キノコ男、フルスロットル! ~敏腕営業マンが異世界転生したら、ポンコツ乙女たちと平和な世界征服を目指すことになった~
第138話 名誉回復の大好機!! 戦うぞ、エルミナ団!! ~花火姉さんはもう始めてるってよ~
第138話 名誉回復の大好機!! 戦うぞ、エルミナ団!! ~花火姉さんはもう始めてるってよ~
久方ぶりの戦闘業務。
思えば、ここ数ヶ月は防衛戦がメインであり、このように敵地で行う戦闘となるとかなり記憶を遡る必要がある。
「ジオ様。敵についてご存じの事があれば、ご教授ください」
「ああ。先ほどから気にはなっていたのだが、あちらの緑の鎧を付けている兵は本国の帝国兵だな。私は面識がないのだが、伝え聞いていた情報を信じれば、翡翠の聖騎士が率いている軍のカラーリングだったはずだ」
ジオは帝国聖騎士時代に得ていた情報をエルミナ団で共有する。
だが、翡翠の聖騎士マチコ・エルドッセブンが本格的に軍隊を率いるようになった頃には、紅蓮の聖騎士ジオ・バッテルグリフは既にバーリッシュへと赴任していたため、肝心の敵である聖騎士の顔や体形などは不明と言う事実。
名前から察するに女性だろうと言う事は分かるのだが、そこは帝国軍もバカではない。
マチコ部隊には女性兵が多く、幹部クラスにも女性が多く登用されているため「あいつが指示を出しているから、聖騎士だ」と当たりを付ける事はできない。
「つまり、敵の親玉が分かんねぇって事ですわね?」
「はい。……いや、ステラさん!! あなた、どちらに行っておられたのですか!? 私ども、ずいぶんと探したのですよ!!」
ステラ・トルガルトさん。
長きにわたる行方不明からひょっこりと無事に復帰。
「ぴゃっ!? たけたけたけ、武光様!? そ、そんな! 皆様が見ておりますわよ!?」
「いえ。ご不便でしょうが、離しません。もうあなたにいなくなられると困るのです」
武光氏、ステラさんの手をガッチリホールド。
本当にいなくなられると困るため、これは譲れない。
「お、おうふ。これが会えない時間が深める愛ってヤツですわね!! おっしゃあ!! 武光様の嫁レースの先頭はわたくし!! ステラですわよ!!」
「あー。ステラくん? ちょっと良いかね?」
「なんでやがりますの? ジオ様? 気分がいいのでわたくし!! なんでも答えますわよ!!」
「君が従えている、そちらの兵団は?」
「兵団? ああー! この方たちはコンセプトカフェの人たちですわよ!! なんだか、ロギスリンで一旗あげたいらしいですわ!! パンケーキの味は確かでやがりましてよ!!」
「……なるほど。ええと、そちらの。君。ちょっとこっちに来てくれるかね?」
ジオ様。
慧眼を取り戻す。
的確にナハクソ・ガッテンミュラー隊長を指名すると、聖騎士の圧力で有無を言わせず召喚する。
ナハクソ隊長も優秀な男。
だいたいの事情を理解し、脳内でいくつかのシミュレーションをこなし、自分たちに残された選択肢と最適解を吟味する。
「ジオ・バッテルグリフ様とお見受けしました。小官はナハクソ・ガッテンミュラー。帝国軍隠密騎士団『スリラー』の隊長です。……あの、降伏いたします」
「貴官が優れた男で助かった。安心したまえ。紅蓮の聖騎士の名において、貴官らの身柄を引き受ける。悪いようにはしないと約束しよう」
隠密騎士団『スリラー』が特に何もしないまま、エルミナ連邦に降伏した。
何も隠密行動をしてないのに。
強いて言えば、降伏が隠密行動であった点が救いか。
その様子を見ていたエノキ社員も事情を把握する。
ステラの挙げた大金星を称賛しなければ嘘である。
「ステラさん。あなたはいつも、私の期待以上の成果を出してくださりますね。ありがとうございました。あなたの戦功で無駄な血が流れずに済みます」
「ん? え? あ、はい! なんかよく分かんねぇですけど!! 武光様が喜んでくださるなら、それでオッケーですわ!! よっしゃあですのよ!!」
とはいえ、スリラーの兵は約50人程度。
隠密作戦をメインに活動する彼らは少数部隊。
対して、翡翠の聖騎士マチコ部隊は300を超える。
既にロギスリン兵を手際よく制圧しており、実質的にこの戦いはエルミナ団とマチコ部隊のガチンコ対決の様相を呈す。
「ジオ様。小官どもも作戦行動に参加しましょうか」
「ナハクソくん。気持ちは嬉しいが、貴官の部下全員にいきなり数分前まで味方だった兵たちと戦闘せよというのは余りにも酷。恐らく、貴官は今後の待遇を考えての申し出だと思うが、気遣いは不要。我らエルミナ連邦は正義を旨とする国家。不義理な真似は決してしない。貴官らは、できれば邪魔にならぬよう後方に引いてくれるかね?」
「ははっ! 拝承仕りました!!」
ナハクソ隊長が敬礼したのち、部下に指示を飛ばす。
連携能力の高さはさすが隠密騎士団。
数分後には戦場から綺麗に居なくなっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
エノキ社員。
手からキノコを生やして出陣の準備。
「リンさん。紫茸を召し上がれますか?」
「あいさー。食べるのさー。ちょっとでもお役に立てるとボクは嬉しいのさー」
キノコのお裾分けも手慣れたものである。
共に立つのは、普段は絶対にこんな勇姿を見られない彼女。
「さ、さぁー!! 行きましょう! みなさん!! わたし! このエルミナが!! 防御魔法で皆さんを援護しちゃいます!! どうぞ、思う存分戦ってください!!」
「武光様? この畜生キノコ、偽物ですわよ? こんな綺麗なエルミナ様を見たことねぇですもの。わたくし」
「……ステラさん。今日ばかりはエルミナさんも本気なのです。あなたがおられない間、私どもは地獄を見ました」
「ね。武光。お師匠が呼んで来いって。来ないと近くにいる兵を手あたり次第ボコすって」
堕ちたままのエリーさん、従順に活動中。
「え゛っ!? エリーさんですの!? どうなさいましたの!? またおっぱいディス喰らったんですの!? 深刻に瞳の光がねぇんですけど!?」
「ステラ? 違うよ? エリーゼね、お師匠にもう一度賭ける事にしたの。だってね、お師匠すごいんだよ? ふふっ。ステラにもすぐに追いつくからね」
「……わたくしがちょっと噴水見に行ってる間に、何があったんですの?」
結局噴水も見ていないステラさん。
長期間の行方不明の疲労を考慮され、リンと一緒に後方支援の任就く。
「では、ジオ様。正面から攻勢をお願いいたします」
「任せてくれ。私とて、まだ若い聖騎士に遅れは取らぬよ」
「頼りにしております。では、私は逝って参ります。失礼。行ってでした」
「ああ……。エノキ殿の背中がなんだか小さく見える……。エルミナ様。こうなれば、私たちで敵を撃滅せしめるしかありません!! できるだけ早く!! 1分でも短く!!」
「そ、そうですねっ!! わたし、頑張っちゃいます!! そしてぇ! 無事にバーリッシュに戻ったら!! もう絶対に外には出ませんっ!! 怖いところには行きません!!」
「ああ! 私もできれば当分外交特使は御免被りたい!!」
エルミナ連邦のナンバーワンとナンバーツーが心を病んでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
こちらは花火姉さん。
彼女はバールを片手に敵陣のど真ん中を堂々と歩く。
「なんだ!? この女!? 非戦闘員か!?」
「せやで! ウチはか弱いお姉さんや!! ちっと迷い込んでしもうてな? ところで兄さん、そこそこ偉いやろ?」
「ふふふっ。見る目のある女だな! 小官は兵長を務めておる!!」
「あー! ほんま? やっぱなぁ! もう見た目からしてちゃうもん!! で? 兵長ってどんくらいの兵士束ねとるん? ほれ、言うてみ? 減るもんやないやろ!!」
「し、仕方のない女だ。小官は20人ほどの部下を持つ!! なんだ? お前、小官に惚れたか? んん?」
「せやなー。兵長さんなら悪うない……は? 20!? 少なっ!! ウチを口説くんなら、せめて2000くらい兵を率いてからもの言わんかい、ボケ!! おらぁ!! 死ねぇ!!」
「へげぇあぁぁぁぁっ」
「ふっ。他愛のないヤツやで」
「何をなさっておられるのですか、花火さん」
「お、武光! やっと来よったかー!! いやなー? こーゆう戦争やとさ? ウチとかおどれみたいな? 転生者とか言う謎の肩書のヤツが暴れ散らかした方が後腐れないやん? せやからさ、武光とランデブーしたろかな思うて! 呼んだっちゅうわけや!!」
意外とまともな事も考えていた花火姉さん。
武光もその意見には概ね同意する。
「さすが、私よりも長らく転生者をしておられたたげの事はございますね。ご慧眼に恐れ入りました。では、花火さんのご厚意にあまんじ」
「おらおらおらぁー! どかんかい、こらぁ!! ウチはキノコ男の部下やぞ!! 奥歯ガタガタ言わされとうなかったら、道空けんかい!! お、素直やん!! そーゆう態度、ウチ好きやで? ……おらぁ! 隙ありや!! 戦場で敵に頭下げるとか! アホか!! ウチのバールが火ぃ噴くのも当然やろが!! ……さっ! 行くで、武光!!」
「私。この戦いが終わったらとんでもない悪名をゲットしていますね。いえ、良いのですが。はい。汚名を被る事には慣れておりまのです。ええ」
榎木武光。
天を仰ぎながら、キノコをパクリ。
男が空を眺めるときは、涙がこぼれないようにするためと相場が決まっている。
これ、豆やで。
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