第167話 牛丼! 豚丼! 親子丼! 最期のカツ丼の丼祭り!
――カイルside――
一日頑張った後の、つゆだく牛丼と味噌汁。
つゆだく汁と肉とご飯と味噌汁のハーモニー……。
「~~~~うめぇ!!」
「だろう! だろう!? 牛丼は正義なんだよ! 正義なんだよ!!」
「カイル煩い」
「静かにして欲しい」
「仕事疲れでハイになってるんだろうさ」
「可哀そうなこって」
「憐れむな、ノイルにレイス。俺は今日一日頑張ったんだ。と言うか最近ずっと走りっぱなしなんだ、カロリーが欲しい」
「「そうか……」」
「私は腹を絞りたい」
「奇遇だなレイン、俺もだよ」
そんな話をしながら牛丼をかき込む俺達に、リディアはニコニコしながら食べ終わる頃、次の丼ぶりを持ってきた。
「こちらが豚丼ですわ」
「「「「「豚丼」」」」」
「牛丼よりもアッサリしていますけれど、豚には疲れを取る作用がありますの。シッカリとカイルは食べてくださいませね」
「リディア……」
リディアの優しさが五臓六腑に染みわたる……。
俺が最近頑張っているからか? そうなんだな?
でもリディアも頑張ってるよ、そんなに頑張らなくていいのに頑張ってるよ!
そう心で叫びながら豚丼を口に入れると、確かに牛丼よりもアッサリとはしているものの、食べ応えは十分だ。
「これが」
「豚丼」
「ナスノ、豚丼好き」
「肉増しで食べたい」
「その辺りは後でお話しますわ。次の丼が出来上がりますから皆さんガッツガッツたべてくださいませね!」
「「「「次の丼がくる!」」」」
最早腹を空かせた俺達は、一心不乱に豚丼を食べた。
肉を食べると幸せになると言うが、本当に幸せだ。
それにつゆだくの米も上手い。きっと土鍋で炊いたんだろう……手が込んでいる!
全員が食べ終わる頃、今度は見たことも無い黄色い丼がやってきた。
卵だろうか? 優しい香りがする。
「此方は親子丼ですわ」
「「「「親子丼」」」」
「卵と鶏肉を使った丼物なんですけれど、卵は滋養強壮もあり、体調が優れない方にもそれなりに食べて頂けますし、一緒に入っている玉ねぎが疲れを取ってくれますわ。胃に優しい丼ものですわね」
「そいつは良いな。爺共なら親子丼を頼みそうだ」
「では食べてみて下さいませ」
そう言うと俺達は親子丼を食べ始めた。
流石に三杯目と言う事もあり、勢いこそは少なくなっていったがまだ俺の胃はご飯を求めている。
美味い……優しい味が染みわたる。
「確かにこいつは良いな。リディア嬢、俺はどっちかというと親子丼の方が好みだ」
「ジューダスさんは親子丼が好みですのね。では、最後に50食限定メニューもお出ししましょうか」
その言葉に、一度食べたことのある俺達は顔を上げてリディアを見た。
一日50食限定の、あの、あれが、あれがくるのか!!
「ああ、カツ丼とかいう奴か」
「ええ、ハールさんが今豚肉を揚げてくださっていますから直ぐですわ」
どうやらジューダスの所には、マームさんと仲の良いハールさんが来ているらしい。
そして、良い香りが漂ってくると、暫くしてカツ丼がやってきた。
大きめのカツが出汁のきいた汁と卵に愛されて……ゴクリと全員が喉を鳴らす。
「これで全ての丼が出し終えましたわ。さぁ、最後に至高のカツ丼で〆てくださいませ!」
リディアのその一言を皮切りに、全員が一心不乱にカツ丼を食べる!
ハールさんの作ったカツ丼も美味い!!
力が蘇るようだ!
ガッツリ系の頂点、カツ丼、程よくガッツリ系の牛丼、アッサリ系の豚丼に、優しい親子丼。
この四つを食べきった俺達は、ハールさんが用意してくれたアカサギ商店から手に入れた茶葉で入れた少し渋みのある温かい緑茶を飲みつつ、溜息を吐いた……。
「どうかしらジューダスさん。これが丼ものですわ」
「最高だな、作り方は見せてもらったが、暫く一人程補助に借りさせてもらって、後はもう一度従業員を雇って回せそうだぜ!
それと、肉増しに関しては追加料金を支払えば出来るような感じにすればいいな。丼物も、特大、大、中、小と選べる方が良い。だがこのカツ丼ってのはアレだ。限定50食なんだろう? もうちっと増やそうぜ。直ぐ売り切れちまう」
「そうですわねぇ……作る手間も結構掛かるのはジューダスさん見ましたでしょう?」
「おう……確かに作る手間だよなぁ」
「カツ丼に掛かりきりになる人を二人にして作れば、何とかなりそうですけれど」
「そうなると研修期間が長くないとできなくなるな。だが、俺はカツ丼も提供したい」
商売の事となるとやはりジューダスも思う事があるんだろう。
何とかカツ丼を牛丼たちの仲間に入れたくて必死の様だ。
すると……。
「でしたら、私がジューダスさんのお手伝いとして、カツ丼部隊に入りましょうか?」
「ハールさん、宜しいのですか?」
「ええ、私は慣れておりますので、私かジューダスさんが揚げるか、丼のタネを作るかにすれば何とかなるかと」
「となると、ハールさんはジューダスさんの所で働くことになりますが、宜しいので?」
「元夫と出くわすのは困りますが、厨房にいるのであれば何とかなります。牛丼屋は朝何時から開店になるのでしょう?」
「そうだな、仕込み時間もあるから、朝の8時にはオープンしてえな」
「では、仕込みもある程度手伝いたいですし、箱庭からでしたら通いましょうか?」
「いいのかハール」
「ええ、私は構いませんがリディア様とカイル様の許可が無いとなんとも」
そう言うと二人は俺達を見つめてきた為、リディアと悩んだ末「仕方ないか」と頷きあった。
確かにカツ丼を一人でサッサと作っていくのは難しい。
どちらかが揚げ担当にしないと追い付かないだろうし、冒険者も商売人もゲン担ぎをしたい奴らが多いんだ。
絶対に爆発的に売れるだろう。
「分かった、ハールさんがそう言うなら俺達も止めはしない。ただ、厨房内に入り口は作らせてもらうぞ? 元夫には会いたくないだろう?」
「ええ、絶対に会いたくもありませんし顔も見たくありません」
「じゃ、厨房に一か所出入り口を作っても大丈夫か?」
「おう、別に良いぞ。ハール、これから俺を支えてくれ」
「分かりました、シッカリと支えましょう」
お? なんか良い雰囲気だな。
ハールさんは糸目美人だし、彫りの深い目力のあるジューダスとは真逆の顔だが、案外いいコンビになるんじゃないか?
「では、従業員に牛丼担当、豚丼担当、親子丼担当、味噌汁担当をそれぞれ雇わないといけませんね」
「調理師スキルを持つ奴なら何とかなりそうだ。俺がもと雇っていたやつらはまだ就職先が決まってないっていうし、声を掛けてみる。ハールはそいつらにも作り方を教えてやってくれ。問題はウエイトレスだな。直ぐに声を掛けてみよう」
「ええ、明日の朝一番に募集をかけると良いと思います。食器洗い担当も欲しいですね」
「それでしたら、食器乾燥機を作りましょうか? 箱庭にあるような感じで」
「それは良いかもしれません」
「食器乾燥機? なんだそりゃ」
「ロストテクノロジーで作る、食器を乾燥する機械の事ですわ。洗い場がこんなに大きいんですから、雇用を増やす為にも食器洗い担当の方を二人ほど作って、上の所に炎と風の魔石を一個ずつ入れれば一日は使える食器乾燥機を置けますから、直ぐに丼が出せますわよ。器がないって言うのだけは避けたいでしょう?」
「それもそうだな、コップ用も出来れば頼みたい」
「分かりましたわ」
「夜は丼を終わらせて角打ちをするから、角打ちが始まる前にハールを帰せばいいな」
「そうですわね」
「じゃあ時間は朝の8時から昼の15時までが丼物屋で、夜18時から夜中2時までは角打ちをやるよ」
「睡眠時間が足りなくないですか? そこはせめて、朝8時から昼の14時まで、そして夜17時から夜中0時までにするべきです」
「そ、そっちが良いかハール?」
「ええ。貴方の身体があってこその店ですよ? 身体は労わらないと持ちませんわ」
おおおお。
普段気の弱いハールがジューダスにシッカリと意見を言えている。
これにはリディアもびっくりしているようだ。
「リディア様。是非ジューダスにも疲労回復効果の温泉に入って頂きたいです」
「ああ、休憩時間の合間に入りに来るんですね」
「ええ。そうすれば私も少しは安心できます」
「構いませんわ。ジューダスさんなら問題は無いでしょう」
「お? 俺も箱庭の温泉に入れるのか?」
「ジューダスさんなら大丈夫ですわ」
「ありがてぇ。俺も気になってんだ。それにハールの言う時間でやれば、一時間は温泉に入れそうだな」
「そうですよ。一日一回、シッカリと疲労回復して商売を続けていれば、きっと長く良い商売が出来ます。ジューダスさんの身体の為ですよ」
「お、おう……ありがとなハール」
もう、くっ付いちまえよ。
と言う言葉が喉まで出かけたのは、俺だけじゃない筈だ。
この二人、上手くいくんじゃないかってくらい雰囲気が良い。
「ではブレスレットを作って置きますわね。ジューダスさん専用ですわ」
「おう、頼むぜリディア様」
「それと、食器乾燥機も今作ってしまいましょうか」
「頼む、こっちだ」
そう言うとリディアとハールを連れてジューダスは厨房に消えていき、暫くすると乾燥機が出来上がったのかジューダスが「すげええええ!」と叫んでいるのが聞こえた。
コップ専用と、丼物や汁物専用の食器乾燥機が出来たようだ。
後はジューダスの言っていた調理師を雇い直し、レシピを使えば素人でもなんとか作れる品物だがハールさんは妥協を許さないだろう。
「カイル! 本当にロストテクノロジーってもんは凄いな!」
「ああ、凄いぞ。一度設置すると早々壊れないし、長く使えるらしい」
「後は、牛丼等を研修で作って、皆さんで食べるのは無理がありますから、今度この様な店をしますよ~って配ってみるのも良いかもしれませんわね」
「実食での宣伝か」
「ええ、それでしたら料理も無駄になりませんし、試しに食べる為の紙皿は用意しますわ」
「無駄はいけませんね。私も感心しません」
「そうか……そう言う宣伝方法もあるか。よし、研修に二日ほどシッカリ覚えて貰ってからの本格オープンにしよう。それまでに年寄りでも良いからウエイトレスを雇って、後は食器洗いも雇おう。そうと決まれば明日から動くぜ!」
「オープンが決まったら教えてくれ。ハールはどうする?」
「そうですね、ジューダスさんが言う方々が決まり次第伺おうと思います」
「急いで見つけてくるから、待っててくれよハール!」
「ええ、お待ちしています」
こうして俺達も沢山食べて満足した事だし、ジューダスも牛丼屋と角打ちをすることを決めてくれたことだから、後は温泉に入って疲れを癒そう……。
明日は久々の休みだが、リディアは薬局を見に行きたいそうなのでそこまでは一緒に行き、後は休日寝て過ごすんだ。
エッチな意味じゃないぞ! 俺は反省したんだ!!
こうして、俺達は厨房に道を作りそこから箱庭に戻ると、温泉に入って疲れを癒し明日に備えることにした。
夜はまた定期的な話し合いが行われるのは仕方ないが、それは毎度のことだ。
ゆっくり休もう……。
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