第十八話 『誕生日を祝おう①』
駅を出て自宅に向かう。
既に陽は沈みかけており、周囲の家々では夜の準備が始まっている。
朝に一度通った道を歩いているが、見慣れているはずの景色なのに、なんだか違って見える気がする。
その理由は、隣にいる彼女のせいだ。
高瀬魅依。学校一の美少女にして、数少ないというか数人しかいない俺に気づくことができる人。
そんな彼女とは、これまでも何度か並んで歩く機会もあった。雨の日にトラブルがあり相合い傘をする機会もあった。その時もだいぶ緊張していたのだが、今日は今までと違う。彼女は俺の誕生日を祝ってくれるためにわざわざ俺の家に直接足を運んでくれるというのだ。
………緊張しないわけがないだろぉ?
なんていうか足を進めるごとに冷や汗みたいなのがどんどん出てきてるんだけど?
ていうか、こんなありふれた状況でも高瀬さんって滅茶苦茶綺麗だよなあ…
「高瀬さん、顔が真っ赤ですけど何かありました?」
「え?いやなんでもないですよ!」
「本当に大丈夫ですか?もし体調が良くないんだったら…」
「なんでもないので大丈夫です!それより、もう暗くなってきたのでそろそろ葉山さんの家へ急ぎましょう」
「え、あ、はい。そうですね急ぎましょう…」
「大輔くん心の声が漏れてるんですって……綺麗って言われてしまいました…はわわわ」
というわけで。
「着いちゃったよ…」
「こうして葉山さんの家に来るのは、あの雨の日以来ですね」
「ですね…」
「前回はここで分かれましたが、今回はお邪魔させてもらいますよ葉山さん?」
「はい…」
とりあえずこのまま外に立たせているわけにも行かないので、気は進ままないまま玄関の扉を開け…
「ただい…」
「おかえり大輔〜!それで高瀬ちゃんはいらっしゃるのかしら〜?」
「いきなりすぎるだろ!…まあ来てるよ」
家に入って初っ端から高瀬さん目当てかよ。まあこんな俺の誕生日を祝いに来たってだけで十分驚きだもんな。というわけで…
「高瀬さん、どうぞ」
「はい」
まだ入ってきていない高瀬さんに声をかけた。
「こんにちは大輔くんのお母様、今日は葉山さんの誕生日をお祝いしに来ました。お邪魔かと思いますが…」
「あらあら〜!堅苦しいわよ〜?さあさあ入って入って〜」
「では失礼します」
玄関を上がってリビングに入り、ソファに高瀬さんを座らせて俺は床に座る。
……え、何でお前は床に座るんだって?まあ普通はお客さんを優先するべきだからね?
…いやちょっと待ってくださいよ。あのね?今まで彼女なんてものと全く縁のなかった俺が!女子の、しかもあの高瀬さんの横に平然と座れるわけないでしょうが!
「…………あの葉山さん?」
「はいなんでしょうか」
「……はあ、葉山さん。何で床に座ってるのかは大体察しがつくのでお願いです。ソファに座ってください」
「え、でも」
俺にそれはハードルが高いというか何というか…
「でもではありません。葉山さんだけが床に座ってるなんていいわけがないですし、そもそも今日葉山さんは主役なんです。という事で、はいこっちに来てください!」
「わ、分かりました!」
高瀬さんに言われるまま勢いよく立ち上が……れなかった。
まあ床に座っていた状態から一気に立ち上がるなんて馬鹿な真似をすれば、そりゃ立ちくらみの一つや二つはするってものだ。
立つ勢いそのままで前に倒れ、床に頭から…
「危ない!」
「あっ…」
床に頭を打つ直前に高瀬さんに抱き止められた。
怪我は避けることはできたのだが…
「大丈夫ですか葉山さん!」
「な、何とか…あの高瀬さ」
「良かったです本当に…」
(あ、当たってる!!当たってるって高瀬さん!!やばい柔らかい……極楽…はっ!これでは変態…)
そう抱き止めてもらった場所は女子の神秘が詰まった二つの果実(表現キモすぎぃ)であり、はっきり言って怪我とは別の男の獣欲が溢れてきそうなため、色々別な意味で危険なのだ。
「ちょ、もう大丈夫ですから…離れてもらって…」
「あっそ、そうですね!」
と、素早く俺と高瀬さんは離れた。
……柔らかかったなぁ、はっ!いかんいかんこのままでは何がとは言わんがいかんぞ!
一旦距離を取らねば…
「あの高瀬さん?」
「はいなんでしょうか葉山さん」
「同じソファに座っているとはいえ、何でこんな距離が近いんですか?」
「さっきみたいなことが起こらないように近くにいなければと思いまして」
必要なのは精神力…
あ、何か今なら悟りを開けそうな気がする…!
こんなペースだったらもう体もたないってこれ…
(でもやっぱり高瀬さん、いい匂い…はっ!気にするな俺、無だ!無になるんだ…)
夜はまだ、始まったばかり。
「大輔くん男らしい体つきで、意外といい匂いがしました…はっ!これでは変態のようじゃないですか…冷静になるのです高瀬魅依…」
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