第二十三話 『風邪。看病。二人きり。そして何も起こらないはずもなく…①』

以前も言ったが、俺にとって運動はそこまで苦痛というわけでは無く、むしろ好みの部類に入る。

だから実は球技大会という行事は密かに楽しみにしていた。

そこに来ての高瀬さんから俺の出る競技について決めてくれるということで、俺のテンションはかなり上がっていたのだが…


「……ゴホッ。マジか…」


朝起きて目が覚めると、体に違和感があった。

嫌な予感がして体温計で熱を測ると、表示された数字は38.1。

これまでの人生で風邪というものにかかったことがなかったのだが、何故このタイミングでかかってしまうのか…それでも学校に行こうとする俺に、すかさず母さんから、


「あらあら〜珍しいこともあるものね〜?でも最近はいろんなことがあったから仕方がないかもね〜?だけど風邪は風邪だからしっかり眠って治しなさいよ〜?」


なんて言われてしまった。

まあ冷静になってみれば、周りの人に風邪をうつすなんて論外だからな。別に今日行かなくても明日治れば良いんだし。

大人しく部屋で寝てよう…




あれから昼に母さんがお粥を作ってくれそれを食べた後にもう一度寝て。

そして現在、四時前。目を覚ました俺は…


「……のどかわいた」


ひとまず喉の渇きが酷かったので、水を飲みに一階に降りる。

自室は二階にあり、普段は問題ないのだがこういう時の階段はどうにも忌々しく思ってしまう。

体を引きずりながら台所に行く。リビングには人気がない …が、思い出してみるとそういえば母さんが昼ご飯を食べて部屋に向かう俺に、


「午後はちょっと用事があるから〜看病できないのよ〜ごめんね〜?ただ〜助っ人を呼んだから〜多分大丈夫だと思うわよ〜!」


と言っていた。

助っ人というのは誰か分からないが、ひとまずコップに溢れる寸前まで水をくみ、一気に飲もうと口に近づけて…


ガチャッ。


玄関の鍵が空いた音がした。

おそらく用事とやらが早く終わった母さん--いやもしかしたら母さんの代わりに父さんかも--が帰ってきたのであろうと、あまり気にせず水を飲もうとした瞬間、彼女が目に映った。

高瀬魅依。なんだか最近はちょっと押しが強く感じるが、それでもそれを補って余りあるぐらい俺に対して気を使ってくれていて、尚且つ俺と交友関係を何でか分からないが今でも続けてくれている、学校三大有名人のうちの一人。

彼女を見た瞬間、思わず口に含んでいた水を吹き出してしまった。


「ブッフォ!!」

「だ、大丈夫ですか大輔くん!?」


いやいやいやいや。そうじゃないだろ!

何で高瀬さんがここにおるんや!まさか母さん助っ人って高瀬さんのことやったんかいな!

ていうか高瀬さんあんた鍵はどうしたんや!?

……驚き過ぎて全く関係ない関西弁が出てしまった。


「あ、この鍵ですがお母様からお借りしています。なんでも外せない用事があるから大輔くんの看病をしてほしいとのことでしたので」

「ええ……」


母さんあんた…まあ確かに高瀬さんならうちの鍵を悪用はしないだろうけど、そもそもの話そんな簡単に病人とは言え男一人しかいない家にか弱…くはないけど女子を呼ぶかね?

……俺が手を出すことはないと信頼されてる、そういうことにしよう。決してヘタレとか意気地なしとかみたいに思われてるとかじゃない、はず!

お、俺だってやるときはやれる男だし!


「大輔くんはか弱い私に手を出すんですか?」

「いいいいいイヤイヤ、ソンナコトスルワケナイジャナイデスカ!」


ああ〜心が読まれてるんじゃぁ〜

そしてちゃっかりか弱いを強調してる…


「というわけで大輔くんのこと、しっかりと看病して、お世話させてもらいますね!」

「は、はい」


うーん、なんか楽しそうに見えるのは気のせいだ。気のせいだと思いたい。


ていうかこの二人っきりのこの状況、別な意味で熱が出るって…







ちなみに主人公は声に出して呼ぶときは名前で「魅依さん」と呼びますが、心の中での独り言ではいまだに恥ずかしく「高瀬さん」と苗字で読んでいます。ややこしく感じるかもしれませんがご了承ください。

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