた。そこで会長は最近になって長男に結婚を仕向けて足元を固めさせるように、片瀬にもその方針に切り替えようとした矢先に亡くなった。
その突然の死に関係者は困惑するのは当然だろう。多分会長はこう言うつもりでやっていると思えばこそ、後を引き継ごうとするものだが。それがあくまでも推測の域を出ない以上は、会長亡き後の方針を巡って社長と長男の健司は、片瀬の取り扱いには注意を払いだした。
息子の総一郎は、父の遺言を汲んで片瀬に伝達する前に希未子の意見を聞いた。それに対して娘は、あたしの気持ちの整理が付くまでその話は暫く伏せて欲しいと留められた。
社長である父は商談が途中なだけに会社として今の商談が成立するまで担当させたいから直ぐにまた北欧へ派遣するつもりだ。
「片瀬さんはいつ北欧へ行くんです」
明日の朝一番の飛行機で行くが、商談が成立すれば海外担当から外してこちらの勤務に成るらしい。関空から北欧は十時間以上掛かるらしい。
「あたしの事を伝える為に片瀬を急遽呼び戻したのに、だから兄は別にしてせっかく呼び戻したお父さんにすれば機嫌が悪いのよ」
「当然だろうなあ仕事をめちゃくちゃにされたんだから」
「そんな事を言われてもそっちがあたしの意向を無視して勝手に勧めるからよ」
希未子にすれば益々意固地になる。娘の性格からしてこれは取り繕いようがないと家ではみんな戦々恐々としてあたしの顔色を窺っている。
「それで片瀬さんとはいつ会ったんですか」
「昨日帰ってきて空港からそのままあたしの家に直行して夕方に祖父の遺骨に線香を上げに来てその時に二ヶ月ぶりに会ったけれど変わっていなかった」
片瀬は兄と同期入社なのでお父さんより気は合う。元々、片瀬は祖父に気に入られてお父さんとはちょっとよそよそしかった。そこを兄にほぐしてもらってなんとか体面は保てたようだ。でも本来片瀬はそんな堅物じゃないからよそよそしいのはお父さんの方なのだ。
「問題は希未子さんとはスッキリすれば家族はそう気を付かわなくていいんでしょう」
「そりゃあそうだけど、でもただいまと言われてハイご苦労さんでもまだないでしょう」
「そりゃあそうだろうなあ」
「いやに簡単に言ってくれるわね」
「それはあくまでも私の預かり知らない処ですからなんとも言いようがないですから」
「まあそう言うことにしとくわ」
「それで片瀬さんとは進展は見られなかったと言うよりおじいさんの遺言は希未子さんに依って封印されて仕舞ったって言うことですか。それもいつ開封されるのかそれとも永遠に訪れないのかそれは希未子さん次第ってわけですか」
「だからあなたを呼んだのです」
「でも出番が来なくなったんですね」
「いいえ有ります今日はその打ち合わせ」
「でももう直ぐ片瀬さんは向こうへ行くんでしょう」
「祖父が亡くなった以上は片瀬をどうするかはお父さん次第でしょう、でも祖父ほどでもないにしろ今までの勤務ぶりからあたしに関係なくそこそこのポストは考えているようね、兄も様子見なのかまだそこまで関与は差し控えている。兄はそれほど権力や地位財産には今の処は放浪癖がまだ抜けきってなくて、それほどの執着心は持ち合わせていないわよ。しかし兄も安定した社会の仕組みに組み込まれてゆくといつ豹変するか解ったもんじゃないわよ」
「お兄さんはそんな人なんですか」
「今はそんな人じゃないと祈りたいわよ」
「じゃあそんなお兄さんと気が合う片瀬さんもそうなんですか」
「そうね放浪癖のない片瀬はちょっと違うでしょう。どっちか言うと兄と違って上っ
片瀬は今の処その両面を小出しするから取っ付きにくい、だからどっちかはっきろしろって言いたい。鹿能さんのように片瀬もなかなか尻尾を掴ませないからあたしも迷っている。
「それは警戒してるんでなく片瀬さんの地じゃないですか希未子さんは先入観が強すぎて考え過ぎていませんか」
彼女は思っていることを余り表面に出さない人を選ぶ。それは何を考えているか解らないからこそ、そこに未知への魅力と可能性を見出そうとする。そう謂う人を育てることを生き甲斐にしたいと希未子さんは思っているようだ。
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