第177話 錬金術師達からみた、箱庭とリディアの事。
――錬金術師side――
あら、あなた達がこれから研修に来る元スラムの子たちね。
私は錬金術師を纏める副リーダーのリンコよ。
あなた方に錬金術師での仕事を教えましょう。分からない事があったらその都度聞いてね?
錬金術師は、この通り他の作業小屋より大きくて調理師の次に人がとっても多いの。
中には調合に使う道具やクリスタルが沢山置いてあるから気を付けて頂戴ね。
一つでも間違うとボカーンって行っちゃうから、うふふ。
そうね、錬金術師の仕事は、とっても多いの。
ポーションに護符に傷薬、後は食器洗剤や洗濯用の洗剤と幅広いわ。
道具店サルビアで売っている物の大半は、錬金術師の品なのよ。
だから役割を持って、やらせて貰っているわ。
忙しいかって?
それは忙しいわよ。なんたって道具屋の生命線だもの。
だから私たちは毎日コツコツ、出来るだけ品質のいいものを早く的確に作る眼を持たねばならないのだけれど、それが出来るようになるのはスキル50くらいからね。
え? 皆さんのスキル?
上は最近50になった人が5人いて、一番下で30かしら。
でも、そんなに心配しなくても大丈夫よ。
スキル5になるまでは、只管クリスタル作りをして、それから【耐火の護符】で更にスキルは上がるから何とでもなるわ。
あらあら、もう失敗した時の心配かしら?
ふふふ、そんなに硬くならなくても大丈夫よ?
錬金術には失敗はつきもの。
それは、どの仕事でも言える事だけど、失敗は成功の基だってリディアちゃんが言っていたわ。
効率?
確かに効率は大事よ?
でも、その過程も私たちは大事だと思うわ。
結果が伴わない仕事は仕事ではない! って考えの人が多いけれど、この箱庭では、その過程さえもとても重要になるの。
真面目に働いていれば、それらは自ずと自分の為の力になってくれるわ。
それに、失敗したからって誰も叱りはしないわ。
だって、皆失敗しながらここまできたんですもの。
「じゃあ、次に依頼ボードを見てくれる? これはとっても重要なの。錬金術師の作業小屋ではこのボードこそ命と言えるわね。赤い依頼がズラリと並んでいるけれど、これだけ納品するものが多いっていうことなのだけど、安心して頂戴。一度も納期を伸ばしたことは無いわ」
「何故ですか? こんなに沢山あるのに……」
「だって、毎朝リディアちゃんが各所の作業小屋を回って、最後にやってくるのがこの錬金術師の作業小屋なの。そこである程度の納品分が終わるまで一緒に作業をしてくれるわ。私も錬金術師スキルレベルは50あるけれど、リディアちゃんはもっと上ね。とっても早くてとっても丁寧に作ってくれるから、私たちも負けないくらい良いものを作りたくなるの」
リディアちゃんは箱庭の中を毎日走り回っているわ。
それは、各作業小屋の進捗状況の確認や、間に合わないところがあればそこにヘルプで入って一緒に作ってくれるからよ。
倒れるとしたら、真っ先にリディアちゃんが倒れるんじゃなかって私たちスキル持ちの意見よ。彼女はそれ位、忙しく走り回っているの。
でも、絶対に弱音は吐かないわ。
楽しそうに仕事をしてくれて、周りの雰囲気をとてもいい状態に保ってくれるの。
だから、皆集中はするけれど、楽しく仕事が出来るのよ。
「スキル上げのやり方やコツはシッカリと教えるわ。だから安心して失敗為さい。失敗は恐れるものではなく、上手く出来たら喜んでいいの。だってこの箱庭は、そんな風に皆が働いているんだもの」
「でも、材料の無駄は」
「材料の無駄があってこそスキルは上がるという考えね。私たちも難しいものに挑むときは失敗もするわ。簡単な物を作る時にすら失敗をするの。でも、それを気にしていたら仕事は進まないし、納期は迫るだけ。時間は待ってもくれないし、私たちの失敗の悲しみだって時間と言うのは関係ないのよ。ただただ進んでいくの。だから、失敗した分だけ、また最初から焦らず、ゆっくり、深呼吸をしてから進める。これがコツよ、どんな仕事でもね」
そう言うと見たこともない機材の見学や、彼女たちが使うであろう道具は既にリディアちゃんが用意してくれていたから、沢山の魔石が用意されているわ。
レベル5までは魔石の研磨、クリスタルの作成。
極まれに、幾らスキルがあっても、自分には合わないという人も中に入るわ。
そう言う人たちは率先して、魔石をクリスタルに変える作業をしてくれているの。
それでクリスタルが尽きることが無いのよ。
お年寄りの割のいい仕事と言う感じかしら? 特にお年寄りに多いわ。
無論、私たちも休憩の合間にクリスタルは作るけれどね。
箱庭では、魔石を研磨したクリスタルを使用して品質を上げているけれど、他の店では、魔石のままアイテムを作るのが一般的よ。
クリスタル自体が高いんですもの。
でも、好きなだけ失敗をして良いというリディアちゃんの言葉で、皆遠慮なく使わせてもらっている事だけは忘れないでね。
「では、早速魔石の研磨から始めましょうか、手や指先に魔力を通せば研磨作業を行えるから一つずつ教えていくわね。最初はコツを掴むのが難しいのよ」
「お願いします!」
「あの、お給料って頂けるんですか?」
「見習いの子には月銀貨5枚もらえた筈よ。頑張って見習いから抜け出してね」
「「「はい!」」」
「錬金術はスキルと知識が重要よ、勉学にも励んでね」
「「「はい!」」」
「うん! とてもいい返事だわ!」
元スラムの子だからどんな子たちかと思っていたけれど、娘達とあまり変わりのない、普通の子だったのね。
ふふ、うちの娘も今頃頑張っているのかしら。
「あなた達の作るアイテムが、冒険者の命を救うアイテムになる事も、忘れないでね」
「私たちの作ったアイテムが……ですか?」
「ええ、子供が怪我をした時の傷を治す薬にもなるわ。あなた達の持つ錬金術には、それだけの力があるの。錬金術は毒にも薬にもなるスキルよ。あなた達はどうか、毒を作らず薬を作り続けて欲しいわ」
「「「……はい!」」」
「そして新年を祝う際には、花火を一緒に作れるようになっていることを楽しみにしているわ。箱庭に来たこと、箱庭の神様へのお礼を兼ねてね」
「「「――頑張りますね!!」」」
こうして、見習い三人仲良く魔石の研磨作業に入ったわ。
中々筋が良さそうで、此れなら直ぐにスキルも上がるでしょう。
リディアちゃんは言っていたわ。
やる気こそが、上達の秘訣だって。
この三人の女の子たちも、きっと驚くほど上達が早いでしょうね。
私たちも負けて居られないわ!
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本日二回目の更新です。
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