第168話 池鏡に住んでいる、箱庭の神様。
朝は久しぶりに二人して寝坊しましたわ……流石に連日の疲れが溜まっていたようですわね。
先に目覚めたカイルの音で気が付きましたけれど、既に昼近くまで眠っていた様で、重い体を何とか持ち上げベッドから降りると、歯磨きや着替えを済ませて休憩所へと向かいましたの。
今日は休みの日。
お年寄りたちも温泉で楽しんでいるのか鼻歌や歌が聞こえてきますわ。
「箱庭も随分とデカくなったな」
「ええ、休みの日に子供達と箱庭の神様の住む場所を作る約束をしていましたわね。紅茶を一杯貰ってから子供たちの許へ向かいましょう」
「そうだな、それからでも薬局を見に行くのは遅くはない」
そう言って二人で休憩所に行くと、既に子供達がおやつの時間でしたわ。
あらあら、わたくし達、お昼ご飯過ぎまで眠っていたのね。
「こんにちは皆さん」
「「「「こんにちは!」」」」
「カイル兄とリディア姉は今まで寝てたのかよ」
「ええ、連日の疲れが出たみたいで」
「来週も忙しいからな、今日は紅茶を飲んだら皆で箱庭の神様の家を作りに行こうな」
そう言うと、孤児のリーダーであるロックがおにぎりを食べながら頷いてますわ。
すると、わたくし達の為に料理担当の方々がおにぎりを作ってくださいましたの。
簡単なノリで巻いた塩のおにぎりは、苦みが少しある緑茶に会いますわね。
今度麦茶が無いか、アカサギ商店に聞いてみましょう。
食べ盛り、育ち盛りの子供達は、女の子はそこまでではないにしろ、男の子はおにぎり大皿三つをぺろりと食べるのだと料理担当の方が教えてくれましたわ。
お昼の最初のオヤツでこれなら、午後はどうなるのかと問いかけると、やはり同じように、おにぎりが人気なのだとか。
「簡単な塩のおにぎりでも沢山食べてくれますからね」
「何とも作り甲斐のある子供達ですよ」
「そうですわね、沢山食べて沢山寝て、来週終わりくらいからスキルチェックや勉強も始めないとですわね」
「俺達は、カイル兄とリディア姉の為に頑張るって皆で話し合ってるんだ」
「箱庭に来るまで、温かい飯なんて食ったことなかったもんな」
「赤ん坊たちも、リディア姉が開発したって言うミルクのお陰で肉付きも良くなったし」
「夜も夜泣きが前は酷かったけど、ミルクを上げるとすんなり寝てくれるようになったもの」
「見守られてるってのは分かるんだけどさ。夜中と明け方に爺さん婆さん達がきて、跳ねのけた掛布団を掛け直していってくれてるのは、ありがてえよ」
「まぁ、そうでしたのね」
「ムズ痒いんだよな……。嬉しいんだけどさ」
「今までアタシたちは愛されてこなかったから、爺さんや婆さんたちの愛情はくすぐったいんだよ。でも嫌じゃないんだよ? なんか、嬉しいけど恥ずかしいってやつ」
「箱庭の神様にお願いしたら、爺さん婆さんの寿命のびねぇかな」
そんな事を話す孤児だった子供達は、おにぎりを食べながらもお年寄りたちの事を気にかけてくれている様子。
ご飯係りの方も、孤児たちがこんなにも素直な子だったとは最初は思っていなかったようですけれど、今ではとても素敵な子供達だと理解してくれていますわ。
それに、孤児院に持っていくお野菜の収穫も手伝ってくれていますし、ザザンダさんがとても褒めていらっしゃいました。
緑茶とおにぎりでお腹を満たしたわたくし達は、その後手を洗ってから皆さんで池鏡のある広場へと向かいましたの。
箱庭の神様が住むのなら、此処ではないかと子供達からの案でしたわ。
そこで、池の隣に小さな祠を作る事にしましたの。
木材はヒノキで、カイルが作ってくれましたわ。
子供の一人は、持ってきていたおにぎりをお供えし、子供の一人は、コップに入ったお水を備えて皆さんで手を合わせましたわ。
本当に居るのかどうかも分からない神様。
箱庭に神様がいるにしても、いないにしても、こうやって感謝の心を育むと言うのはとても大切な事。
けれど、もし神様が居るとしたら――わたくしがこの世界に転生してきて、転生先の実家での苦しい事にめげずにいられたのも、神様のお陰かもしれませんわ。
この箱庭は癒しの箱庭。
それは、きっと幼いわたくしが一番求めていたものだったのかもしれない。
箱庭師と言うだけで、家族からはつまはじきにされ。
メイド達からも良くしてもらえず。
居場所が無くても、箱庭にはわたくしだけの居場所があった。
いつも池鏡から外の様子を見て過ごし、結局、「マルシャン公爵は娘を大事にしていない親だ」と周囲に言われ始めてから、お金だけは好きに使えるようになった。
使えるものは使おうと、畑を、薬草を、花を、木を沢山揃えて箱庭でせっせと育て、ご飯を貰えないなら野菜を育てようと野菜を育てはじめ、あらゆるスキルを磨き始め……あの時から今に至るまで、長いようで短い時間でしたけれど、密度の高い日々をおくれたと思いますわ。
それに、親に愛されなくとも、前世ではシッカリと両親に愛された記憶が残っていましたもの。
突然告げられた病気で死ぬまで、わたくしは最後の最後まで頑張りぬいたけれど、助かることが無かった。
前世の両親より先に死んだことだけが、唯一の心残り。
だからこそ、癒されたかったのかも知れないし、許されたかったのかもしれませんわね。
そうやって暫く祈っていると、池から光が湧きだしていることに気がつきましたの。
「まぁ、皆さん池を見てくださいませ!!」
「なんだ!?」
「「「「「わぁ!」」」」」
沢山の光が沸いては祠に入り、キラキラと輝く光は御供え物のおにぎりをパクリ、パクリと消していき、水も綺麗に飲み干すと、嬉しそうに光が子供達の周りを舞い、池の中へと消えてきましたわ。
思わず呆然とするわたくしとカイル。
まさか本当に神様がいるなんて、思いもしませんでしたわ。
子供達は歓喜していて、池と祠に手を合わせていますわ。
「俺達を受け入れてくれてありがとうございます!」
「アタシたちを幸せにしてくれてありがとうございます!」
「オレたちは箱庭の為に、カイル兄とリディア姉に尽くします!!」
「かみさま、ありがとお!」
沢山の子供達のありがとうの言葉が響き渡ると、小さな光が池から出てきて、子供達の上を飛んでからわたくしの許へ飛んでくると、優しく頬を撫でるように光りは動いてから池に戻りましたわ。
神様は……池に住んでいらっしゃったのね。
「カイル」
「ああ、これは一大事だな」
「ええ、まさか本当に神様がいるとは思いませんでしたわ」
「でも、滅多に会う事は無いかも知れない。子供達の素直な心に出て来てくれたんだろう」
喜び合う子供達を見てカイルはそう言うと、この事は子供達からお年寄りに、女性に、箱庭全体に伝わり、朝は毎日池でお祈りをする方々が絶えなくなるのは、もうしばらく後の事――。
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本日二回目の更新です。
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