ありえないぬ

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 ありえない事に直面したら、うちの犬はありえない行動をとる。


 例えばいつも遅く帰ってくるはずの父が、早く帰ってきた時とか。


 例えばいつも散歩にいくコースを通って、予防接種の病院に連れて行かれた時とか。


 例えばいつもオヤツをくれる時間なのに、飼い主が居眠りしておあずけ食らってたとか。


 そんな時にうちの犬は、顔をぎゅっとしかめながら、そのありえない行動をする。


「わわん、わんわん。わおーん!」


 歌ってでもいるかのような調子で吠えながら、その場をあっちこっち飛び跳ねるのだ。


 なんだか、まるでダンスしているみたい。


 一体なんでこんな行動をしているんだろう。


 家族みんな首をかしげながら考えてみたけど、原因はまったく分からなかった。






 その犬は予想外の事態に直面した時。


 ストレスを受ける。


 とても嫌な気持ちになる。


 なんだか心臓がきゅっとなる。


 けれど、嫌な気持ちになる事じたいは仕方ないと考えている。


 それは生きている限りさけては通れないからだ。


 しかし、嫌な気持ちは体の中にため込んではいけないものだから。


 だから発散しようと考えたのだった。


 嫌な気持ちが吹き飛ぶ時と、同じ事を。


 犬は思い出した。


 歌う様に吠えた時、家族が笑って楽しい思いをした事。


 踊るように走り回った時、家族が褒めてくれた事を。


 だから犬は、その行動をとる。


 予想外の行動でびっくりして、ストレスを感じた時に。


「わわん、わんわん。わおーん!」

「うちの犬は一体何を考えているんだろうな」

「でも、ずっろ見てるとなんだか、細かい事がどうでもよくなってくるわね」


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