キノコ男、フルスロットル! ~敏腕営業マンが異世界転生したら、ポンコツ乙女たちと平和な世界征服を目指すことになった~
第18話 帝国軍西方第六騎士団とビジネスチャンスの気配 ~捕縛されそうでされないキノコ男~
第18話 帝国軍西方第六騎士団とビジネスチャンスの気配 ~捕縛されそうでされないキノコ男~
ヴァルゴ帝国の紋章が胸に印された鎧を着た兵士たちが、スラム街を歩いてくる。
「お、おい! あんたら、こんなとこに何の用だ!? ヤメてくれよ、オレら静かに暮らしてるだけなんだ!!」
「ええい! 黙れ、税金も払えぬ貧民が!! 邪魔をするな!!」
「そうはいかねぇ! ザーナルじいさんに頼まれてんだ!! あの人にゃ恩がある!!」
「なぁ、オレたちゃ何もしねぇから! 住処を荒らさねぇでくれよぉ!!」
「黙れと言っておるだろうが!! これ以上我々の職務の邪魔をするのならば、お前たちも牢獄にぶちこむぞ!!」
「ひぃぃ! なんて横暴だ!」
スラム街の住人たちは、まるで榎木武光の存在を守ろうとしているように見えた。
その理由はエリーが教えてくれる。
「ははあ。お主ら、ザーナルのじいちゃんに気に入られたんじゃな?」
「親切にしてくださったご老人がいらっしゃいましたが、お名前を伺っておりませんでした。ザーナルさんとおっしゃるのですか」
「あの人はこのスラム街の顔役だからね。ここに住んどる者は多かれ少なかれじいちゃんの世話になっとるのさ。ワシもこの場所を提供してもらったのじゃ」
「なるほど。これは後ほどお礼を申し上げに行かなければなりませんね」
だが、住人の奮闘虚しく帝国兵たちは着実にエリーの店の方へ歩いてくる。
外で待機していたルーナとステラが立ち上がる。
彼女たちはエルミナ団の一員であり、武光に懐いている。
そんな彼のピンチに何もしない乙女たちではなかった。
「おじさんたち、ストップ! ストップだよー!!」
「帝国軍の方々がこのような場所に何の御用でやがりますの? よろしければ、わたくしが聞いてさしあげてもいいですわよ?」
「今度は小娘か! 鬱陶しい!!」
1人の若い兵士が乱暴に2人を手で払いのけようとするが、それを制したのは集団のリーダーと思われる青年だった。
彼は「やめないか! 相手は子供とは言え、レディだぞ!! 帝国兵として正しい行いを心がけよ!! 皇帝陛下の信任に泥を塗る気か!!」と部下を一括した。
「す、すみません……」
「謝るべきは彼女たちにだろう! 申し訳なかった。小官は帝国軍所属、西方第六騎士団団長を仰せつかっている。クムシソ・ガッテンミュラーと申す者だ」
店の中で様子を伺っていた武光は「お話ができそうな方がいらっしゃいますね」と若く礼儀正しい団長の様子を伺う。
エルミナも「確かに紳士的ですね。話せば分かってもらえるかもです」と応じる。
だが、この後には残念な展開が待ち受けていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「別にいいよ! おじさん、良い人だね! えっと、クソムシさんっ!!」
「そうですわね! あなたは紳士として認めてやりますわ! クソムシさん!!」
「……小官はクムシソだ。それから、おじさんではない。まだ25歳だ」
「ほへー! クソムシさん、武光より若いんだー! 見えなーい!!」
「ですわね! 多分、その青ひげが原因でありやがりますわよ! 清潔感がないですわ!!」
ナチュラルに紳士を煽っていくスタイルのルーナさんとステラさん。
「……団長! 自分は、団長の青ひげ……好きです!!」
「よし。黙りたまえ。それ以上つまらない口を利くと、小官は剣を抜くぞ」
そして、ガッテンミュラーの沸点は意外と低かった。
彼は明らかにイライラした態度で、エリーの店に向かって警告する。
「この店? ……廃屋に、黒眼の男が入って行ったと言う情報は既に得ている!! 貴殿に良心があるのならば、周囲に迷惑をかける前に投降せよ!! 身柄はこのクムシソ・ガッテンミュラーが引き受ける!! どうにか流刑地送りで済むよう、上官に掛け合う事も約束しよう!!」
エリーの店の中では、武光が首をかしげていた。
疑問は共有すべきだと考え、彼はそれを言葉にする。
「質問、よろしいですか? 帝国では黒眼だと言うだけで迫害される事は分かりましたし、その差別の背景も理解しました。ですが、私の所在がすぐに露見した事。さらにガッテンミュラー氏の部下たちの目がやたらとギラギラしている事が気になります」
エリーが申し訳なさそうに口を開いた。
「それがこの帝国の風土なんじゃよ。今でも黒眼には多額の懸賞金がかけられてての。帝国金貨10枚。これは、そこそこの家が一軒建つ金額じゃ。密告だけでも帝国銀貨3枚もらえるしのぉ。異世界から来たお前さんには実感がないと思うが。実はお師匠様も黒眼だったのじゃ。……ワシは悔しいのじゃよ」
「エリーさんのお師匠様も、流刑地に送られてしまったんですね……。うぅ、かわいそうです!」
「いんや? お師匠様は帝国兵を20人ほど殴り倒して、普通に逃げて行ったよ? おかげでワシがスラム街で暮らす事になったのじゃ」
「ちょっとぉ! わたしの気遣いを返してください!! エリーさんのお師匠、むちゃくちゃ破天荒じゃないですかぁ!! 転生者を送る女神の立場で反省までしちゃったのに!!」
エルミナのリアクションがきっかけとなって、帝国兵が店のドアを蹴破り店内になだれ込んできた。
女神様は「えっ。わたしが悪いんですか? 違いますよね? 違います!」と、まず責任転嫁を試みる。
「失礼ながら、少々手荒な対処をさせてもらった」
「本当じゃよ。ワシの店になんてことをしてくれるんじゃ。お主、少しは見所があるかと思ったが、所詮は帝国の犬じゃのぉ」
ガッテンミュラーの部下が怒鳴り散らす。
「黙れぇ!! 黒眼を匿うことが既に重罪なのだ!! 貴様の店など知ったことか!!」
「よせ! 扉の修理費はのちほど支払う。……貴殿が報告のあった黒眼の男だな?」
武光はにっこりと笑って、名刺を差し出した。
「どうやら、そのようでございます。私、榎木武光と申します。エルミナ団の営業を担当しております。クムシソ・ガッテンミュラー様。少しばかりお話をさせて頂いても?」
「貴殿の潔さには感服する。それだけに、黒眼でなければと思わずにはいられない。すまないが、話は騎士団の屯所で聞かせてもらおう」
武光は「分かりました。伺いましょう」と答える。
だが、そこで意外な横やりが入った。
帝国兵が1人、大急ぎでガッテンミュラーの元へ走って来た。
彼は雑な敬礼をしたのち、団長に報告する。
「た、大変です!! 隣の居住区でモンスターが!! どうやら、指名手配中の密猟者が苦し紛れにモンスターの子供を放ったらしく! 引き寄せられるようにグロンドバードの大群が!! 既に住人を襲っています!!」
「なんだと!? 数は!?」
「す、少なくとも、20……! いえ、30匹はいるかと思われます!!」
「とんでもない大群ではないか!! 全員、すぐに現場へ向かえ!! 小官もすぐに追いかける!!」
部下たちは「はっ!」と返事をして、腰のサーベルを抜いて走り出した。
同時に武光の瞳が光る。
今こそ商機と、彼の中で脈打つ営業マンの血がたぎったのだ。
「ガッテンミュラーさん。私も同行しましょう。あなたがここへ残られたのは、私の身柄を確保するためですね? そういうことでしたら、私もあなたと共にモンスターの元へ向かえば、住人の方の救助ができるかと」
「確かに、貴殿の言う通りだ」
「手前みそになり恐縮ですが、我々エルミナ団はそれなりに戦えます。よろしければ、お役に立ちたいと思うのですが」
「……貴殿。何が目的だ?」
武光は丁寧に頭を下げた。
「目的は、何の罪もない方を1人でも多く、1秒でも早くお救いする事です。弊社の経営理念はグラストルバニアの平和でございますので」
ガッテンミュラーは数秒考えるが、すぐに決断した。
「分かった! 貴殿を信じよう! 緊急時につき、団長権限で貴殿らの行動を許可する!!」
「ありがとうございます。では、皆さん。お仕事ですよ」
武光の声にルーナとステラが「はーい!!」と応じる。
エルミナは「えっ。わたしも行かないとダメですか?」と驚きを隠しきれない表情。
「お主、本当に女神様か? ワシも行くから、観念するのじゃ」
「やだー! 嫌ですー!! モンスター怖いんですもん!! ふぎゃぁぁ!! 引っ張らないでくださいぃー!!」
エルミナ団、帝国領にて初仕事に取り掛かる。
~~~~~~~~~
ボリュームのある回がここ数話続いておりますが、これは「この辺から1日1話でいっても大丈夫やろ!!」と高を括っていた名残でございます。
なお、未だ軌道に乗らない拙作は2話更新をヤメると言う選択肢がございません!!
ちなみにもう数話すると文量が若干減ります!!
今日も死んだ魚の目で元気に2話更新!
次話は18時! お越しくださるのをお待ちしております!!
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