第八話 戦闘メイド スサナとエルミラ

 ガルシア侯爵直属兵であるスサナさんとエルミラさんを相手に、素手による組み手や武器を使った戦闘訓練をすることが日課となる。

 起床後毎朝六時から朝食までの間に軽く。

 それから午前中の多くを訓練の時間に使う。


 二人の服装はタンクトップに、太股ピチピチのタイトなカーゴパンツ。

 第二夫人のローサさんも前は彼女らと同じ直属の兵だったらしく、二人より強いそうだ。

 今は子育て中心の生活でお休み中とのことで、いざという時は家とその周りを守る役目がある。

 アマリアさんは四つの属性が使える高位の魔法使いの兵として、ローサさんと同様の役目を担う。

 両人とも極力自分の子供は自分で面倒を見て、用があるときには乳母やメイドさんに任せる方針というから良いことだと思う。

 侯爵閣下は剣士として腕前は人並み以上だそうだ。

 パティもあの歳で三属性の魔法が使えるので、ガルシア家は全体的に戦闘力が高い。


 エルミラさんは金髪サラサラショートヘアの碧眼。

 イスパル王国南部のこの地方にはあまり金髪の人がおらず、イスパル王国北部の出身だという。

 背は私より高く、胸はCカップくらいでスラっとした身体だ。

 彼女は見るからに宝塚のスターのよう、凜々しく格好いい。

 後でスサナさんから聞いたのだが、想像通り女の子にモテモテだそうだ。


「いやぁ マヤ君は本当にお強い。

 攻撃は散々かわされるし、私もギリギリで避けているけれどまだ余裕がありそうで手加減されてるのがわかるから悔しいですよお」


 私は格闘術について、サリ様がプレゼントしてくれたのか過去世かこせの能力が目覚めてきているのか高い能力が最初からついていた。

 だからそう言われると申し訳なく思う。

 前世では格闘術なんてまったく経験が無かったが、さらに前の過去世かこせでは強かったらしく、女神様にあるはずの無い記憶を植え付けられたような感覚だ。

 さらに私の前世の記憶の中で、格闘漫画や香港映画のカンフースターをイメージしてやっている。

 シャオシャオ拳法の真似事は出来たけれど、あたたた拳法はさすがに無理だろうか。


 二人は素手の格闘が出来るが、スサナさんは中国の双刀と呼ばれる刀のようなものを使った二刀流。

 エルミラさんは槍を使った武器攻撃も得意だ。


 スサナさんの、回転しながらの刀の切り込みは剣の舞のように凄まじく、同時にキックも来るので躱(かわ)すのはなかなか大変だ。

 真剣でも良いとは言ったものの、本当に集中してやらないと身体の一部が一瞬で切り離されてしまう。

 エルミラさんは槍をまるで自分の身体の一部のよう自在に操り、突きがとても速い。 

 ガルシア侯爵はよくもまあこんな女傑じょけつを集めたものだ。


 魔物は、街の外はせっせと私設の討伐隊が退治しているし、強い魔物はまだ少ないのでそれで間に合っている。

 街には厚い壁があるのでそうそう魔物は入ってこないが、空を飛んでくる魔物に対してはどうしようもない。

 主に大きな蜂や羽アリのような虫型の魔物が多いが、鳥型もやってくる。

 そういう時は警備騎士団の中の魔法使い部隊や、私設討伐隊の魔法使いが応戦することが多い。


 スサナさんとエルミラさんは規格外の強さなので飛んでくる魔物でも武器でじゃんじゃんとやっつけていた。

 私はかまいたちのような技で、飛んでくる魔物を切り刻んで退治。

 数日に一度、こういったように出動し簡単に片付けられているが、二、三年前はもっと頻度が少なかったらしい。


 ガルシア家の専属護衛は非常に少ない。

 先にもあったが侯爵閣下は剣士、アマリアさんとパティは魔法使い、ローサさんも剣士と皆がそこんじょそこらの騎士より強い。

 それ故に専属護衛はスサナさんとエルミラさんだけなのだ。

 そこへ私が加わり、三銃士や三羽烏と言うと古くさいか。

 滅多に無いが侯爵が王都へ出向く少し長めの旅には、ローサさんが結婚前の時に付いて行き、結婚後はエルミラさんが担当したそうだ。


 スサナさんとエルミラさんは、何事もない平時は午後を中心に給仕服を着て他のメイドさんたちの手伝いをしている。

 コスプレみたいなミニスカメイド服ではない、ロングスカートのヴィクトリアンスタイルだ。

 お客様が来たときの案内や護衛もしていて、住み込みで専用の個室が用意されているのだから使用人として待遇が良い。

 スサナさんは童顔なので見たままの可愛らしいメイドさん。

 エルミラさんは給仕服の時だけスカートを履いており、美しく格好いい。

 だがキリッとした表情は冷酷に見えることもあり、スカートの中から武器や爆弾がゴロゴロと出てきそうな雰囲気である。


 メイドさんはスサナさんとエルミラさんを除いて現代日本で言うパートのおばちゃんばかり。

 シフト勤務制の通いで仕事をしていて、住み込みは少ない。

 人数が多い上に毎日出勤しているわけではないから、私はなかなかおばちゃんたちの顔を覚えられないからしばらくの間は困っていた。

 それでも陽気な国民性で陰湿なイジワルおばさんみたいな人は今のところ見かけないから良かった。

 頑として言えるのは、アニメみたいな若いメイド隊のハーレムではない。


 庭仕事をしたりする用務係のパンチョさんというおっちゃんと、マルシアさんというメイドのおばちゃん夫婦が住み込みで仕事をしている。

 二人ともよく顔を合わして仲良くさせてもらってるし、マルシアさんが作る料理は家庭的でとても美味しい。

 チュロスやチーズケーキなどのお菓子も作ってくれて、パティがそれらを食べているときは世界一幸福そうな笑顔をしているものだから、見ていて私も楽しくなる。

 私も甘い物は好きで日本のお菓子と比べても餡子あんこが無い以外は不自由なく美味しく食べさせてもらっている。

 若い身体だからまだ糖尿病を気にすることもないぞ。


 ガルシア家の食卓は庶民的なメニューが多いが、ガルシア家の皆が気に入っている。

 特に料理が上手なメイドさんたちが作っていて専属のコックはいない。

 パーティの時はケータリングといって外のお店からの出張調理で賄っており、効率的にやっているそうだ。


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 ある日の朝、いつものようにスサナさんとエルミラさんと組み手をしていた。

 スサナさんが優勢になり、うっかりヘッドロックを取られてしまった。


「へへーん、やりぃぃぃ!!」


 私の頬にスサナさんのBカップが押しつけられている。

 おおっ! この世界に来て初のラッキースケベイベント!

 アニメの中だけだと思っていたが、やっぱりこういうことがあるんだあ……

 なんとブラは着けていない!

 さすがに沈むような柔らかさではないが、ふにょんとした感触はいいものだ。

 それより女の子の汗の匂いというのはシャンプーリンスのような甘い香りというわけではないのに、どうしてこんなになまめかしいのか。

 でも苦しいので早めにいてもらうことにする。


「ちょっと、スサナさん! うっすらと胸が当たってます……

 放してもらえますかね。むぐ」


「あわわわわ……

 ――ん? うっすら?

 あー、そうかそうか。そうですか。マヤさんったらイヤですねえ。

 私より奥様の大きなおっぱいのほうがそんなにいいんだ!

 うりゃうりゃうりゃうりゃ!!」


「ぐあっ うええええっ!」


 余計に絞められてしまった。く、苦しい……

 スサナさんも、私がアマリアさんの胸を見てる視線に気づいていたのか?

 エルミラさんは大笑いで私たちを見ている。

 そんな感じでだんだん二人と打ち解け仲良くなっていった。

 登校前にたまたま窓から私たちの訓練を覗いていたパティが、ムスッといている顔だったのは言うまでもない。

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