第252話 狂い始める歯車④ ※ショッキングな内容も含みます、注意してください※
――メリンダside―― (ショッキングな内容も含みます、お気を付けを)
「人の役に立つ薬を作るわ! そしてその薬はまず、私をあの屋敷から救い出してくれたクウカにあげる!」
そう言って何時もお父様たちに作っていた薬を多めに作り、毎日一本ずつクウカに飲ませてあげた。
クウカの狙いは私の身体だと分かっていたから。
なんて分かりやすい男なのかしら?
いやだわ、いやだわ。汚らわしい男。
それでも、箱庭の中にいれば、この男を好きに使えるようになれば、後はとっても楽になるのを分かっていたから、そしてこの薬を使えば生殖機能が無くなるのを知っていたから、笑顔でいつも飲ませて行った。
最初の頃は貪る様に私の事を欲したけれど、それも次第に無くなって私の言う事を聞いてくれる傀儡になってくれたのはとっても嬉しいわ。
生きる為の必要最低限の食事だけで、後は一日一本の薬と好きなだけお酒を飲ませてあげた。
一週間もすれば、私を欲することも無くなり一人で「マリシアが」とか「ナウカが」とか、如何に自分が優れているのかを宙を見ながら語りだし、もう安心だと理解するとホッとしたわ。
でも、此処には実験用のマウスが居ない。
クウカを実験用にするには勿体ないし、新たに作った効能が高い薬を飲ませるにしても、問題があった。
折角一カ月頑張って作り上げた新薬なのに、誰にも使われないなんて可哀そうだわ。
「ねぇクウカ、お願いがあるの。夜中にコッソリ、私の屋敷に……お父様の部屋に扉を作って? お父様を救いたいの」
「いいぞ? 俺はな――んでも出来る男だからな!」
「そうね、そうね、貴方は何でもできる優れた男性だわ」
そう囁けばクウカはヘラヘラ笑いながら、深夜モランダルジュ家の父の部屋に扉を作り、眠れず身体を掻きむしる父に会った。
「お父様?」
「――! メリンダ!」
「シ――……ですわ。他の者たちに気づかれてしまいますもの」
「メリンダ……嗚呼、早くワシに薬をくれ……気が狂ってしまいそうだ」
「そう思ってお父様だけに素晴らしい薬を作ってきましたわ。さぁ、落ち着いて飲んでくださいませ」
そう言うと父は私から瓶を奪い取ると一気に飲み干した。
途端グッタリとして動かなくなり、私は少し離れた位置に移動すると父の様子を観察していた。
次第に身体が痙攣しはじめ、失禁し、父は白目をむいて倒れたまま、暫く痙攣をおこしてから動かなくなった。
駄目ね、駄目ね、効能が強すぎたんだわ。
悲しいわ、悲しいわ、一カ月も掛けて作ったのに失敗するなんて。
父だった者に歩み寄り脈を測ってみるけれど、もう止まっているみたい。
もう少し効能が薄い薬を作らないと、直ぐに死んでしまうわ。
沢山の人のストレスを取る薬なのに、命まで奪っていたら救済にはならないもの。
嗚呼、でもどうしましょう、どうしましょう?
次は誰を使って実験すればいいのかしら?
私の事は絵も出回って今ではとってもお尋ね者。
誰も私の作った薬を飲んではくれないわ。
水だと言って飲ませるにしても、相手を選ばないといけないし、こんな時にマリシアがいてくれたら素晴らしい実験台にはなってくれたはず。
そのマリシアも、今は箱庭に入って行方知れず……会う事も出来ないなんて悲しいわ。
それならマリシアを私の許可なく連れ出した元お母様は?
嗚呼、駄目ね……お母様は今お城にある貴族牢に入っているんだったわ。
前に新聞を手に入れて来て貰った時に読んだもの。
お城にクウカの道を作ったら、あっという間に捕まってしまうわ。どうしましょう、どうしましょう?
もっともっと沢山の人に飲んで貰って、どこで薬の強さを止めるかを調べないといけないのに難しいわ、とっても難しいわ。
王都で余り派手に動くことが出来ないなら、クウカの言ったことのある場所に――そう思ったけれど、クウカは王都から出たことが無いって言ってたもの。
冒険者なら沢山薬を飲ませて、いい実験も出来たのに……案外役に立たないのがクウカなのよね。
「困ったわ、困ったわ……」
そう呟きながら箱庭に入ると、扉は閉じて亡きお父様の部屋からクウカの箱庭の入り口は消え去った。
どこかに実験できる人間が多い場所はないかしら? 足りないわ、圧倒的に足りないわ。
「ねぇクウカ、貴方が言っていたリディアと言う女性の箱庭には入る事は出来ないの? この際人間が多ければどこでも良いわ?」
「箱庭を」
「ええ」
「箱庭を乗っ取るとか――最高だよねぇ?」
「ええ、とっても素敵だわ!」
「乗っ取るならファビーの温泉だ。でも人間はウォーターサーバーからしか水を飲まない。俺が行っても怪しまれない箱庭って……どこだろうなぁ――?」
「もう! 教えてくださいませ! 死活問題なのよ? 大変なの、とっても大変なの!」
「なら、リディア様の箱庭が一番だよ? ガキも老人も沢山いるから実験し放題だぁ」
「じゃあ、クウカはその人の箱庭を乗っ取ることは出来ますの?」
「薬」
「え?」
「薬が無いと出来ないよ?」
「もう、一日一本って決めてますのにぃ」
残りの本数を考えて、暫く悩んでから一本手渡すと、クウカは一気に飲んで箱庭を弄り始めたようだわ。
これで実験し放題になれば最高ですけれど、入れるのかしら? どうなのかしら?
暫く見ていると、クウカの指がバチン! と音をたてて弾かれるのを見たわ。
アレは一体なに?
「はーん? 生意気」
「どうしましたの?」
「俺の事出入り禁止にしてんの。この俺を、この俺をまた出入り禁止にして!!! あの糞女! ぶっ殺してやる!! 殺して、殺して!」
「クウカ、落ち着いて? あの女って誰の事なの?」
「ウルセェ!!! テメーは黙ってろ! 女は男に傅いてりゃいいんだよ!! うるせぇうるせぇえ、うるせえええええ!!!!」
「ヒッ」
急に火がついたように怒り出したクウカから距離を取ると、言葉にならない恨み言を叫びながら箱庭を弄り、その度にバチンバチンと弾かれる音が聞こえ、最後は雄叫びを上げてから意識を失ったわ。
クウカの指を見ると焼け焦げて、これではもう使えそうにないわね。
箱庭師の事はなーんにも知らないけれど、拒絶されたと言うことなのかしら?
なによ、本当に使えないわ。駄目だわ、愚図だわ。
私だって実験したいのを堪えて堪えてと――っても、堪えているのに!!
「ここも安全じゃなくなったってことね。別の場所を探そうにも何処が良いかしら? 何処があるかしら?」
――そう言えば、以前私と婚約していた男性を思い出したわ。
盲目的に私を愛してくれた人だけれど、愛が重くて結局断ったのよね。
その人の所にまずは行ってみるかしら?
今も盲目的に私を愛してくれているなら、きっと匿ってくれるわよね?
裸で横たわる骨と皮だけになったコレはもう用済み。
そうね、そうね。
彼は王都の外れにある屋敷に住んでいたわ。
アカサギ商店の倉庫も沢山あるけれど、だからこそ隠れ蓑には丁度いいかも知れないわ。
クウカが起きたら行ってみましょう。
少し遠いけれど箱庭で移動すれば直ぐよね?
マクシミアン様は今も婚約者が決まらず一人でいるのかしら?
そうだったら、とってもとっても嬉しいわ。
そうしたらクウカともお別れね。
でも騒がれたら面倒だわ。
最後にお父様にあげた薬を渡して去りましょう、去りましょう。
明日は引っ越しね!
必要な物を鞄に詰めて向かいましょう。
こんな時はクウカが実家から持ってきたアイテムボックスが役に立つわ。
でも、クウカは結局その程度の男だったわね。
生殖機能を潰しておいて良かったわ。
私はとってもとっても価値のある女性なんだもの。
暇つぶしの相手と結婚なんて出来ないわ。
嗚呼、早く明日にならないかしら。
楽しみだわ、楽しみだわ。
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本日二回目の更新です。
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