第179話 植物師からみた、箱庭とリディアの事。

――植物師side――



よく来たわね、あなた達が今回植物師として見習いで来た子供達かしら?

でも、良く見たら手伝いをしてくれいている子供達ばかりじゃない!

改めて自己紹介するわね。私は植物師のザザンダ、箱庭全体の植物を管理しているのよ。

ええ、無論、山や薬草や花々に関してもそうね。


植物師と言うのは、農作物を豊かに育てさせるというスキルを持っているけれど、この箱庭の植物たちは一味も二味も違うわ。

また一から説明するけれど、この箱庭のある植物は全て収穫してはいけないの。

全てを収穫すると、その植物は枯れてなくなってしまうのよ。

だから、そこだけは注意して頂戴。

必ず一つ、作物をそのままにしておくことが何よりも重要なの。

木の実もそうよ。

一つだけ残しておけば、たわわな実を二時間で実らせてくれるわ。


今でこそ4つのエリアに野菜、残り3つのエリアに薬草や布の材料、花が咲いているけれど、どれも大事な商品だから大事に扱ってちょうだい。

野菜は特に、孤児院や子供達が食べる食材としても提供しているから、朝から昼までの間に孤児院三か所への野菜や果物を収穫して鞄に詰めて、お肉は料理担当の方が詰めてくれるわ。

後はどうなのかって?

前日の話を聞いたうえで、リディアちゃんが荷物を入れてくれているわ。

時には洋服だったり、粉ミルクだったり、哺乳瓶だったり、オムツだったりね。


前はここまで広いエリアでは無かったのだけれど、幸福度が上がった事と、箱庭の神様のお力で増えたのだと思うわ。


此処の畑は収穫して二時間で新しい植物が実るけれど、その分管理はとっても大事なのよ。

植物って普通は受粉して育つけれど、ここではその受粉すら必要なく育つの。

それは異例なのよ。

だから大事に育てて、大事に管理して頂戴ね。



「じゃあ、何時も通りでいいんですか?」

「ええ、何時も通りで良いわ。ただし、何度も言っているように全部を収穫だけはしないで頂戴。とっても貴重な植物もあるから、枯らしたら箱庭の神様がとてもお怒りになると思うわ」

「「「「はい!」」」」

「いい返事ね、では、何時も通り孤児院への作物の収穫をしましょう」



そうそう、届けている方の話では、痩せこけていた子供達が私たちの野菜で少しずつふくよかに、元の子供らしい姿に戻りつつあるそうよ。

明日食べるのも必死だった状態から、毎日食事を摂れるようになったのが大きな変化ね。

私たちが毎日こうやって収穫して、子供達のお腹を満たしているから、子供達は健やかに育っているのだと思うわ。


ええ、私たちの頑張りが実を結ぼうとしているのよ。

毎日収穫して、新鮮なお野菜やお肉で子供達がお腹いっぱい食べられて、今ではお腹が空いたと泣く子供は殆どいないという話だわ。

お腹が空いて泣く事は何よりも辛い事。

それは、きっと子供達の面倒を見ているシスターが一番良く解っているはずよ。

私たちがしていることは、とっても重要なお手伝いなの。



「俺達が収穫した野菜で、ちいせぇガキ共がお腹いっぱい食えて、元気になれば、きっとそれが未来に繋がりますよね!」

「でも王太子領は就職率が低いから、孤児院から出た子供達が心配だよ」

「そこに関しては、今度王太子と話し合う際にリディアちゃんとカイルが何かを伝える為に色々考えているみたいよ。もしかしたら、王太子領を変えるような商売が出るのかも知れないわね」

「そうなったら、今孤児院にいる子供達の就職もしやすくなるな」

「前までの王様は自分たちだけが幸せになればいいって考えだったからな」

「俺達や孤児院の事なんて、誰もみちゃくれなかったし」

「王太子様も、結局はアタシたちの事は考えてはいたみたいだけど、一手が打てない状態だったんでしょうね」



子供たちは案外冷静に見ているのね。

確かに王太子様はお若いから、即動かせるようなナニカを持っていないのは確かよ。

王太子様がリディアちゃんみたいだったら違ったかもしれないけれど、リディアちゃんみたいな子の方が稀なのよ。

助かる命が目の前にあるなら、一刻一秒でも早く助けるべきだと思うし、王太子に任せていたら、あなた達は今頃死んでいたかもしれないわ。

フフフ、不敬罪になるような発言だけれど、実際そうのよ。

何事も後手で回していれば、助かる命も助からなかったんじゃないかしら。

特に、あなた達と孤児院の子供達は死活問題だったと思うわ。

王太子様はリディアちゃんとカイルに大きな借りが出来たわね。

本来なら王太子領が何とかすべき問題だったのに、それが出来なかったのは大きいわ。


確かに中には、国に任せるべきだったという人もいるだろうけれど、国が国民を助ける事なんて、滅多にない事なのよ。

そう言う人は、夢を見ているのね。

自分の理想の夢。

理想の夢だけでは、助かる命は助からないわ。

目の前に高熱を出している子供がいたとして『国がもう少ししたら助けてくれますよ』なんて言える?

直ぐにも死ぬか知れない命が目の前にあって、まぁ呑気な事って誰もが言うと思うわ。


何事も決断力は大事だし、その決断が遅れれば多くの命だって消えるわよ。

それが、リディアちゃんは嫌だったんでしょうね。

箱庭なら助けられると思ったから、あなた達を受け入れたのは間違いない事だから。



「俺達はリディア姉に助けられて良かったと思ってるよ」

「飲み水だって泥臭くないしな」

「特に赤ん坊なんて命に係わるもんな」

「そうそう。呑気な王太子に任せてたら俺達死んでたわ」



その王太子も、此れから少しは真面目に動けるようになればいいんだけれどね。

流石に今度は、リディアちゃんの喝は効くんじゃないかしら?


若い人は良いわよ。

仕事もあるならそれに越したことは無いわ。

でも、お年寄りや小さい子供は、どうしても早いうちに手を伸ばさないとね。



「でも、そう言うリディア姉の事を文句言う奴もいるんだろ?」

「カイル兄が言ってたぜ」

「城で、王太子の仕事を取ったとかなんとか」

「あら、人殺し一歩手前の奴らの事なんかほっときなさいな。平和ボケしてる人の話なんてただの自分の夢物語よ。実行性すらない奴らなんて、ただの煩いコバエよ」



そう言ってクスクス笑いながら野菜を収穫すると、子供達と一緒に三つあるアイテムボックスに野菜を沢山入れ込み、一日三食分のシッカリとした野菜を詰め込み終わると、手や顔を洗ってから同じ植物師の一人にアイテムボックスを手渡し、果物とお肉を入れて貰う為に走って行って貰ったわ。



「さぁ、無駄なお話は此処まで! 残りのお野菜も箱庭用に収穫しちゃいましょう! メモを貰っているからその分のお野菜を収穫するのよ」

「「「「「はい」」」」」

「あらまぁ! 今日の夕飯はカレーですって! 必要な野菜は、じゃがいも、ニンジン、玉ねぎ多めにですって」

「カレーってなんだろうな」

「さぁ?」

「スパイシーな味の、疲れもぶっ飛ぶ最高の料理よ! 私の大好物なの!」

「じゃあ、今日の昼は託児所の子供達の昼ご飯はカレーか」

「そうなるわね。それに副菜で野菜が欲しいと書いてあるわ。ジャガイモに人参にトウモロコシですって、お腹が今から空いてきちゃうわね」

「今日の昼と今日の晩飯、絶対美味いだろうなー」

「腹減ってきたや」

「さ、急いで収穫して持っていくわよ! 後は、おでん用の野菜と串屋用のお野菜もよ、どれだか覚えているわよね?」

「「「「覚えてます!」」」」

「宜しい! では急いで収穫よ――!!」



野菜と一緒よね。

急いで収穫しないと腐って落ちてしまいそうな子供達を、寸でのところで救う事が出来たことはとっても大きい事だわ。

それにこの箱庭があるからこそ、孤児院の子供達だって安心安全に食事が出来るのもあるし、今の貧しい王太子領ではとてもじゃないけど、此処までの野菜は用意できないわ。

リディアちゃんは一体どんな改革を提案するのかしら。

今からちょっと怖いけれど、楽しみね!!





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お越しくださり有難うございます。

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