第二十五話 国王との謁見

 翌日、僕たちはギルドに迎えに来てくれた馬車に乗り城に向かった。


「カミーラ、昨日はよく眠れた?」


「気持ちよかったですぅ! ふわっふわ! ふわっふわ!」


「そっか。カミーラは羽毛布団初めてだったんだ。マウリの里には無かったもんな」


「昨日はカミーラさんと遅くまでおしゃべりしてました」


 シンシアはニコニコしながら口を開いた。


「へー、どんな話してたの?」


「ふふ、それは秘密ですよ///」


「わー! でっかいお城ー! でっかいのですぅ! でっかいのですぅ!」


 僕も城に行くのは初めてだったので緊張した。




 城に着くと、さっそくアーサー殿下は僕たちを出迎えてくれた。隣には英雄アレスもいる。


 僕たちは城内を案内されながら話していた。


「ラルクさん、忙しい中来ていただいてありがとうございます」


「そんな! 殿下、こちらこそお招きいただいて光栄です」


 英雄アレスとも目で挨拶を交わした。彼は少々険しい表情をしている。


「殿下」


「わかってるよ、アレス」


「どうしたんですか?」


 何やら城内が騒がしく感じる。


「実は、今大変なことが起こっていて。ラルク、君にも協力してほしいんだ」


「何かあったんですか?」


「今から父上に会ってもらう。ちょうど他にもたくさんの冒険者が呼ばれていてね。緊急でみんなにクエストを依頼するつもりなんだ。本当はゆっくりお茶でもしようと思って君を招いたんだが、そうもいかなくなってね。すまない」


「いえ、大丈夫です。それより何が?」


「昨日捕らえたばかりのエリックが、昨晩脱走して、おまけに姫がさらわれてしまった」




 謁見の間に入ると、既に他の冒険者がたくさんいた。物々しい雰囲気の中、アーサー殿下と共に入った僕たちは注目を集めることになる。


「なんだアイツラ、見ねえ顔だな」

「まだ子供みたいだけどな」


 雰囲気で伝わってくる。ここにいる冒険者たちは只者ではない。全員がAランクかそれ以上だろうか。


 昨日酒場で会った『真紅の華』のメンバーたちの姿もあった。彼女たちも呼ばれていたようだ。




 さっそく、国王の挨拶が始まった。


「Sランク冒険者の諸君。忙しい中緊急に呼び出してしまってすまない。皆に集まってもらったのは他でもない」


(ここにいる全員がSランクだって? Sランクじゃないのはもしかして僕たちだけなのか)


「昨晩、度重なる犯罪行為により捕えていたエリックが脱走した。そして姫を、ワシの愛娘を連れ去ったのだ!」


 ざわざわ……ざわざわざわ……。


「許しがたい暴挙! 皆には一刻も早くエリックを捕らえ、姫を無事に取り戻してほしい!」


 国王は涙声で冒険者たちに訴えた。


 ざわざわ……ざわざわざわ……。


 そして、さっそく冒険者たちはそれぞれ駆け足で出て行った。それぞれが自分たちの情報源を駆使して、独自の調査を行うようだ。


「エリック、一晩で脱走するなんて……しかもよりによって姫をさらっただって? 一体何を考えてるんだ……」


「ラルクさん、なんとしても姫を見つけていただきたい。そしてエリックをまた鎖に繋いでほしいのです!」


 アーサー殿下は僕の目を見てそう言った。


「こういうことだったんですね。わかりました! 任せてください。それで姫というのは……えーっと、お名前は?」


「ああ、姫というのは父上が溺愛しているサリー王女のことです。僕の妹にあたります。あの壁にあるのが自画像です」


 そこにはキレイな、いかにもお姫様のような女性が描いてあった。


「わかりました。まずは情報収集したいですね。昨晩のエリックが脱走したことを知ってる人はいませんか?」


「そうですね。直接見張りをしている兵士に会いますか? エリックにやられて気絶していたようで医務室で休んでいますので」


「お願いします」




 僕たちは医務室を訪れた。


「彼が地下牢の見張りを担当していた兵士です」


「こんにちは、僕はラルクといいます。休んでるところ申し訳ありません。昨夜のことをお伺いしたいのですがよろしいですか?」


「どうも……」


 兵士は弱々しく頭を下げて返事をした。


「エリックはどうやって脱走したのですか?」


「うぅ、すいません……わからない……気絶してしまって覚えていないのです。物音がして、彼の牢屋に近づいてみると中で暴れていました。そこで意識を失ってしまって、気づいたら……もう全て終わっていました」


「そうなんですか。うーん……殿下、牢屋を見せてもらえますか」




 地下牢へと降りていき、実際に牢屋を見せてもらった。牢屋の鉄格子は壊された様子はない。


「この鉄格子、特に異常はないですよね。普通にカギを開けて出たのか。見張りを気絶させて、エリックを逃した人がいるってことですね」


「そうなんだろう。しかし兵士は何も覚えてないと言うし、手がかりがないんだよ」


 アーサー殿下は項垂れていた。


「アーサー殿下、あの兵士はウソをついてます」


「えっ!」


 アーサー殿下は、僕の顔を見てからアレスの方を見た。信じられないといった顔をしている。


「ええ、先程話した時の目線や挙動の不審さから、そんな印象を受けました」


「トムが? あ、彼はトムって言うんだが、長く城に務めていて忠誠心はかなり高いはずだが……アレス、何か感じたか?」


「そうですね。言われてみれば……いつもと態度が違ったかもしれません」


「アーサー殿下、お願いがあります。彼を医務室から出さないようにしてください。それとなく理由をつけて拘束していただきたい」


「わ、わかった。アレス、頼む」


「わかりました。しかし、ラルクさん、さすがですね。私は部下を疑うという発想には至らなかった。つい情をからめてしまってね」


「そんな、それが普通です」


「ラルク。君は僕たちとは別の角度から物事を見てるんだな。さすがだよ」




 その時、カミーラが何やらキョロキョロしながらこう言った。


「くんくんっ! 匂いがする! あの悪いオトコの匂い!」


「えっ、ホント? カミーラってそんなに鼻が効くのか?」


「ハッキリわかる! こっち!」


 こうして僕たちはエリックの匂いを辿るカミーラについていった。






──────────────────────


あとがき


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