第216話 お泊り保育③

――カイルside――



夜からは俺やライトといった男勢の仕事だ。



「皆にテントは行き渡ったかー?」

「「「「「はーい!」」」」」

「じゃあ使い方を説明するぞー!」



こうして、ワンタッチで開く子供用テントの説明に入った。

空はまだ夕焼け空で、今からなら丁度いい頃合いだろう。

近くに来た子供達に、ボタン一つで開く様を見せると興奮していたが、子供が片手で持てるくらいの重さのテントな為、皆が場所に移動するとポンポンポンと音をたててテントが開いていった。

それを地面に卸し、砂浜なので杭が打てない為、重しの石を端に置いて、中に寝袋と、ランタンを入れると完成だ。

子供達は大声で騒いでいたが、俺がリディアから渡されていた笛を吹くと、子供達は暫くして静かになり、俺とライトの元へと駆け寄った。



「今回使っているテントは子供用だが、触り心地なんかは城の騎士団が使っていたり、魔物討伐隊が使っていたりする品物だ。冬の行軍でも使う品と同じ材質だから、楽しむように」

「「「「「「スゲ――!!!」」」」」

「スゲーだろ! 俺の嫁さんが作ったんだぞ!」

「「「「もっとスゲー!!」」」」」

「さて、今から皆が寝る処の近くで焚火をするけれど、絶対に子供は近寄らない事。焚火は偶に爆ぜるからな」

「「「「「はい!!」」」」

「テントも近寄らせない事! 燃えるぞ」

「「「「「はい!!」」」」」

「今回は、夜ごはんはカレーを作るぞ! お泊り保育の時はカレーライスを皆で作る! 野菜が切れる子供達はいるか?」

「ママの手伝いで切ってます!」

「形綺麗に作れないけど」

「流石女の子だな! 男も料理が作れるようになるように!」

「「「「「はーい」」」」」

「料理が作れる男子には、『男飯』と言うのを教えてやってもいいが……」

「「「「男飯!!!」」」」」

「どうも、今回のお泊り保育にいる男子はママの手伝いをしてなさそうだなぁ?」

「「「「「これから頑張ります!」」」」」

「宜しい! 男飯が作れるようになるには料理スキルがそれなりにいる! シッカリとママの手伝いをするように!」



そう言うと、次はライトの出番になった。

ライトこそが今回の料理の要と言って過言ではない。



「私はあなた方の年の頃には一人で料理を作っていましたので、教えられることは多いと思います。分からない事があったら言って下さいね」



そうライトが言えば女子が黄色い悲鳴を上げた。

流石天使の様な見た目の我が弟、男子もライトの性別がどっちなのか判断に困っているようだ。

まぁ、美少女の様な男の子だから仕方がないが。



「今回のカレーにはご飯を使います。皆さんがお昼に良く食べているお米ですね。台所は少々お邪魔になるので、といでもらったお米を水に浸して持ってきて貰っています。男子にはお米を担当して貰いたいと思います。私が指示をだしますので、ちゃんと美味しお米が食べたい人は話しを聞いてくださいね」

「「「「「はーい!」」」」」

「男女が居るなら役割分担とはとても大事な事です。けれど、興味がある場合や、早く男飯が食べたい方は、女子の手伝いをしましょう」

「「「「「はい!!」」」」」

「では今から取り掛かります。今回はお泊り保育用に特別に、城に貸しているコンロを使いますので……特別ですよ?」

「「「「「「「おおおおお!!」」」」」」



子供も大人も「特別」って言葉に弱いよな。

特にライトの言い方は流石商売人というか……心を掴むのが上手い。

こう……「貴方だけに特別ですよ?」 と言われているような気分になる。ロキシーも大変だな。

こうして焚火を作るのはノイルとナインの仕事だ。

今日は既に店を閉めたノイルと、冒険譚をする為にやってきている鳥の瞳メンバーが揃っている。



「今回使う焚火には、王太子領や城に収めている炭を使うぞ? 使い方はノイル兄ちゃんが知ってるから良く見るように」

「城に収めてるの! すげえ!!」

「おう! この炭は特別でな、普通の炭より倍以上火が長持ちするんだ。使い方は――」



とノイルが説明しながら火をつけると、焚火はあっという間に出来上がっていく。

子供――特に男子は興味津々だ。

するとナインは感心したように口を開いた。



「簡単に火がつくのも凄いが、確かに長時間燃えてくれそうな炭だな。冬場には持って来いだろう。これはダンノージュ侯爵領でも売っているのか?」

「道具店では売ってるんじゃねーの? どうなのライト」

「売ってますよ」

「俺も冒険中に使う場面が出てきそうだ。今度買おう」

「有難うございます」

「ナイン様、冒険者でも外でこうやって泊まったりするの?」

「ああ、冬の行軍と夏の行軍では、冒険者達は行軍に参加する。冒険者は自分の事をなんでも出来なければならないからな」

「俺も将来冒険者になりたいんだ!」

「そうかそうか! 冒険は命がけだが、ランクが上がれば実入りも良い。それまでは大変だが、最近はサルビアのお陰で食事に関しては楽になったと聞いている。励むんだぞ」

「「「はい!」」」

「火をつけてくれたおっちゃんは、冒険者なの? ナイン様みたいな」

「おっちゃん言うな! 俺も王太子領ではSランク冒険者だぞ?」

「マジデー?」

「威厳なーい!」

「俺は庶民派な態度で接してるの!」



と、ノイルは子供達に言いたい放題言われているが、なんだかんだと愛されタイプだからか、女子も男子もノイルには甘えているようだ。

ナインさんに対しては尊敬の眼差しだが……そこは仕方ないだろう。

漂う威厳が違う。



「はーい! 今からご飯作るぞー! 早くしないと飯食えないぞー!」



そう言うと子供達はバタバタと駆け寄り、手を洗ってから女の子は野菜を切り始め、男子はライトからお米の炊き方指導を受けている。

それを見守る冒険者の目もあるからだろう、数名はとても真剣だ。

お米担当はライトに任せるとして、女子たちは不揃いな野菜を沢山作っていたが、俺は滅茶苦茶褒めた。



「流石日頃ママの手伝いをしてるだけあって、手際が良いな」

「本当!?」

「カイルお兄ちゃん私たち上手?」

「上手だぞ! ママも手伝ったら喜んでくれてるだろう?」

「お野菜が不揃いだーって口酸っぱく言われる」

「それは慣れだ、慣れ。でもパパは喜んで食べてくれるだろう?」

「パパはママの作ったのより美味しいって言ってくれる!」

「俺も娘が出来たら作って貰いたいよ。息子でも作って貰いたいな! 一緒に飯を作ったりするのも夢なんだよ」

「カイルお兄ちゃんなら大丈夫よ!」

「教え方もうまいもの!」

「嬉しい事言ってくれるな! 料理は笑顔で作らないとな!」

「「「「「「うん!」」」」」」


そう言って切った野菜を炒めるのは俺の仕事で、流石に玉ねぎを切っていた子は涙が止まらなかったようだが、顔を洗ってくるように言うと楽になった様だ。



「「たまねぎさんに泣かされた」」

「じゃあカイル兄ちゃんはその玉ねぎさんをシッカリと成敗してやろう。でも大変なのに切ってくれてありがとうな。最後まで諦めなかったのはとってもとっても偉いぞ」

「えへへ」

「がんばってよかったね!」



そんな会話を女の子達がしていると思うと――。



「ブクブクしてきた!!」

「蓋あけないと!!!」

「絶対開けてはだめです!! お米が美味しくなくなりますよ!!」

「開けなくて大丈夫なのか? 本当に??」

「今お米は中で暴れているんです! 蓋を閉じていれば抑えられます! 開けては美味しさに逃げられますよ!」

「なるほど……美味しくなるために逃がさない様に蓋は閉じておくんだな!」

「その通りです!」



と、ライトの方も楽しそうだ。

さてさて、それからややありつつもカレーは出来上がり、子供達用の椅子と机を用意した場所で食べることになったが、味は概ね好評で、不揃い野菜を笑う男子には、女子からの厳しい声が飛び交っていた。

リディア……俺の為には手作りでは作ってくれないよな。

前に頑張ってくれたクッキー……歯が折れそうなほど硬かったもんな。


こうして、食事を終えてお風呂に入った後は、子供達のお楽しみの冒険譚だ。

焚火近くに子供達が集まり、冒険譚を聴くために大人も子供も関係なく集まっている。

特にロックにしてみれば、怖くない冒険譚と言うこともあって入り口としては丁度いいだろう。



「さぁさぁお立合い。これは俺が体験した冒険譚だ。シッカリ聞いてくれよ?」

「ノイルだー!」

「どんな話だろ」

「ノイルのドジった話だ!」

「ははははは! 若い頃の冒険だからドジもあるさ! でも命に係わる失敗は何度もあってはならないが、それ以外のドジならいくらでも! さぁ、始めるぞ!」



――こうしてまずは、王太子領の冒険譚から始まる事になった。





===============

本日二回目の更新です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る