第200話 カイル、襲撃される。

――カイルside――



リディアがファビーの日帰り温泉の成功を祈っている間、俺のすべきことはと言うと、ダンノージュ侯爵領の元道具店を買い取った事と、新しい商売として【レンタルショップ・サルビア】を商業ギルドに登録した事だ。

初めて聞く言葉に戸惑っていたようだが、追々他の箇所から話を聞くでしょうと言うと、「カイル様のお店ですから信頼してます」と言われた。

信頼や信用を失う事はとても恐ろしいことだと言うのは理解している為、気合を入れなおして新たに朝から夜までの間に二人、夜から朝方までの従業員を二名雇う事にして商業ギルドを後にした。

未だに絵師を雇う事は出来ないが、多分王都の方に沢山いるのだろう。


この事はリディアに追々話をしなくてはならないと思いつつ、商店街へと向かい道具店サルビアを通り抜けて薬局を外から見ると、薬局では薬が欲しいお年寄りや持病持ちの方々も多く入っているようで、箱庭で生活している薬師たちが走り回りながら仕事をしているのが見えた。

これからの時期は質の悪い風邪も流行ると言うし、疲れを取る事と体の芯まで温める温泉が出来たことは僥倖だと言えるだろう。


そのまま真っ直ぐ歩いていくと、ママと赤ちゃんのお店も客の入りも悪くはなく、粉ミルクや紙オムツは飛ぶように売れていると聞いたことがある。

最近はリディアが1歳からの【フォローアップミルク】なるものも作り、離乳食が始まった子供用の補助的なミルクなのだと言っていた。

そちらは3歳まで飲んでも問題のない商品らしく、乳離れの出来ない子供の救世主らしい。


次に、まだ空き店舗ではあるが、近々オープン予定の甘味屋は、今パティシエ達が箱庭で研修中だ。

夕食にお菓子が出ることが増えた為、レインとノイルは本格的に身体を絞る決意を決めたそうだ。

Sランク冒険者の腹が出ていることは許せない事らしい。

俺も気を付けようと最近思うくらいには甘い物が出ているけれど、子供達や託児所の子供達のオヤツとしても消えて行っているらしい。

子供達にとってのオヤツタイムは、宝石を見るよりも楽しい時間だろうと想像が出来る。

そして、本日の目的その一の場所に到着すると――俺は店の中に入っていった。



「凄いな……広い店内に厨房も文句なしだ」

「カイル様、お疲れさまです」

「ほぼ改装は終わりました」

「有難うございます。これなら直ぐにでも人を募集してお店が開けそうですね」

「ははは、美味い安い早い店でしたか。我々も楽しみにしているんですよ」

「もう直ぐ焼肉屋の建設も始まりますし、一度王太子領の焼肉店に行ったんですが、あれは素晴らしいものですよ!!」

「此処でもそれが食べられるようになると思うと、どれだけの金貨の雨が降るのか分かりせんね」

「そうですね、建築にはどれくらい掛かりそうですか?」

「厨房は水回りだけ作って後は其方ですると言う話でしたので、三週間もあれば出来上がると思いますよ」

「早いですね」

「後は空き地を綺麗に整地すれば俺達の仕事は終わりですからね。空き地にはサルビアの花と日よけの広葉樹でも植えますか?」

「お願いします。後は木製のベンチがあると助かりますね」

「分かりました」

「水の魔石が勿体なくないと仰るなら、噴水も作ることが出来ますよ」

「それは良いですね、夏の時期にこそ噴水を多用して少しでも涼んで頂きたいので」

「ではそうしましょう」



そこまで話が纏まると、残り3週間でやるべきことは牛丼屋を開くためにジューダスの所から一人か二人ほどヘルプ人員を貸して貰う事と、後は調理師を雇う事だな。

前もって陶芸師の方々には土鍋の大きい物を多く用意して貰うように依頼を出していたので、それもそろそろ出来上がるころだろう。

アカサギ商店とも週に一度の割合で商品の買い付けもしているが、最近はアカサギ商店も儲けの殆どがサルビアに依存している状態でもあり、新しい商品を手に入れれば真っ先に見せてくれるようになった。

今日は朝からアカサギ商店にいたのだが、リディアに頼まれていた商品の他に、お試し商品で色々貰ってきているのでリディアに見せようと思う。



俺の考え的には、ある程度このダンノージュ侯爵領は潤ったと言って過言ではないと思う。

ネイルサロンも繁盛しているし、他の店も随分と繁盛しているのは明らかだ。

そろそろ祖父からも連絡がありそうな気もするし、もしダンノージュ侯爵領が祖父から見ていい方向に進んだと見たとしたら――次は王都に行くのだろう。

だがそれまでに牛丼屋と焼肉屋はオープンさせないといけない。


後は――テント関係を売りに出すのは、焼肉屋などが軌道に乗る頃だろうと思っている。

暫くはライトとロキシーにこちらを任せて、俺とリディアは王都の方が活動拠点となるだろう。

王都での商売がどのようなものがあるのかは分からないし、どの様に過ごしていくのかもまだ分からないが……一歩ずつ進んでいくしかない。



「もう一度商業ギルドで必要な人員を頼んでおくか……」



早めに店を開くにしても、人員確保は大切だ。

そう思った時だった――。

場所は丁度道具店サルビアの前で、俺の周りにシールドが展開されたと思った瞬間、刃物が弾かれるような音と共に、リディアから常に持たされていた【身代わりの華】の花びらが一枚散った。


――敵襲!?


直ぐに剣を手にすると冒険者の姿をした男は剣を抜き俺に襲い掛かってきた。

だがその動きは冒険者と言うよりは暗殺者向きの動きだ。

悲鳴が響く商店街の通りで、まさかダンノージュ侯爵の跡取りである俺が狙われたのだから周囲は騒然としたが、俺の背後から目にもとまらぬ速さでやってきたロキシーと、男の後ろから瞬時に現れたナインさんが武器を抜いて男を剣で動きを止めさせると、俺を狙っていた男は一瞬戸惑ったようだが、そこはナインさん……あっという間に地面に叩きつけて動けなくした。



「カイル大丈夫かい!?」

「ああ、リディアのお陰で助かった……。花びらが一枚散ったが」

「貴様! 一体どこの手の物だ!!」



そうナインさんが叫んで男の頭を上げた時には、男は絶命していた。

様子を見る限り毒を歯に仕込んでいたのだろう……何とも用意周到に俺を狙ったものだ。

直ぐに憲兵が現れ男は死んだまま連行されたが、その日の夜箱庭に急遽祖父が現れ、思いがけない事実が分かる事になる――。




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お越しくださり有難うございます。

本日も一日三回更新です。

そしてついに200話達成!

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